3.15.アレナ救出作戦会議


 宿に帰ってみるとサテラとウチカゲが待っていた。

 ウチカゲは一人で情報を集めているのかなとは思っていたが、サテラの警護をずっとしていたそうだ。

 特に盗人とかが入ってきたという事はなかったのだが、俺を探しに行くことができないとして随分困っていたようだ。

 すまんかった。


 とりあえず本題に入る前に買ってきたものを見せておく。

 本当はサテラの服も買っておきたかったのだがサイズがわからないからな。

 買う時はアレナと一緒に買ってあげることにする。


 収納袋を見せるとウチカゲは目を見開いて驚いていた。

 どうやらとても貴重なもののようだ。

 これを持っているのは高ランクの冒険者だったり商売人くらいなものらしい。

 それを金貨二枚で手に入れたと言ってまた驚いていた。

 本来は白色金貨三枚くらいする物らしい。


 あのイルーザと言う人物は一体何者なのだろうか……。


 あとは水魔導書・初級を見せた。

 これも初級とはいえ、随分と高価な物らしい。

 重版はされているようなのだが、コピー機などこの世界にはない。

 全て手書きだ。


 三百ページ弱の本を手で書き上げるのは相当な時間と気力、労力を使うだろう。

 本自体の価値ではなく、書き手の手間賃が高額のようだ。


 この本はサテラが興味深そうに読んでいた。

 俺も読んでおかなければならないからな。

 サテラと一緒に勉強することにする。


 しかしサテラは水魔術は使えるのだろうか……?

 もう一度イルーザのいるところに行ってみてもらったほうがいいかも知れないな。


 さてと……そろそろ本題に入らなければ。


「ウチカゲ、サテラ。聞いてくれ。アレナの居場所が分かった」

「本当!?」

「一人でどこに行かれたかと思ったら……買い物だけではなかったのですね」

「そりゃそうさ。で、場所なんだが……ラムリー家と言う貴族の所に奴隷として購入されたようだ。用心棒にSランクの冒険者がいるようだが……ウチカゲ。ラムリー家のこととその用心棒のことについて何か知っているか?」


 噂のことは此処では話さないようにしておく。

 サテラが聞いているところでこの噂を伝えるのは不味いだろう。

 ウチカゲがこのことを知っているかはわからないが、知っていても今の状況では話はしないだろう。


 ウチカゲは思い出すように上を向いて首をひねっている。


「ラムリー家……のことあまり知りませんが、用心棒をしているSランクの冒険者の事なら知っています。この街では有名ですからね」


 それからウチカゲはラムリー家の用心棒をしているSランクの冒険者のことを教えてくれた。


 魔法を得意としている冒険者で名前をレクアム・ソールマルトと言うらしい。

 この世界では珍しく、ソロでSランクになった冒険者の一人で火の魔法を得意としており、森を焼け野原にすることも容易いと言われているほどの実力者だそうだ。

 だがそんな実力者が何故貴族の用心棒をやっているかは謎に包まれている。

 と言うのも、ラムリー家の用心棒をしているという事だけが知られており、実際に何をしているのかはわからないのだという。


 ギルドとしてもSランク冒険者には依頼を受けてもらいたいそうなのだが、一向に出てくる事はなくただラムリー家にはいますよ、という事だけがギルドに通達されているらしい。

 それもラムリー家の当主から。

 本人ではないかもしれないという事で一度ギルドの職員が出向いて確認を行ったそうなのだが、その時は普通に出てきて挨拶をしたのだという。

 だが何をしているのかまでは依頼人との約束で伝えることはできないと突っぱねている。


 そもそもこのレクアムは、一体何を成し遂げてSランクになったのか……。

 数年前……レクアムがAランクの時に、今まで解読不可能だった古代文字を解読したのだという。

 その文字を魔法陣の基盤に取り入れてみたところ、今まで使って来た魔法陣の三倍もの威力を確立させることに成功。

 それを軍へと提供し、魔導兵たちの強化に尽力を注いでくれた人物としてその功績が認められ、Sランクの冒険者になったのだという。

 古代文字を解読してそれを今まで使っていた魔法陣に取り入れることで、Aランクの冒険者を遥かに凌駕した力を手に入れたレクアムは、本当の意味でSランク相当の冒険者になったのだという。


