6.37.別行動


 復興の手伝いも程々に、俺たちはようやくサレッタナ王国へと帰ることにした。

 準備を整えていた時に、後ろから声を掛けられる。


「応錬様」


 ウチカゲが少し申し訳なさそうに俺に話しかけてきた。

 こんな顔をしているウチカゲは珍しい。

 一体どうしたというのだろうか。


「俺は、暫くここに残ります」

『そうか』


 ま、妥当だな。

 今は少しでも人手が必要なはずだ。


 俺は大きく頷いて、それに同意する。

 今まで随分……いや、めっちゃウチカゲには世話になったし、良く助けられた。

 甘えてばかりはいられないからな。

 これは良い機会である。


「ですが、復興が終わり次第、また応錬様をお守りしに戻ります。それまで、お待ちください……」

『おう。待ってるからな』


 俺の言っている言葉は分からないだろうが、そう言ったと同時にウチカゲは深く頭を下げる。

 やはりとても申し訳なさそうにしているが、俺はその判断が間違っているとは思わない。

 里の鬼たちに俺の元にいる様にと言われているのに、この決断をしたウチカゲは凄いと思うぞ。


 あーやっぱり喋れないのは不便だなぁ。

 あ、そうだ。


 俺はまた水の玉を作る。

 今回も鬼でなければ壊せない程に硬いものにしておいた。

 それをウチカゲに渡す。


「姫様にですね?」


 ウチカゲのその問いに、首を横に振る。

 これはウチカゲに上げる物であって、姫様の物ではない。

 姫様のは別に作っておくから、今渡したのはお前が持っていて欲しい。


 俺は尻尾でその水の玉をウチカゲに押し付ける。

 そして大きく頷いた。


「俺に、ですか?」


 イグザクトリー。

 お前が持っていてくれた方がいい。

 まぁこれは個数があるだけ維持がちょっと大変なんだけど、二つくらいなら問題ないだろう。


 ウチカゲはそれを凝視していたが、すぐに懐に入れた。


「分かりました。何かありましたら、これでお伝えいたします」

『今回は前の奴より柔いから、ウチカゲだけでも壊せるぞー』

「フフ、何を申されているかは分かりませんが、大切にしますね。姫様の分はどうしましょう? 俺が持っていきますか?」

『そいじゃ宜しく』


 また一つ水の玉を作り出して、ウチカゲに渡す。

 とりあえずこれで俺のやることは終了だ。


 後ろを見てみれば、少し大きくなった鳳炎を見てアレナがふくれっ面になっていた。

 それを宥める様に対応していた鳳炎だったが、どうにもアレナの機嫌は良くなりそうにない。


 ……まぁ、鳳炎からしてみれば毎日死ねってかっていう事だしね。

 それは流石にいたたまれない。

 しかしアレナが子供好きだったとはなぁ。

 ちょっと意外だ。


 ラックは既に準備万端であるようで、早く空を飛びたいと翼を広げて待機している。

 俺もそろそろ行かないとな。


 スルスルーとラックに近づき、小さく頷く。


『じゃ、帰り道宜しく』

ガルァ了解


 その返答を聞いて、俺はラックの翼を伝って背中に乗り込む。

 アレナも自分の体を軽くして、ひょいと乗り込んで俺にベルトを巻き付けた後、自分にもまきつけた。

 鳳炎も炎翼を出現させて、飛び上がる。


「じゃあね鬼たち! 暫く大変だろうけど、応錬が帰ってくる場所を整えておいてねー!」

『おい……。まぁ間違っては無いかもしれないけど……』


 だが、鳳炎の言葉は鬼たちを奮い立たせるのには十分すぎる物だった。

 流石白蛇を信仰しているだけはある。

 轟かんばかりの声量が、空気を振動させた。


「じゃ!」

『またなー皆。姫様によろしく』

「ばいばーい!」


 そこでラックは飛び上がった。

 どんどん高度を上げ、十分な高さまで上がったと同時に滑空して速度を上げる。

 風に乗ってすぐにサレッタナ王国へと進んでいった。


 そう言えば、今回は姫様いなかったな。

 疲れて眠っているらしいが……こりゃ次帰った時怒られそうだ。


「応錬、結局君はどうするの? 進化しないと人間の姿には戻れないんでしょう?」

『ああ。だから少し別行動を取ろうと思う。お前にもこれ渡しておくよ』


 そう言って、また水の玉を作り出す。


『それが割れたら迎えに来てくれ』

「何処に?」

『サレッタナ王国のギルドが管理しているダンジョンの前でどうだ? 流石に俺一匹で国に入ると速攻で殺処分されちまう』

「処分されるのは人間側だと思うけど……分かった。その時はこれを壊して呼んで」

『おう。それと、俺は周辺で魔物を狩ってから行くことにする。経験値の入り具合が分からんから、どうなるか不明だけどな』


 これが一番怖い所だ。

 死鬼の骨食ってから全然経験値を獲得できない。

 その理由を天の声に聞いても無言のままだ。


 とりあえず、一匹生きている魔物を食べてみないことには、この問題は解決しそうにない。

 俺はサレッタナ王国近くの森に下ろしてもらうことにする。


『俺のことは適当に誤魔化しておいてくれ』

「分かった」

『……ていうかお前死んで二日目は飛べないんじゃなかったんか』

「レベルが上がって飛べるようになったのだー! すごいでしょー!」

『……』

「なんで黙っ……ごめんてアレナ。マジで。お願い許してって言うのもおかしいけど機嫌直して?」


 アレナの怒り顔が加速している。

 つってもこれどうしようもない事だとは思うんだけどなぁ。

 まぁアレナもまだまだ子供だ。

 俺たちが妥協しなければならないこともあるかもな……。


 さて、これから少し忙しくなるかもだ。

 主に俺が。

 頑張ろー、えい、えい、おー……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る