3.16.地下室
地下室。
簡単に言ってしまえば牢獄だった。
ニ十個程度の牢屋の中に数人の奴隷らしき人物が押し込まれている。
全員で……約五十人と言ったところだろうか。
全員が寝ているのか、ぐったりとしていて動かない。
唯一の一本通路は長く続いており、牢を通り過ぎると今度は左右に扉が現れる。
扉の数は八つ。
一気に操り霞を展開してしまった為その中身も見てしまう結果となった。
中には手枷が天井からぶら下がっており、壁には磔にするための手枷、足枷が何セットも置いてあった。
そして背の高いベットが置かれていた。
他の部屋三つも同じような構造で、一つの部屋には数人の人物が磔にされている。
もう四つの部屋には椅子が三つ並べられていて、妙な薬品が置かれているような棚がひしめき合っていた。
一つの部屋にはまた薬品、もう一つの部屋には工具が置かれていて、次の部屋には水槽が。
最後の部屋には本棚に本が並べられていた。
しかし杖のようなものが何個か置かれており、その杖の一番上には宝石のようなものがくっついている。
これだけを見ただけでも良からぬことをこの地下で取り行っていることは確かだった。
まず不思議なことが、牢に捕らえられた奴隷たちが一切動かないという事だ。
詳しく観察してみると息はしているようだったので死んではいない。
だが今は夕方で、人が寝るには早すぎる時間帯だ。
一人や二人ならまだしも全員が寝ていると言う所が気になる。
そして一つの部屋で磔にされている人物たち。
これは明らかにおかしい。
奴隷という人物たちは何かに使われることを目的として販売されているはずだ。
だが何故拘束して動けないようにしているのだろうか。
その答えはちょっと考えたらわかる。
それに先ほどの椅子や工具、他にも薬品の入っているような瓶などを確認できた。
このことから察するに人体実験を行っているのだろう。
ドルチェの野郎……何が売る相手を見て販売しただ。
想像以上に最悪のことが起きてるじゃねぇか。
ラムリー家はこのことを知っているはずだ。
なんせ奴隷を購入したのはこいつらだからな。
だが貴族が好き好んで人体実験なんてするか?
答えは否だ。
そこでこの館に仕えている用心棒のことを思い出す。
レクアム・ソールマルト。
こいつが真っ先に思い浮かぶ。
レクアムは研究をして古代文字を解読したと聞いた。
恐らく研究熱心な人物なのだろう。
その研究の対象が少し拗れてしまったか……それとも誰かに言われてしているか……。
どう考えても前者だな。
誰かに頼まれてやってるっていうならギルドの職員が来た時に顔なんて出さないし、まず奴がいる場所を偽るのが普通だろう。
それに依頼主が邪魔するだろうしな。
レクアム・ソールマルト……想像以上に危険な人物なのではないか?
こんな部屋で研究をしているってんなら相当狂ってるぞ。
人を躊躇なく攻撃できるタイプの人物であることは間違いないだろう。
先ほど見つけた部屋を確認しながら考え事をしていたが、実はまだ先に部屋があるのだ。
この地下の最深部……。
そこは仕事部屋のような場所で様々な本や本棚、そしてベットが一つ。
さらに研究の為かビーカーらしきシルエットも見れる。
扉を入った真正面には大きな机と椅子があり、そこに誰かが座って何かを書いているようだ。
恐らく……いや十中八九こいつがレクアム・ソールマルトだろう。
シルエットの為、容姿は完全に把握することはできないが、姿からして魔術師だという事はなんとなくわかる。
しかし……ずっとこの部屋にこいつがいるのか……。
救出は難しそうだな。
出口は一つで廊下も一つ。
あいつが部屋から出てきたら瞬時に見つかってしまう。
隠れるところがないからな……。
俺だけだったらなんとかなるかもしれないが、アレナだけを動かすのは難しそうだ。
なので俺は人の姿でなければならないし、ウチカゲにも来てもらった方が救出できる可能性は上がるだろう。
グヌヌヌヌ……。
どうするべきか……。
嘘をついてあいつをこの地下室から出すか?
難しいだろうな……。
深夜に訪問客とか怪しまれるに決まっている。
てなれば戦うか?
この狭い場所で?
