1.14.名前
『よし、決まった』
『えぇえー! 早いですね!』
名前を考え始めて10分が経過していた。
考えた名前が一生使われるのだ。ちゃんと意味を考えて付けた名前だから時間がかかってしまった。
辞書もパソコンも……スマホすらもない。
大変苦戦したが記憶にある漢字の意味を探り出して何とか名前にすることができた。
そう。やはり日本人と言えば名前に漢字。
中国から来たものだが発音も読み方も違うし、別物だろうと考えている。
うんうんとまだ悩んでいるこいつには、漢字の名前を付けてやると決めていた。
それなりに意味もちゃんとしているはずだから喜んでくれるだろう。
『はい! 俺も考えました!』
どうやら考えがまとまったらしい。
前世では17歳で死んだと言っていたし、あまり意味に関しては気にしないほうがよさそうだ。
響きがよければそれだけでもいい。
『どっちから発表する?』
『じゃ、じゃあ先に考えてくれた貴方からで!』
よし来た。
お? なんだかこいつそわそわしてるな。名前を付けてくれることがそんなに嬉しいのだろうか?
まぁ俺も楽しみではあるが。
『お前の名前は……
『か、かっけぇ! 流石です! 有難う御座います!』
何が流石なのかはわからないが、実は自分でも結構気に入っている。
苦労したのはまさにこの部分で、漢字の意味を思い出すのに時間がかかってしまった。
だが無事に思い出せてよかった。もっともこの世界にもう少し長くいたら完全に忘れていそうではあったが。
零漸は嬉しそうにクルクルと回っている。気に入ってもらえて何よりだ。
『さ、次は零漸の番だぞ』
零漸の動きがぴたりと動きが止まる。
『すいません、もう少し考えさせてもらってもいいですか?』
『お、おう。いいぞ』
おそらくとんでもない名前を考えていたのだろう。
ちゃんとした意味のある名前をもらって考え直そうと思ったのか?
……俺が先に名前を言ってよかった気がする。
こいつなら黒歴史に残るような名前を付けかねん。それはこいつのペットの名前から推測できる。
トカゲにブラッドムーンなんてつける奴なんて初めて見たぞ。
零漸はまだしばらく唸りながら考えていたが、いきなりパッと前に出てきた。
どうやら決まったらしい。
『遅くなりました! 今度こそは大丈夫です!』
『よし、教えてくれ零漸』
俺はここぞとばかりに名前を呼んでやる。
これは自分も覚えるためでもあるのだが、名前を呼ぶたびに嬉しそうにする零漸がかわいいというのもある。
零漸はクルクルと回りながら俺の名前を教えてくれた。
『はい! 貴方の名前は
『ほぉ! いい響きじゃないか!』
『よかったです! 意味は……』
『ああ、言わなくてもわかるぞ。「応」の意味は「受ける」「指名される」。そして「応える」か。そして「錬」は良いものを「選び取る」「ねる」だったか。これから察するに『指名され応えれるようになれ。そして選び取れ』という意味といったところか?』
『えっ……っと……そ、そうですそうです! 応錬さんは流石ですね!』
うむうむ、なかなか考えてくれているじゃないか。
響きも個人的にはいいと思うし、意味も素晴らしい。いろいろと期待されている気もするが問題ないだろう。
流石に選び取ることは難しそうだが……。
うん。響きがよければそれでいいと言った自分を殴りたい。
すまなかったな零漸。お前のことを頭の弱い子だと決めつけていたよ。
『零漸、ありがとうな』
『こ、こちらこそ! 有難う御座います!』
うん。本当にいい名前だ。俺はそう思う。
この名前は大切にさせてもらうぞ、零漸。
そういえば俺は進化していけば龍になれると天の声から言われていた。
俺と同じように地の声という物があるなら、何か助言されていてもおかしくない。
零漸は進化していくと何になるのだろうか?
『なぁ零漸。お前は進化していくと何になるんだ?』
『……え?』
『いやな、俺は天の声から最終進化先を教えてもらったんだよ。地の声ってのがあるならお前も教えてもらってるかなと思ったんだが、教えてもらえなかったのか?』
それを聞いた零漸はすこし躊躇するように首を横に振った。
とてもぎこちない。どうしたというのだろうか?
『ん? どうした零漸』
『いや……教えてもらってはいるんです』
やはり教えてはもらっているようだ。天の声や地の声はその辺のことは初期知識として教えてくれるのだろうか?
天の声は基本的に謎すぎてよくわかっていない。
俺としては説明書程度に扱っている便利な声なので別に問題はないが。
『そのー……』
『……?』
『亀です』
『…………? 亀』
『亀』
しばしの沈黙が続く。俺はどうしてこうも聞いてはいけないことを聞いてしまうのだろうか。
なんとかして話を逸らそう。
……まだ零漸に技能とかについて聞いていなかった。
チームで行動するなら仲間の技能は知っておくべきだろう。
『零漸。技能について教えてもらっていいか?』
『俺の持っている技能のことですか? いいですよ』
俺と零漸は自分の持っている技能を教え合うことにした。
零漸もこのことから話を逸らしたかったのか、すぐに話を合わせて話題をこっちに持ってきてくれた。
別に亀が悪いとかの話ではないが……転生して最終的になれる生物が亀って言われたら流石に俺もショックを受ける。
俺は最終的に龍になれるんだぜ、などとは口が裂けても言えなかったのだが、聞かれたら応えてあげることにしよう。
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