3.52.龍の成り損ない


 進化先……『龍の成り損ない』……。

 言っている意味が分からない。

 天の声は何故進化先をそこにだけに指定したのだろうか。

 嫌がらせ?

 嫌がらせなのだろうか?


 何と言っても進化先がこれしかないというのが質が悪い。

 何故もう一つくらい進化先を追加してくれないのだろうか。

 とにかく俺は、この龍の成り損ないになるしかないらしい。

 今までちゃんとした種族名だったのに、急に変な名前になった。

 とりあえず……成るしか無いだろう。龍の成り損ないとやらに。


『……まじかぁ……』


 何も考えないようにして、進化先を龍の成り損ないに指定した。


『……いでっ。ででででっ! だだだだだだああぎゃあああああああ!!!!』


 途端、今までに感じたことのない痛みが体中を走った。

 ダトワームに進化するときよりも数倍痛い気がする。

 体をのたうち回らせながらも、その痛みに耐える。

 痛みには耐えきれていないと思うのだが、意識だけは吹き飛ばされまいと何とか堪え続ける。


 骨格の再形成、肉体の強化、神経の複製、追加、内臓の大幅改変。

 様々な肉体構成が瞬時に行われていた。

 頭部は一度ひしゃげてから、錆びた歯車を動かすかのようにしてゆっくりと時間をかけて再構築され、内臓は全ての器官が肥大化し、全体的に移動する。

 移動する際、骨格の再形成も行われているため、どうやら中で傷つきまくっているようだ。


 しかし肉体の再構成により再生、復元が繰り返されている。

 拷問。

 一言でいえばこの痛みは拷問よりも辛いかもしれない。


 ようやく痛みが引いた時、俺は動ける状態にはなかった。

 へなっと地面に体を預けて休んでいる。

 動けるかもしれないが、精神的に辛かったのだ……。

 少し休ませてほしい。


『くっそ……がはぁ……痛すぎる』


 とりあえず姿を確認するため、ずりずりと水辺に歩いていく。

 既に魚たちは香の効果から解放されているようで、ここには一匹も魚はいなかった。

 あんな図体していてもベドロックはベドロックなんだなと思いながら、体を乗り出して今の姿を水に移しだした。


 色は相変わらず純粋な白だ。

 これはいつも通りだったので少し安心した。

 だがその安心も自分の顔を見て吹き飛ぶことになる。


 目が一つ、横についている。

 もう片方の目があったであろう位置には、三又のサンゴのような角が生えていた。

 何故片方からしか出ていないのかよくわからなかったが、視界が非常に悪く、この姿を見て少し驚いてしまった。


 そして顔の形なのだが……確かに竜の形には近い。

 だが口が異様に裂ける。

 口裂け女も驚くのではないだろうか。

 舌は二本あり、それぞれが独立して動いている。

 そして肝心のボディ。

 全長は三メートル前後。

 背中にはボロボロになった翼が一つだけ生えており、機能しそうにはない。

 そしてその反対側には共に成長するはずだった翼が、一部分だけを残してちょん切れていた。

 最後に、気持ち程度の髭があった。


 自分で言うのもなんだが、見ていて痛々しい。

 動かないことはないし……神経も通ってるのか感覚もあった。

 昔は髭にテンションが上がっていたのだが……なぜだろう。

 この姿で見てもあまりうれしくない。


 成り損ない……。

 確かにこの姿を見てそう言われてしまえば頷いてしまうかもしれない。

 だが! ステータスはどうだろうか!?

 姿だけが醜いだけであってステータスには問題がないかもしれない。


 そう思い、ステータスを開いてみた。


===============

 名前:応錬(おうれん)

 種族:龍の成り損ない


 LⅤ :1/300

 HP :650/650

 MP :1231/1231

 攻撃力:721

 防御力:798

 魔法力:1657

 俊敏 :203


 ―特殊技能―

 『天の声』『希少種の恩恵』『過去の言葉』


 ―技能―

 攻撃:『剛牙顎』『狂酸毒牙』『連水糸槍』『多連水槍』『鋭水流剣』『波拳』『天割』

 魔法:『操り霞』『無限水操』『泥人』『破壊破岩流』『空気圧縮』

 防御:『水結界』『水盾』『泥鎧』『空圧結界』

 回復:『大治癒』『広域治癒』『殺吸収』『回復水』

 罠術:『水捕縛』『偽装沼』

 特異:『発光』『土地精霊』『清め浄化』

 自動:『悪天硬』『水泳』『暗殺者』『防御貫通』

 奥義:『成り損ないの末路』


 ―耐性―

 『眩み』『強酸』『爆破』『腐敗』『視界不良』『盲目』『毒』『気移り』『耐寒』『呪い』『汚染』『感染』『病魔』『腐敗』『不浄』

===============


 ……いくつかウェイブスネークの時よりもステータスが若干上昇している。

 俊敏はごっそり下がってしまったが、その代わりMPと魔法力は桁違いだ。

 やっと飛びぬけたステータスが出てきてくれたおかげで、戦闘方法が何とか確定しそうだ。良かった。


 技能はあまり増えていない様だ。

 攻撃技能に一つと……奥義と言う技能が増えている。

 これは一体何なのだろうか……。

 とりあえず一つ一つの技能の詳細を見てみることにしよう。


===============

―天割―

 天を割る斬撃を繰り出す技能。手刀、剣、刀など発動可能。武器によって攻撃力が変わる。

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―成り損ないの末路―

 相手の負けが確定したときに使用できる必殺の技能。

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 天割は……言ってしまえば鎌鼬のような技能なのだろう。

 使う武器によって攻撃力が変わるのが少し怖いが……とりあえず後で試しておくとしよう。


 成り損ないの末路。

 これは止めを刺す時に使えそうな技能だ。

 だがこれは奥義と呼べる物なのだろうか。

 条件が……厳しすぎないか?

  確殺できるというのは場合によっては良い物なのかもしれないが……。

 あまり有用性を見いだせない。


 何より恐ろしいのが、発動条件だけしか説明に書かれていないので、どのような技能なのかがわからないところだ。

 これが敵一人に向けられる技能であればまだ問題はないのだが、範囲攻撃であれば使う場所を見極めなければならない。


 これも試しておかなければならないだろう。

 手ごろな相手がいないというのがネックだが。


 だが天割くらいなら今すぐにでも使えるだろう。

 人の姿ではないが、取り合えず多連水槍で一本の槍を作り出し、これに天割を付属させてみた。


『『天割』』


 ピュッと縦一線に空気を切った。

 途端、空気が切り裂かれて直線状にあった木々たちが全て割れた。

 切り裂かれた木はささくれもなく、鏡面仕上げのように綺麗に切り裂かれている。

 その威力に顔を青くして、とりあえず多連水槍を解除した。


『よ、よし、帰ろう』


 無限水操で水を作り出してその中に入る。

 ふわふわと浮上し、前鬼の里に向かって一直線に帰っていった。

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