「もしかしなくても結構厄介な相手?」

「俺でも手をだしたくありません。接近戦ではこっちに分があるかもしれませんが、向こうもそれの対策を何かしらしているでしょうからね」

「てなると……気が付かれないように救出がベストか」


 難しいかもしれないが、俺とウチカゲなら何とかなるだろう。

 別に戦うこと前提で侵入するわけではなかったしな。

 無事に脱出できたらそれだけでもいいのだ。


 となるとまずは、操り霞でアレナのいる場所を確認してから侵入するほうがよさそうだな。

 どちらにせよ一度ラムリー家に行かなければならない。

 今から行って様子を確かめて夜に出直す形で行くことにしようか。


 そのようにウチカゲに提案すると簡単に納得してくれた。

 なのでもう一度外に出て情報を集めに行こうとしたとき、サテラが声を出した。


「あたしはどうしたらいい?」

「……サテラ。お前は帰ってくるアレナのためにここで待っていてくれ」

「ううー……わかった」

「いい子だ。今日中には連れて帰ってくるからな」


 サテラの頭を優しく撫でてやる。

 まだ少し残念そうにしているがこれが一番いいのだ。

 悪いがサテラを連れて行っても足手まといにしかならないし、危険だ。

 危険すぎる。

 レクアムに出会わなければそれほど危険はないだろうけど、もし出会ってしまえば一巻の終わりだからな。


「よし、じゃあウチカゲ。俺は偵察をしてくる。帰ってくるまでサテラを頼む」

「任されました」


 ウチカゲの返答に頷いてから、もう一度宿を出てラムリー家に向うことにした。



 ◆



 片道二十分と言ったところか。

 そこにラムリー家の屋敷はあった。

 門の前になんか石像とかあるけど趣味悪いと思う。


 ナニコレ悪魔?

 建物自体は白くて綺麗気なのにこの石像がその清潔さをぶち壊している。

 誰だこれ設置した奴。

 センスなさすぎるだろ。


 まぁ俺は人様の家の形に難癖をつけに来たわけではないので、とりあえず屋敷の前を通り過ぎる。

 曲がり角を曲がってその角で待機。

 壁に背を預ける。

 そして操り霞をラムリー家に展開。

 これで探りを入れる。


 庭。

 これは屋敷の塀を超えたところから確認できたものだ。

 中にも妙な石像が何個か置かれている。

 夜には入りたくないような館だな。


 俺は霞を館の中に展開してみる。

 王家の人たちには及ばないがそれでも立派な家だ。

 絨毯が敷かれていたり扉や柱に様々な彫刻や装飾が施されている。

 部屋も沢山あり使用人らしい人物が何人も歩き回っていた。


 一階には様々な使用人。

 厨房や食卓、暖炉や部屋など沢山ある。

 二階に行くと一気に歩いている人が少なくなった。


 ラムリー家のお偉いさんが仕事をしている様子だったり、子供が部屋で遊んでいたりと様々だ。

 しかしシルエットだけではどのような人物なのかは詳しくはわからない。

 でも奴隷らしき人物は館内にはいなさそうだ。


 はて? ではどこにいるのだろうか?

 部屋をくまなく探してみるが、隠し部屋などはなさそうだ。

 別荘があるのかと思い、その辺に操り霞を展開してみるがそれらしき人物はいない。

 どこか遠くに配置しているのかとも思ったのだが、ギルドの職員が来た時は出てきたと言っていた。

 なのでこの館のどこかにはいるはずだ。


 これだけ探しても見つからないという事は、操り霞を大きく展開したとしても見つかることはないだろう。

 隠し通路……あるいは地下があるはずだ。

 とりあえずこの近くに地下室があるという前提で操り霞を展開させて捜索してみることにする。


 館の一階に操り霞を展開させ、それを地面に下ろしてみる。

 操り霞は隙間さえあれば入り込んで部屋を見つけることができる。

 少しでも地面のシルエットが見える場所があるならそこが地下室の入り口のはずだ。


 すると操り霞の一か所が地面に沈んだ。

 すぐさまその場所に操り霞を展開させて、そこがどこかのかを突き止める。

 どうやらここは倉庫のようだ。

 木箱が乱雑に置かれていて土嚢袋のようなものが投げ捨てられたり、汚れた家具が置かれていたりしている。


 その部屋の隅……ここに反応があった。

 何故探していて気が付かなかったのか確認してみると、どうやら木材で作られた扉ではなく、床と同じ石材で作られた完璧な隠し扉だったのだ。

 だが幸い操り霞の一片が小さな隙間に入り込み奇跡的に見つけてくれた。

 この技能マジ便利。


 中を見てみると階段ではなくて梯子で降りるタイプの地下室だ。

 俺はその中に操り霞を一気に展開して中の構造を確認した。


 一瞬で中の構造が頭の中にシルエットとして入ってくる。

 改めてこの操り霞の技能の説明をするが、この技能は操っている霞が触れた場所をシルエットとして映し出してくれる。

 箱なら箱として正方形のシルエットが、人なら動きに応じて映し出してくれる。

 しかし映し出してくれるのは操り霞を展開している部分だけである。

 それ以外の場所では確認することはできない。


 しかし映し出してくれた物は、ほぼ完璧にシルエットとして俺の頭の中に映し出される。

 触れているからな。

 完璧に再現してくれるのだ。


 操り霞は地下の構造、中にある物。

 それを見た俺は絶句した。

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