5.17.Side-鳳炎-時間稼ぎ


 紅蓮の芽を発動させた瞬間、地面に数本の炎の芽が生えた。

 それは人と同じほどの背丈であり、均等感覚で平行に生え並ぶ。

 全部で五十本。

 これだけあれば足止めはできる。


「ぐふぅ……消費激しいな……」


 この技能は私のMPをほとんど食らいつくしてしまう大技だ。

 残り30しか残っていない。

 これでは飛行するのも危ういので、早々に退散する。


 滑空で撤退準備をしている冒険者に向かって指示を飛ばす。


「私の足止めはもって十分だ! それまでに準備を整えるのだ!」

『『『おーー!!』』』


 この技能は長時間その場に攻撃をまき散らすことのできる技能だ。

 だが長時間と言っても、その火種が消えてしまえばすぐに消え去ってしまう。

 罠に近い技能なのだ。


 それまでに撤退準備を整えてもらわなければ、被害が出る可能性がある。

 今はまだ敵の進軍は遅いが、それでも着々とこちらに向かって進んできている。

 時間はそんなに残されていない。


「マナポーションをありったけ持ってきてくれ!」

「と、とりあえず俺のを使ってください!」

「助かる!」


 味がどうとかそういうのはこの際無しだ。

 ポンとふたを開けて一気に流し込む。

 んー生ごみの味しかしないな!


 やっぱ不味い。

 だが魔力は少し回復した。

 これを何度か繰り返しておけば、また戦闘に参加できる。


「鳳炎さん! 魔導部隊配置完了しました!」

「では私の指示があるまで待機しろと伝えるのだ!」

「了解しました!」


 よし、これで戦闘の鼻を折ることは容易だろう。

 後は前衛部隊が撤退の準備を整えるだけだ。

 だがまだ十分は時間がある。

 それまでに何とか片付けてくれよ。


 せめて人が乗れる馬車を用意するだけでいい。

 この際必要な物でも積み荷は捨てておいた方が良いかもしれないな。

 もし馬車が足りない場合は、食料以外捨てることにしよう。


「っし! 私は空に戻る! 撤退準備を急げ!」

「はい!」

「『炎翼』!」


 私は空を飛んで敵の様子を観察する。

 敵の飛行部隊は足並みをそろえてこちらに接近している様だ。

 幸い数は少ない。

 私が少し攻撃すればほとんど落とすことができるな。


 そして……魔物は紅蓮の芽に近づいた。


「……?」


 魔物たちが紅蓮の芽に近づくと、体が発火する。

 それに驚いて火を消そうとするが、その時に周囲にいる魔物に接触して二次災害を起こす。


「ぐるああああ!?」

「ギャアアアア!!」

「ガラゥアアアア!!?」


 私の技能には素晴らしい恩恵がある。

 その名も絶炎。

 着火すれば燃え尽きるまで消えることが無い炎である。


 流石に酸素が無ければ燃えることは無いのだが、水にぬらした程度で消える様な甘い能力ではない。

 この世界に酸素とか二酸化炭素とか理解している奴はいなかった。

 そして相手は魔物だ。

 酸素を消して消火しようだなんて考えはあるはずもない。


 燃えていく魔物の数はどんどん増えていき、ついには前方に炎の壁が出現しているようになった。

 あれだけの火柱が立てば、流石に進軍も止まる。

 だが、上空の敵は別だ。

 冒険者に近づいた時、滑空して勢いよく襲ってくる。


 さて、地上部隊の敵が足止めされている間にこいつらを何とかしなければならない。

 紅蓮の芽は相手に火を移すことのできる技能。

 紅蓮の芽が持っている炎を少しずつ魔物に分け与えていくので、いずれ紅蓮の芽は消滅してしまう。

 あれだけの数があっても、足りないのだ。


 だがアシドドックは殆ど殲滅できた様だ。

 これで防衛は全て応錬に任せられる。


 っと、後のことは後で考えよう。

 今は空の敵を殲滅する!!


「これで十分! 『フレイムフェザー』!」


 炎翼を大きく羽ばたかせ、風を送り出すように動かす。

 そうすると炎の羽が勢いよく飛び出して空を飛んでいる敵を貫いていく。


 これは私の技能の中では最高にコスパの良い技能である。

 MPを30消費してしまうが、炎翼を閉じない限り延々を打ち続けることのできる技能だ!

 そんなコスパの良い物を使わないという事は無く、この技能に関しては熟練度はほぼ最大と言っても過言ではないだろう!

 その自信が私には、ある!


 弾速はマシンガンくらいだ!

 炎の弾丸だから軌道は見えるが、避けることは難しいだろう。

 なので私は敵がいるところの周辺に弾幕をばら撒けば、勝手に敵は落ちてくれる。

 簡単な作業である。


 追尾性があれば良いなとは思うが、流石にそれは贅沢だ。

 飛びながら上空の敵を殲滅していく。


「君たちは地上の敵にだけ集中するんだ! いいか! あの炎の壁が消えた時が攻撃の合図だ! 自分のタイミングで構わない! 炎の壁が消え、敵が現れたと思ったらどんどん撃ち込め!! ただし魔力切れには絶対になるな! 逃げれなくなるぞ!! いいな!!」

『『『おー!!』』』


 まだ士気は高い。

 これであれば自分の力を最大限に活かした魔法を撃ちだしてくれるだろう。


 このまま前衛がぶつかるとなれば、士気はどん底に落ちていたかもしれないな。

 だが残念。

 私は騎士団みたいに自分の命を投げ出すことが出来ない臆病者なのだ。


「まぁ私は死なんがな!!」

「鳳炎さーん! 撤退準備が整いましたー! いつでも行けます!」

「おお! 素晴らしい働きである! 最悪物資は捨てて構わない! 魔導士部隊と合流した後、すぐに撤退するぞ!」

「分かりましたぁ!!」


 よし!

 これで全員を怪我なしで帰らせることが出来そうだ!

 では最後の締である。


 そろそろ炎も限界だ。

 相手も炎の壁が消えるのを待っていたのだろう。

 流石にそこまで馬鹿ではなかったか。


 すると、左側の陣で魔法を放つ音が聞こえた。

 雷魔法だ。

 それは一気に敵へと直進し、爆発を引き起こす。


 それが合図だった。


「っしゃいけー!!」

『『『おおおおーーーー!!!!』』』


 魔法詠唱の大合唱と、爆発の音色が戦場に響いた。

 流石は上位冒険者。

 一つ一つがそれなりに強力な魔法だ。

 殲滅できるとは思えないが、それでもこれには助けられる。

 この戦いで後の防衛戦が変わるのだ。


 一ヵ所桁違いの火力を出している部隊があったが、あれは恐らくSランク冒険者のローズだろう。

 雷弓の二人には前衛部隊の指揮と魔導部隊の指揮を任せている。

 流石にこれだけの数を私一人では捌ききれないからな。

 あの二人が居てくれて助かった。


 暫くすると、詠唱の声も、爆発の音も聞こえなくなった。

 もう全員が魔力をほとんど消耗してしまったのだろう。


 では、後することは一つ。


「よし、撤退だー!!」

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