9.25.対峙


 キィンッ!!

 ギャンギャンッ!!

 剣が弾け合う音が何度も聞こえる。

 遠くからは爆撃、地鳴、何かを破壊する音なども聞こえていた。

 これでは兵士が集まってくるのも時間の問題だろう。


 救出組がクライス王子と接触していることを願いながら、マリアは剣を握る手に力を籠める。

 持って来ているのは大振りのハンティングソードだ。

 女性の身でありながらそれを軽々と振り回し、相手が投げてきた投擲物を弾き返す。


「リゼ君は大丈夫!?」

「に、にに逃げ足だけは速いからだだ大丈夫よ!」

「ていうか貴方無手なの!?」

「技能で何とかなるから……」


 ガクンッ。

 自分の移動速度が急激に低下した。

 またあの魔法を使ってきたなと理解したマリアは、自分の胸に手を当てる。


「『マジックフォーグ』」


 何かが抜ける感覚が体を突き抜けた後、先ほどと同じ様に動くことができるようになる。

 その瞬間、二振りの剣が飛んできた。


 ギャギャンッ!!

 軽い剣だが鋭い殺意を持った攻撃だ。

 それに油断して手元が狂えば確実に刃が体を貫くだろう。


 ローブがはらりと捲れた。

 そこからは優しそうな顔ではあるが無表情の女性が現れる。

 息切れもしておらず、地面に両足を着けた瞬間回転しながら連撃を繰り出してきた。

 大振りのハンティングソードはこれを簡単に往なすことができる。

 攻撃が途切れたタイミングを見計らって斬り伏せようとするが、それは危なげなく回避されて距離を取られてしまう。


「『アイスクロー』!」


 高速で移動したリゼが、真横から攻撃を仕掛ける。

 手には巨大な鋭い氷の爪が作り出されていた。

 大きさも相まって当たれば一撃で敵を倒すことができるだろう。

 更にリゼは移動速度が非常に速い為、重量というハンデはあってないようなものだ。

 大上段に振り上げた爪は、叩き潰すように敵の着地地点を穿つ。


 バカァアン!!

 屋根に使われていたレンガが弾け飛び、穴が空く。

 ドンッ、ガァアンッ!!

