3.51.水流ベドロック


 気が付けば、俺は自分が作り出した空圧結界に叩きつけられていた。

 一体何が起こったのかよくわからない。

 ベドロックがヒレを持ち上げた瞬間、俺は吹き飛ばされていたのだ。

 相当な威力で吹き飛ばされたらしく、未だにぶれた感覚が元に戻らない。


 それでも何とか結界を維持し続けようと気を張った。

 自分に大治癒を使って体の傷を癒す。

 それにより何とか前が見れるようになったので、ベドロックの方を見据えてみる。


 するとベドロックはこちらを向いたままヒレを下ろしていた。

 まさかとは思うが、ヒレを動かした時の衝撃……いや、水流で俺は飛ばされたのだろうか。

 そんな馬鹿なことがあってたまるかと思ったが、目の前にあった水結界が破壊されているのを見るに、やはり水流で飛ばされたということが分かる。


 それに先程の水流で槍も吹き飛ばされていた。

 川底や岩に突き刺さっている。

 俺に飛んでこなくてよかったと内心安心しつつ、これからどうするかを頭の中で考えた。


 あんな技能は見たことがない。

 恐らくあそこまででかくなって初めて使える技能なのだろう。

 空圧結界は無事だ。

 なので魚の群れが押し寄せてくるという事はないだろうが、問題は反対側。

 あちらの方は水結界。

 もし反対側に先ほどの攻撃を入れられてしまえば、容易く破壊されてしまいかねない。


 魚にそこまでの知能があるかはわからないが……出来るだけ注意をこちらに向けておくのが良いだろう。


 するとベドロックは反対側のヒレを上げた。

 また先ほどの攻撃が来る。

 多連水槍は攻撃が通らない。

 連水糸槍は糸が絡まってしまっているので今は使えない。

 後で消して再展開しなければならないだろう。


 時間がない。

 何かで防御しなければならないが……どれもMPを使用しすぎてしまうものばかりだ。

 攻撃のことを考えると少しでも消費を抑えておきたい。

 とりあえずその場しのぎで『水盾』を展開する。

 すると、その水盾は非常に大きかった。

 どうやら川の水を媒体にして作り出されたらしい。


 展開したと同時にまたあの水流攻撃が襲って来た。

 水盾は五つから一つに合体して俺の前に立ちふさがった。

 がしかし、呆気なく霧散して俺はまた自分の作り出した空圧結界に叩きつけられる結果となった。


『~~~~! くそほどの役にも立たねぇな! げっほ!』


 この技能が役に立った事は一回しかない。

 必要性がないように感じてて来たのでそろそろ経験値に変えてしまおうかと思い始めてしまった。


 このままやられるだけと言うのは癪に障る。

 とりあえずもう一度連水糸槍を作り出して攻撃に転じる。

 水中なので動きに制限がかかるが、何とかなるだろう。


 連水糸槍を使おうとしたとき、ベドロックの後ろの隠れていた魚が一斉に飛び出してきて、また槍の動きを封じられた。


『まだいたのか貴様! めんどくせぇええ!』


 悪態は付けども現状は全く変わらない。

 ワンパターンと言うのも問題があるのかもしれないが、とりあえず今は時間を稼ぐしかない。

 時間さえ稼げば後はどうとでもなる。

 放り投げだされていた多連水槍をもう一度動かし、出てきた魚を殲滅する。

 数が減ったためか魚の動きが機敏になっていた。

 そのため殲滅に相当な時間がかかってしまったが、その間ベドロックは先ほどの攻撃は一切してこなかった。


 もしかしたらだが、あの攻撃を使用するのには、しばらくの時間が必要なのかもしれない。

 それならそれで好都合だが、もう一度攻撃されれば今度空圧結界が耐えられないかもしれない。

 あとどれくらいで発動が可能になるのかがわからないのが不安だが、今の状態であれば……まだ間に合う可能性はある。


 連水糸槍がまた破壊された。

 だが破壊された直後に多連水槍の一つが魚を串刺しにする。

 魚はビビビッと痙攣していたがすぐに沈黙した。

 同じように他の多連水槍も残った残党を狩りまくっていく。

 ベドロックはまだ動かない。

 いや、動けないのだろう。


 だが、間に合った。


 戦闘開始直後から発動させていた『空気圧縮』。

 これがようやくチャージすることができたのだ。

 圧縮した空気を水の中に落としてベドロックの腹辺りに持ってくる。


 それを確認した俺はそそくさと川から陸に逃げ出す。

 十分に離れた所で、空気圧縮で圧縮した空気を開放する。


 ドォォオ!!


