6.36.ちょっと寄り道


 全員が起きて、熱気が冷めた明朝。

 寒さを思い出したようで、全員が体を縮こませながら片づけをしていた。


 というよりもう復興作業が開始されている。

 そして鬼の力とは本当にとんでもない物だ。

 倒れた家屋を一人の鬼がよいしょして独立させていく。


 とは言ってもどうしようもない建物もある。

 それらは壊れている部位だけを取り払って、生きている場所だけは慎重に残し、使えそうであればそのまま使っている様だ。

 そうでないものは一度取り払い、補修のための建材にしている。


 そして何より驚いたのが、その作業を老齢の鬼たちがしているという事だ。

 若手の鬼はもっぱら雑用。

 老齢の鬼が指示したことを黙々とこなしているようだった。


 ガロット王国の兵士たちは、バルトの指示により半数を国に連れ帰って物資の調達をしてくれるらしい。

 残りの兵士は要らなくなったものや、不要になった物を処分したり、前鬼の里の為に狩りを行ってきてくれたりしている。

 力仕事が得意な鬼と、小回りが利く人間の兵士たち。

 良く役割分担がされていると思う。


 因みにこの指示を出したのは勿論ライキです。

 寝ぼけまなこにも拘らず、全ての鬼たちの担当する区画を決めていた。

 寝ながらでも作業できるんじゃないのか。


 しかし、そんなライキだったが、重い後遺症を残してしまっていた。


 カラカラと音を立てながら、ライキはテンダに車椅子を押されて俺に所に来た。

 ライキは先日の事があり、力の大部分を失った。

 その為、自力で立つことが困難になっていたのだ。


 その事を知った俺と鳳炎は、車椅子の設計図を適当に作って鬼の大工に手渡した。

 作るのに手こずり、伝わらないかもと思ったが、そこは流石大工さん。

 頭の中に設計図を入れて、何処をどう加工してこのような物を作るのか必死になって考えてくれた。


 そして完成したのが、今ライキが乗っている車椅子だ。

 全て木製という事で、まだまだ荒い部分はあるのだが、それでもこうして使うことができている。

 今後、鍛冶屋と協力してもう少し丈夫にして、滑車を良くするために改良を加えていく予定だそうだ。


 でもまさか、提案して三時間で作ってくれるとは思わなかったなぁ……。

 まぁ大工さんいっぱいいたしね。

 流石職人、とでもいいましょうか。


「座布団が欲しいのぉ」

「今度は、もう少し大きめの物にしていただきましょうか」

「うむ」


 鳳炎やアレナたちは、今復興の手伝いをしてもらっている。

 ここにいられるのもあと少しだし、鳳炎としては食事のお礼がしたかったらしい。

 涙流しながら食ってたもんなあいつ。


 因みに俺はというと……。

 ライキとテンダに頼んである場所に連れてきてもらっていた。


「着きましたよ、応錬様」

『ここが……』 


 目の前には、いくつもの墓があった。

 一つ一つの墓に花の代わりに酒が備えられており、石には名前が彫られてある。


 俺がここに来た理由は、少しでも何かないかを確かめる為。

 先代白蛇は、鬼たちに自分の技能を渡したとヒナタは言っていた。

 そしてライキは、その鬼たちを何人か知っている。


 その鬼の話を聞けば、先代白蛇がどんな技能を使っていたのか分かるかもしれない。

 分からない可能性の方が高いが、何かしていないと少し落ち着かなかったのだ。


 俺は一番大きな墓を尻尾で指して、二人を見た。


「それは、俺の祖先の墓です。他でもない鬼神舞踊の開祖ですね」


 鬼神舞踊開祖の鬼、レンマ。

 漢字にすると、錬魔だろうか?


 俺の予想だが、レンマは先代白蛇の『天割』を授かったのではないかと俺は見ている。

 ウチカゲが、テンダの放った攻撃が俺の天割とよく似ていたと言っていた。

 それに加えて、俺とテンダが一緒になって戦っていた時、斬撃を飛ばしていた。

 鬼神舞踊の技は、そういった技が多いのではと思ったのだ。


 それはレンマが天割を習得し、今度は誰にでも扱えるような技に派生していったから。

 とは言え使いこなすのには随分鍛錬が必要ではあるようだが。


「申し訳ございませぬが、儂はレンマ様とは会ったことはございませぬ。若くして亡くなられたと聞いてはおりますが……」

「俺もです。もしかしたら、親父は何か知っていたかもしれませんね」

「ああ、ゴウキの親父のランキであれば、何か知っておったかもしれぬな。それをゴウキが聞いておったかどうかは分からぬが……。というか、テンダよ。ゴウキはもう……」

「悪鬼になって生きておりましたよ」

「しぶといのぉ……」


 あのー、えーっとですね。

 あんたら寿命長いんだからもう誰が孫で息子でとかよく分かんないんだよ。

 五百年前の話だってのは分かってるけどさ。


「……また機会がありましたら、俺が父上に話を聞いておきましょう」


 うん、それでよろしく。


 すると、ライキが一つの墓を指さした。


「あれは、シスイという者の墓。あの方には会ったことがありますな。鬼でありながら、水系の技能を多く持ったお方にございました」


 ……おうふ。

 マジでいやがったか、先代白蛇から技能を受け継いだ鬼が。


「ですがその技は、泡の技能でありましたな」

「泡……ですか」

「うむ。儂も祭りごとで一度見たことがあるだけで、それ以上の技能があったかどうかは定かではないのだが……。泡を弾けさせては子供たちを楽しませてくれておった」


 空気圧縮じゃねぇか。


「それと、そこの墓。エンゲツという鬼で、自分の分身を作り出すのに長けておった。狩りなどは土くれからよく分身体を作り出し、戦わせに行っておったの」


 泥人ー。


「他にもいたような気はしますが、すみませぬ。もうこれ以上は詳しく思い出せませぬな……」

『十分。ヒナタの言った事があってただけいいさ』


 言葉でもそう言ったが、伝わらないので小さく頷いておく。

 それを見て、ライキはまた墓を見た。


「……皆、喜んでおる様じゃの」

「? そうなのですか?」

「うむ」


 俺にもそれは理解できなかった。

 だが、ライキはそれを確信していたように思う。


 ちょっとした寄り道だった。

 よし、そろそろ行くとしよう。


 俺が振り返って皆の場所に帰ろうとしている事に気が付いたテンダは、すぐに車椅子を反転させて俺を追いかけていった。

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