10.58.味方捜索
掛け声と共にバッと飛び出した。
ラックは空を飛び、騎竜たちは地面を駆け、ウチカゲたちはそれに負けない速度で地面を走る。
悪魔と鳳炎は、すぐに生き残りを探すためにばらけた。
目立たないように行動したいが、鳳炎の炎翼はどうしても目立つ。
なのでできるだけ高度を下げて捜索をする。
空を飛んでいると、地上の様子がよく分かる。
見るに堪えない惨状が広がっているのだ。
悪魔が魔物に食われている場面に出会ったり、かつて町があったであろう地域には巨大な魔物が跋扈してすべてを破壊しつくしている。
あんなのに襲われては堪ったものではないだろう。
加えて空を飛ぶ魔物の襲来。
これが悪魔にとって一番の痛手だっただろう。
羽を生やした魔物が多く地面に堕ちている。
交戦はした様だが……成果は酷いものだったに違いない。
そんな光景を見ながら、鳳炎は歯を食いしばる。
何とかして生き残っている悪魔を探し出さなければならない。
戦力がいなければ、この作戦の成功率は下がるのだ。
いくら見つかるまでは待機していいとはいっても、どうせすぐにばれるのだ。
兵士を集めるのが遅くなるほど、応錬たちにかかる負担が大きくなる。
声を相手にするということは、魔物も相手にするということだ。
時間が経てばウチカゲやリゼの部隊も合流するだろうが、彼らは地上を移動している。
必ずどこかで魔物と接敵し、戦わなくてはならなくなるだろう。
それによって到着の時間が遅れるはずだ。
「それまでに……いや、その前に……!」
飛行速度を上げて悪魔の生き残りを探す。
だが何処に飛んでも同じ風景が飛び込んでくる。
もう既に身を隠しているのかもしれないが……そうなった場合は探すのは一苦労だ。
見つからないことに焦りが募ってくる中、戦闘をする音が聞こえてきた。
山脈を一つ越えた先だ。
とんでもない爆音だったので、向こうで戦闘か何かが起きていることは確実だ。
すぐにそちらへと飛行し、まずは姿を確認する。
山脈と山脈の間……谷になっている場所で悪魔と魔物の大軍が戦っている。
地面から無限に湧き続ける魔物を、一人の悪魔が抑え、後方ではそんなに数の多くない中級悪魔と思われる悪魔が一生懸命魔法を発動させていた。
魔物を一人で押さえつけている悪魔は、下半身が粘液のように溶けている。
それが肥大化して侵攻を阻止しているようだ。
だが楽そうな戦いではない。
表情は硬く、何とかこの現状を維持しているだけに過ぎない様だ。
「アブス様ぁ!! もう駄目です!! 撤退を!!」
「できたらしてるっての!! これ解除したら飲み込まれて死んじゃう!!」
「で、ですが!」
「わったっしは洗脳が得意なの! 範囲攻撃は……苦手……なのぉ!!」
粘液を操作して魔物を殴り飛ばす。
だがそれだけでも相当な体力を消耗するらしく、また防戦一方になってしまった。
「助太刀しよう!!」
「え!?」
「『ファイヤーフェザー』!」
炎翼を羽ばたかせる度に、炎の羽が魔物に直撃して体を燃やしていく。
上空から何に蔓延る魔物すべてを燃やしていき、絶炎によって消えない炎が更に燃え広がる。
奥の魔物を大方燃やした鳳炎は、急降下して侵攻を阻止していた悪魔の首根っこを掴んで引っ張り上げた。
「ほわあああああ!!?」
「暴れるな!」
「うわあああ私の下半身!! 戻って来てー!!」
手を伸ばし、ギュッと握ると肥大化していた粘液が凝縮して跳躍し、悪魔の手の中に納まった。
それを取り込むと下半身がにゅにゅにゅと形成される。
あれは技能ではなく、本当に半身だったらしい。
だがとりあえず離脱はできた。
それから後方にいた悪魔たちに指示を飛ばす。
「悪魔ども!! 撤退だ!!」
「ぅえ!? え!? あ、は、はい!! 全軍撤退!! 防衛ラインまで下がれ!!」
「なぁあんであんたが指揮してるのぉ!!」
「私の絶炎での足止めもそう長くは持たない。燃やし尽くしたらそれで終わりだからな。撤退するのが定石だ」
