6.23.鬼の本質


 地鳴の音、地面を穿つ音、空を殴る音。

 様々な破壊行動がなされる場所で、三人の鬼が争っていた。


「おらどうしたぁい! こんなもんかぁ!」


 手をぐわッと力強く開き、そのまま空を殴る。

 すると、五つの斬撃にも似た突風が発生し、目の前にいた二人の鬼を吹き飛ばす。


「ぐっ!」

「ぬぅ……!」


 まだ武器は壊れていないが、少しでも雑に扱ってしまえばすぐにぽっきりと折れてしまうだろう。

 それ程にまでゴウキの攻撃は強力で正確だった。


 武器を壊す技能『削ぎ』。

 空を殴る技能『空撃』。

 この二つの技能だけで二人は極限前に追い詰められていた。


 既にウチカゲの目隠しは取れ、かすり傷がいくつも付けられている。

 テンダに至っては日本刀の刃こぼれが酷く、ノコギリの様になっていた。

 更に鎧は既に無い。

 削ぎですべて破壊されてしまった。


 ウチカゲは足が速い。

 それ故に致命的となる攻撃、武器を破壊される技能は尽く回避できているが、テンダはそうもいかない。

 ただ往なすしかないのだ。


「テンダ……」

「おう……。流石父上だ。悪鬼になって更に強い」

「じゃなくて……分かったか?」

「何もわからん」


 あれから数十分。

 幾度もゴウキの攻撃を避けてはその間をかいくぐり、攻撃を入れようとはするのだが……。

 一切攻撃は当たらない。


 それどころか、鬼の本質も分からないでいた。

 これが分かったところで何か変わるのか?

 その疑問すら二人の頭の中には芽生え始めていた。


 意味がある戦いなのは間違いないが、何もわからない。

 そんな二人を無視して、ゴウキは腕を打ち鳴らして挑発し、構えを取った。


 あの構えはマズい。

 それに気が付いた二人は、すぐに行動を起こす。


 ウチカゲは全力で間合いを詰め、熊手ではなく足による攻撃に切り替え、ゴウキの腹部を狙う。

 その間にテンダは少し横に回り込み、霞の構えを取る。


「鬼神舞踊『穿ち』」


 静かな攻撃。

 斬撃を飛ばす技ではあるが、これは威力が低い。

 その代わり、速度はウチカゲ以上にあるものだ。


 今テンダが放った攻撃は、ウチカゲがゴウキに接触する前に届くことになる。

 その攻撃はいとも簡単に当たってしまう。

 だが、意味はない。


 パキン、という甲高い音と共に弾かれてしまうのだ。

 ゴウキの肌が硬すぎる。

 これ程にまでボロボロになった日本刀では歯が立たない。


 ここしばらく、ゴウキはテンダの攻撃を全て無視して勝手に攻撃させている。

 今集中しているのはウチカゲにだけだ。


「ハァッ!!」

「よいしょっ」

「!?」


 ゴウキはウチカゲの蹴りを軽く受け流し、そのまま足を掴む。

 ブンと一回振り回して、ウチカゲをテンダへと投げた。


「なっ!?」

「ぐぅ!」


 テンダは何とかウチカゲを受け止め、地面に下ろす。

 先程の威力も相当な物で、地面を滑って後ずさりしてしまった。

 もう二人とも肩で息をしている状態だ。

 一向に変化が訪れることもない。


 今までに自分たちが使える技能を何度も試したが、全て弾かれてしまう。

 ウチカゲが闇媒体を使用すれば、それを吹き飛ばす程の爆風を。

 テンダが念動捕縛を使用すれば、弾くと同時に岩を飛ばしてくる。

 技能では歯が立たない。


 そこでゴウキは足を大きく上げ、地面に叩きつける。

 ただの踏み込み。

 だというのに地響きが鳴り、地面が穿たれる。


 悪鬼と鬼。

 これ程にまで違いがあるのかと、二人は驚愕した。

 しかし諦めるわけにはいかない。


「テンダ、応錬様の元に早く行くぞ……」

「そのつもりだ! だが、だが……」


 何が足りないのか分からない。

 その考えはウチカゲも同じであり、歯を食い縛る。


 父親に勝てないようでは、応錬の元に行ったとしても何の役にも立たないことは分かり切っている事だ。

 今二人は、相手が親だからという理由で手加減をしているという事は一切ない。

 本当の本気で、全力でかかってる。


 だというのにこの結果。

 未だ一撃もまともに当てることが出来ず、ただただ疲弊するだけ。

 自分たちの弱さに打ちひしがれそうになる。


「本質が分かれば、戦い方が変わる。理解しろ。理解しようとしろ。本能は何だと、呼びかけろおお!!!! 『空撃』!!!!」


 ゴウキは八卦の要領で腕を突き出し、空を殴る。

 それと同時に二人が吹き飛んでいき、また地面を転がる。


「テンダぁ!! お前が研究していた鬼神舞踊は! 本質が分からにゃ使いこなせはせん! ウチカゲぇ! てめぇの熊手は飾りかぁおおい! 足が速ぇんだったら足大事にしろやぁ!」


 二人は転がりながら体勢を立て直していた。

 その間も、バカでかい父親の声は聞こえている。


 言わんとしていることは分かる。

 だが、できないのだ。


「ぐぬぅ……バカでかい音ばかり鳴らしやがってぇ……。耳が……」

「ぜぇ……ぜぇ……っとだよ……。太鼓演舞聞いてるときよりキツイ……」


 足には地震の感覚が残っている。

 揺れていないのに、揺れていると錯覚してしまいそうだ。

 それにより、ウチカゲの足運びが先ほどから悪い。

 それはテンダも同じであり、すり足が上手くできていなかった。


 長引く戦闘でだんだんと雑になっていく。

 正確さも何もない。

 ただの攻撃に成り下がり始めていた。


 武芸を嗜んで、過去の文献より研究を行っていたテンダにとっては、それは何としても避けたいものだ。

 どうすればいいのか今から考える。

 考えなければ、このまま無視され続けて戦いが終わってしまう。


「……ん?」

「ど、どうしたテンダ……」

「太鼓……? って、音なるよな?」

「な、何を当たり前のことを言っているんだ……? …………あ」


 二人は何かに気が付き、ばっと周囲を見る。

 地中深くから持ち上げられた土の塊。

 岩も掘り返されてその辺に飛び散っている。

 穿たれて散らばった土は、土埃となって宙を舞っていた。


「テンダ……もしかして……」


 この光景のもととなった物を思い出す。

 それはゴウキによる一撃。

 全てがそうだ。

 そして、その攻撃には全て鬼の本質が上乗せされている攻撃だったはずである。


 ただの攻撃ではないのだ。

 力任せに見えても、その裏には何か意思を持って繰り出されている技がある。


 二人は気が付いた。

 ゴウキが攻撃するときに、必ず出していた物を。


 それは体の奥底を叩き、鼓舞せんばかりの……。


「「音だ!!」」

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