 水結界と空圧結界の間にあった水が全て吹き飛ぶ大爆発が巻き起こった。

 陸に避難して正解だったと、心の中で安堵しながら舞い上がった魚たちを見上げていた。

 そこには真っ二つに分かれたベドロックの姿も見て取れる。

 あんな攻撃力の物を超至近距離で喰らったのだ。そりゃ体も離れ離れになりますよ。


 サーっと雨が降ったが、しばらくすると止んだ。

 その後にべちゃべちゃと魚が落ちてくる。

 最後にドンドン! と二回ほど大きな音が鳴ったのを最後に、その森にようやく静寂が訪れた。


 久しぶりの蛇での戦闘をしてみたかったので、楽な人間の姿にはならなかったが……正直言って割と苦戦した。

 まだ湯水のようにMPは使えないので、判断が鈍るところも多々あったことは認めよう。

 横着して水盾使った結果があれだ。痛い目にあってしまった……。


 連水糸槍は強力な攻撃ではあるが、機動力に欠ける。

 多連水槍は切れ味が芳しくない。

 だがやはり多勢を相手に取るときは多連水槍で十分だ。

 多連水槍で攻めつつ、連水糸槍で止めを刺す。

 槍で戦う場合はこれが一番いい戦闘方法だろう。

 今度は蛇の姿でも鋭水流剣を使える練習でもしておこうか。


『っし! 食うか!』


 零漸には悪いが、ちょっとばかし経験値を稼がせてもらうことにする。

 倒した魚は全て食べようと思うのだが……うーむ。

 ばばらけになりすぎて全ては回収できそうにない。

 とりあえずベドロックは先に食べさせていただくとしよう。


 ベドロックに齧りついてみるが、やはりあまり硬くない。

 勿論剛牙顎は使用している。

 でなければ噛み千切ることができないからだ。

 やはり剛牙顎は他のどんな技能よりも強いのかもしれない。


【経験値を獲得しました。LVが54になりました】


 お、久しぶりだな天の声。

 てか魔物の姿で食事をとらないと経験値獲得報告は出ないんだな。

 人間の姿では聞かなかったからなぁ……。

 それにしても一口でLVが7も上がったか……。

 これは……期待できるのでは!?


 そう思ってバグバグとベドロックを食べていく。

 巨大なため食べるのに相当な時間を有してしまったが、経験値の取得量を考えるとそれは些細なことだ。


【経験値を獲得しました。LVがMAXになりました。進化が可能です。現在のステータスを表示します】


 おお……! おおぉ……!!

 零漸。俺は先に失礼するぜ! ステータス確認!


===============

 名前:応錬(おうれん)

 種族:ウェイブスネーク


 LⅤ :200/200

 HP :705/705

 MP :1023/1023

 攻撃力:760

 防御力:605

 魔法力:1435

 俊敏 :706


 ―特殊技能―

 『天の声』『希少種の恩恵』『過去の言葉』


 ―技能―

 攻撃:『剛牙顎』『狂酸毒牙』『連水糸槍』『多連水槍』『鋭水流剣』『波拳』

 魔法:『操り霞』『無限水操』『泥人』『破壊破岩流』『空気圧縮』

 防御:『水結界』『水盾』『泥鎧』『空圧結界』

 回復:『大治癒』『広域治癒』『殺吸収』『回復水』

 罠術:『水捕縛』『偽装沼』

 特異:『発光』『土地精霊』『清め浄化』

 自動:『悪天硬』『水泳』『暗殺者』『防御貫通』


 ―耐性―

 『眩み』『強酸』『爆破』『腐敗』『視界不良』『盲目』『毒』『気移り』『耐寒』『呪い』『汚染』『感染』『病魔』『腐敗』『不浄』

===============


 やったぁああ! ステータス四桁越え来たー! いよっしゃぁあ!


 えーとなになに?

 なるほど……俺はやっぱり魔法力が高いのか。

 MPも四桁になってるな。

 これは技能をバリバリ使って行くスタイルになりそうだ。


 そんな中、ふと思うことがあった。

 俊敏についてだ。

 俊敏と言えば速度が速くなると思われがちなのだが……どうにもあまり歩く速度とか走る速度が変わったような気はしない。

 実際に走ってみても変わりはあまりないのだ。


 なぜ今まで気にしなかったと言われれば、そういう物だと思っていたと言い訳するしかないのだが……。


 そんなことはさておいて、俺はこれから重要なことを天の声に聞かなければならない。

 LVがMAXになった。

 となれば……進化ができるのだ。

 意外と進化までの過程が速かった。

 おそらく特殊技能の『希少種の恩恵』が影響しているのだろうけど、200なんてあっという間だった気がする。


 人の姿ではやはり経験値取得は難しいようだ。

 そんなことを思いながら、ワクワクしながら天の声に進化先の情報を聞いた。


===============

―進化先―


―龍の成り損ない―

===============


 ……ん?

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