「って、生まれ変わりーーーー!!?」
「鳳炎だ」
そのまま悪魔を運んでいく。
撤退していく悪魔についていけば、他の仲間にも会うことはできるだろう。
あとは協力を要請するだけだ。
「ね、ねぇ! なんで生まれ変わり……じゃなくて、鳳炎がここにいるの!?」
「ここに声がいるからだ。戦力を早急に集めたい。ダチアとマナもここに来て同胞を探している」
「だ、ダチア様とマナ様も!?」
まさか来てくれるとは思っていなかった。
これが最後の命令だとして、誰もが死ぬまで生き永らえようと戦いに身を費やしていたのだ。
生き永らえることこそが、最大の足止めとなる。
ダチアたちに戦力と策を調えるだけの時間を、悪魔が作るんだと奮起した。
戦況は一方的で、三日間で既に数多くの同胞が死に絶えた。
しかし、同胞の誰もがその死に誇りを持っていたように思える。
自分たちだけ生きていいのだろうか。
そんな疑問が、アブスの中で迷走する。
しかし、ダチアが来てくれたということは戦力を調え、策を講じてきてくれたということ。
自分たちの戦いは無駄ではなかったし、加えて生き永らえたことにより時間を稼ぐことができたのだ。
その考えに至った瞬間、自分たちだけが生きていていいのかという疑念は消え去った。
これからはダチアの兵士として戦いに身を投じればいい。
そこでアブスは、鳳炎が先ほど口にした言葉を思い出す。
「……あれ、ちょっと待って? 戦力は……調ってないの!?」
「そうだ」
「な!? なんで来たの!? こっちはもうボロボロなんだよ!? 生き残っている悪魔も少ないし!!」
「少ないのか」
「当たり前だよ!!」
「こちらにも事情がある。戦力など三日で調えられるわけがないだろう。だが早期決着をつけなければ、悪魔は根絶やしにされる」
「そ、そりゃそうだけど!!」
「だが、策だけはしっかり講じている」
「でも、でも……」
「ええい! うるさいな!! 最後の戦いなんだ!! 声に勝つためにダチアもマナも!! イウボラも出張ってきている!! リーダーであるあいつらが戦おうって意気込んで仲間を集めているのだ!! 大人しく協力するのが部下の務めだろうが!! さもなきゃここから突き落とすぞ!!」
「ひぇ……」
鳳炎に怒られて小さくなるアブス。
彼の言っていることは間違っていない。
だから反論はできなかった。
なんだか胸から込み上げてくるものがある。
それは波のように押し寄せて、アブスの視界を霞ませた。
「ぅえええ……」
「なぜ泣く……」
「す、捨てられて、捨てられてなかったぁ……」
「あいつが仲間を捨てるわけがないだろう。人間たちを、鬼たちを助けるために、お前たちを使って足止めしてもらうしかなかったんだ。一番苦しかったのは、あいつら三人だろうさ」
「ふええええ……」
事実ダチアやマナは、悪魔たちを使って足止めをするという策を講じた時、これは苦肉の策でしかないと零していた。
同族を使って足止めしようなどとは、普通思いつかないだろう。
だが、あの二人はそれを実行した。
悪魔たちから見れば、捨てられたと思ってもおかしくはないものだろう。
奮起した理由も、それを紛らわすためのものだったかもしれない。
「にしても、当時は戦い合っていたというのに人間を守るとはな。時代の流れは憎しみを消すのかもな」
「うっ、うぅ、ち、違う……。ダチア様は……声の顕現を、阻止するためだけに、人間の国を滅ぼした……。ぐすっ、だから……」
「……罪悪感を感じていたのか。悪魔らしからぬ奴だな、まったく」
鳳炎は小さく嘆息した後、飛行速度を上げて悪魔が潜んでいる場所へと飛んでいった。
早くに悪魔が見つかったことは幸運だ。
辛いだろうが、すぐにでも出発できる準備をしてもらおう。
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