 一度の攻撃だったが、少し遅れて二回衝撃波が発生し、穴がまた大きくなった。


「速くない!?」

「違う! 君が遅くなってるのよ!」

「そんなことある!?」


 マリアに背中をバシンと叩かれる。


「『マジックフォーグ』」


 体から何かが抜けていく。

 すると確かに動きが速くなったように感じられた。


「ほ、ほんとだ……。どうなってるの?」

「多分対象の動きを遅くするような技能を持っているんだと思うわ。でも私の技能で打ち消すことはできる……」

「え、すごい」

「伊達にギルドマスターやってないからね。魔術師殺しなんて昔はよく言われたわ」

「魔術師殺し……? マリアさん魔法斬れたりするの?」

「斬れないけど消すことはできるわ!」

「うわー……」


 相手の放つ魔法をすべてかき消すことができるマリア。

 それは魔物も例外ではなく、彼女は半強制的に自分の得意な戦いへと相手を引きずり込むことが可能なのだ。

 自己強化系の魔法だけは無理だが、自分にかけられたデバフ系魔法や、放出系魔法はすべて消すことができる。


 このような特殊な魔法を所持しているからなのか、彼女は他の魔法を使えない。

 だがそれを取って余りあるだけの実力は有していた。


「やられっぱなしじゃダメよリゼ君。付いてきてね! 『瞬脚』!」

「了解よっ! 『纏雷』!」


 マリアが屋根を蹴り、リゼは体に雷を微弱に纏わせて身体能力を向上させた。

 瞬脚によってすぐさま敵の正面まで来たマリアが技能を使う。


「『三連突き』!」

「『クイックリー』」


 一度にしか見えなかった牙突。

 その後に放たれた斬撃は三度屋根を抉り抜いた。

 だが敵は移動速度が上昇してその場からいなくなってしまう。


 その動きを見ていたリゼが、一拍遅れて技能を使った。


「『剛瞬拳』!」

「『スローリー』」


 拳を前に突き出す瞬間、がくんと体が一瞬重くなる。

 空気を殴る音が三度聞こえたが、この攻撃は一切当たらなかった。


 自分は遅くなり、敵は素早くなっている。

 踵を返した刃がリゼに迫ってきた。

 当たるかと思われたが、リゼは何とかそれを技能で回避する。


「『虎斬り』」


 横から振るわれた剣を伏せて回避した瞬間、雷が片手に集中する。

 鋭く伸びた雷の爪が完成した瞬間、体が勝手に動いて反撃した。

 バッと手を広げて空を切る。

 すると雷の斬撃が五つ敵に向かって直進した。


「『クイックリー』」


 しかし、それも素早い動きで回避される。

 今のを回避されるのかとリゼは驚いたが、心の中で少しホッとした。

 この攻撃は雷魔法なので、当たれば致命傷になりかねない。

 咄嗟に攻撃を回避するために虎斬りとを使用したが、これは回避後に追撃の技能を自動的に発動させる。

 だがその選択された攻撃は何の技能をになるか分からない少しだけ怖い技能だった。

 攻撃を当ててくれる可能性は高くなるが、この状況では危険だと思って一度体勢を立て直すために後退する。


 その瞬間、左側から強い衝撃が加えられた。


「ほぐっ!?」

「うぅっ!?」


 リゼは軽く拭き飛ばされ、屋根の上を転がった。

 どうやら誰かが吹き飛ばされて来たらしい。

 敵かもしれないと思ってすぐに立ち上がろうとしたが、手に持っていた武器を見て味方だと気付く。


「ユリー!」

「いったたた……。ご、ごめんねリゼ……」

「ってわあ!? 凄い傷! 大丈夫なの!?」

「なんとかねー」


 吹き飛ばされてきたのは雷弓のユリーであった。

 重い戦斧を持っているというのにどうしてここまで吹き飛ばされて来たのか疑問だったが、そんな事よりもまずは治療を優先させる。

 何処から血が出ているか分からなかったので、とりあえず体すべてを治療するつもりで手を当てた。


「『大治癒』」

「だいっ!?」


 淡い緑がユリーの体を覆い、怪我を一瞬で治してしまう。

 本当に便利な技能だ。

 だがユリーはなんだか怒っていた。


「ちょっとリゼ! 貴方そんなのホイホイ使っちゃダメよ!!」

「それは知ってるけど緊急事態でしょ!?」

「せめて敵がいない所で……ああーもう遅いか!」


 戦斧を持ち上げたユリーが構えを取る。

 その先では空中をふわふわと移動する人物が小さな杖をこちらに向けていた。


「おおー、これはいいものが見れたぜ! 僕は運がいいのかもな!」

「口止め決定ね……」

「ご、ごめん……」

「へへ、回復魔法かぁ。何としてでも手に入れたい人材だー」


 小柄な少年が楽し気に笑っている。

 ユリーはこんな小さな相手に吹き飛ばされたらしい。

 となると相当な使い手だと考えるのが妥当だろう。


「ギルドマスターは?」

「た、多分向こうで戦ってる……と思うけど……」

「私たちがぶつかったのを見て援護してくれたんでしょうね。リゼ、殺せまでとは言わないから足止めくらいやってよね!」

「がが、がんばる……。あ、いい技能あった」

「んじゃ援護よろしくね!」


 重いはずの戦斧が持ち上がり、それを担いでユリーは走り出す。

 だが相手は空中だ。

 このままでは逃げられて終わりである。


 そこでリゼは片手を敵へと向けた。


「『足止め』」

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