7.6.冬眠
「と、冬眠……?」
「はい」
至って冷静に話す鳳炎に、俺たちは固まっていた。
唯一クライスだけは、その言葉をもう一度だけ口にすることができた。
……お、おう、マジか。
確かに零漸は亀だけど……本当にこいつ冬眠してんの?
亀は変温動物だ。
だから冬になると活動を停止してしまう。
零漸の今の種族はまだ亀だし、確かに冬眠していてもおかしくはない。
それが人間の姿でも行われるとは思わなかったが……。
はて、でも俺はどうなのだろうか。
俺も変温動物だったし、零漸と同じ様に冬眠してもおかしくは無いと思うのだけど……。
……俺、そう言えば龍の成り損ないだったわ。
蛇でもないし、龍でもない。
つまり……冬眠を必要としない体なんですね。
なんか複雑なんだけど。
「零漸の体は少し特殊なのです。あり得ない程の硬度、強度、更に耐性を有していますが、彼にも弱点があるのです。それは冬。寒くなると思うように体が動かなくなり、その時期だけはこうして眠りについてしまうのですよ」
「で、では零漸は雪が解けるまでこのままだというのか!?」
「春になるまでは、恐らく目は覚まさないでしょう」
「そんな……」
お、上手い事誤魔化したな。
まぁ他の人の前で零漸の種族を言っても絶対に信じてもらえないだろうし、鳳炎の取った行動はとても良い物だったと思う。
しかし、零漸が冬眠か。
その考えははなから頭から抜けていた。
人間の姿で冬眠するとか、想定する事なんてできないからな。
そう言えば、外を歩いている時も雪が降っていた。
まだ多く積もってはいないが、零漸が眠ってしまうのは雪が降り始めた時なのだろう。
三日前は、初雪が降った。
それはサレッタナ王国でも同じだったのだろう。
「な、なんとかできないのか!?」
「……私には、難しいですね……」
鳳炎は涙ながらに懇願してくるクライスを見ながら、真剣な眼差しでそう言った。
恐らく、今の零漸はどの様な状況であっても起きることは無いだろう。
まさかこんなことになるとはな……。
ウチカゲも抜け、零漸もこの調子。
パーティーとしては問題なくやって行けるだろうが、俺が人の姿を取れない。
喋れないというのは何処までも厄介な物だ。
さて、これからどうしようか……。
部屋を暖めれば零漸を起こすことができるか?
いや、でも無理に起こした後、零漸がどうなるか分からん。
別に大した問題はないのかもしれないが、俺のことを伝えていない状態で起こすのはあまり良くないな。
ていうかこの部屋十分暖かいし。
鳳炎が技能を使って部屋を思いっきり暖めても、起きることは無さそうだ。
んー……。
こんな状況じゃ、城の書庫を貸してもらうなんてことは出来なさそうだな。
どうしようか。
「クライス王子。お父上は今何処に?」
「ま、まだ帰って来ていない。あと一週間後に帰ってくるらしいぞ」
「呑気な……」
まだ帰ってなかったんかい。
まぁ、城の関係者としては都合が良いのかもしれないけどね。
だって事後処理全部できるし。
なんかまだ頑張っているみたいだけど。
「鳳炎、どうするー?」
「零漸がこの調子ではな……。クライス王子、誠に申し訳ないですが、零漸はこのままここに置いておいても大丈夫でしょうか?」
「勿論だ! 余の親友であるぞ!」
「有難う御座います。この部屋であれば暖かい為、もしかすると何かしらの拍子に起きるかもしれません。そう言えば、三日前に零漸になにか異変はありませんでしたか?」
「ん? ……そう言えば……」
クライスは、フォークとナイフを持つ動作をした後、こういった。
「腹が減ったと言ったので、城にある食料を沢山食べたぞ?」
「……溜め食いか……」
『溜め食いだな。マジでこいつ起きる気無さそうだから、今は俺のレベル上げに専念しないか?』
「それが妥当であるな……」
鳳炎の独り言に首を傾げるクライスだったが、何か考えがあるのだろうと思い、その事を口に出すのは止めた様だ。
とりあえず零漸はこのままここに放置だ。
それで問題ないだろう。
ここなら安全だろうし、もし何かあっても零漸の防御力を貫通できる技能持ちなんて、人間にはいないはずだ。
とりあえず、今は俺のことを優先させていただこう。
零漸には悪いけどな。
という事で、俺たちは零漸を置いたまま、一度城を出たのだった。
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