そうなれば奴隷にも被害が確実に出る。
これは却下だ。
ならばあいつが出てこないことを願って救出するか?
これが一番いいのかもしれないがもし出てきた場合は、先ほど言った通りのことが起こることを覚悟しておかなければならない。
どれもこれもリスクが高すぎる……。
レクアムがあの部屋から出てこない保証は一切ない。
だからこそ難しい。
寝てくれないかな。
そんな都合のいいこと起きないか……。
よし、このことは持ち帰ってウチカゲと相談だ。
とりあえずアレナらしきシルエットを探すとしよう。
とりあえず牢獄に操り霞を集中させて子供を探してみる。
すると子供だけが収容された牢を発見することができた。
子供だけが収容されている牢は二つだけしかない様だ。
やはり誰も動かないが、生きてはいるようだ。
一体何をされたのだろうか。
子供の数は五人だ。
身長からして小学三年生くらいの子供たちである。
丁度アレナとサテラくらいだろう。
ここにアレナがいてくれることを願う……。
とりあえず奥の部屋にいる磔にされている人物も確認してみたが、子供はいない様だった。
悪いことだとはわかっているが少しだけ安心してしまった。
大人たちよ、すまないがもう少しここで耐えていてくれ。
俺が何とかしてやる。
絶対に全員助けてやるからな。
場所は確認できた。
子供の場所も確認済みだ。
後はあいつをどうにかしなければならない。
とりあえずいったん帰ろう。
俺一人では決めることはできないからな。
操り霞を消して眼を開ける。
捜索に少し時間をかけてしまったようだ。
もう空が茜色になりつつある。
俺はラムリー家を後にして一度宿に戻った。
◆
ウチカゲに今まで見てきたことを話してから宿を出発した。
サテラは留守番だ。
一人だけなので少し心配だが、宿の店主にウチカゲがきつく言ってくれたようなので大丈夫だという。
まぁすぐに帰ればいいからな。
作戦だが、ウチカゲの提案でとりあえずもう一度地下の様子を見てから決めることにした。
もしかしたらいない可能性だってある。
それに賭けるのは少しあれだが……少しでも可能性に賭けたい。
もしまだレクアムがいた場合は、部屋で作業をしている時に限り救出作戦を実行。
いない場合は周囲の様子を探るよりも速攻で救出することに尽力を尽くすことになった。
要するに時間との勝負だ。
だが牢の中には子供が五人いた。
俺としては子供だけでも助けたい。
その事を伝えるとウチカゲもそれに賛同してくれたので、子供だけは可能な限り救出するということになった。
随分無謀なことをしようとしていることは承知している。
それに首を横に振らないウチカゲには静かに感謝しておいた。
何処までも無茶に付き合ってくれる。
有難い限りだ。
子供を運ぶ算段は付いている。
俺は水の圧力をあげて物を運ぶことができる。
五人となると相当なMPを消費してしまうだろうが何とかなるだろう。
今回は無茶するところだ。
頑張るぞ。
そしてすぐにラムリー家に到着した。
倉庫までの道は完璧に頭に入ってる。
侵入するときは暗殺者を使って正面から静かに侵入。
脱出するときだけは窓を割って脱出する。
音が出ることを避けたいので、左右から水で押さえつけて音を出さないようにする。
これならガラスの破片も落ちないので安全だ。
俺の仕事量が多くなるけどな。
ウチカゲが声を殺しながら話しかけてくる。
「ここですか?」
「ここだ。ちょっと待っててくれ。今あいつがいるかどうかを確認する」
「お願いします」
操り霞を地下に展開する。
牢屋、扉のついている部屋、そして作業部屋を見てみた。
すると、レクアムはいなかった。
おかしいと思いもう一度探してみたがいない。
ラムリー家の館の中にもそれらしいシルエットはいなかった。
と言うか誰もが寝ていて動いていない。
一体どこに行ったのだろうか……?
だがこれは好都合。
「いないぞ?」
「では……」
「ああ。作戦通りに行くぞ」
「「『暗殺者』」」
気配を極限まで消して館内に侵入する。
塀は俺だけでは越えられないのでウチカゲに放り投げてもらう。
着地に失敗してマジで痛かったのは内緒だ。
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