6.31.思い出した記憶の断片
「日輪様……! 日輪様であらせられるか!?」
「お婆ちゃん、その日輪って人誰?」
「白蛇様じゃ……! 白蛇様じゃぞ!」
そう言いながら、老齢の鬼は俺に近づいてくる。
確かに俺は鬼たちから白蛇と呼ばれてはいるけど、残念ながら日輪とか言う名前ではない。
……まじか。
こいつマジか!
もしかしなくても先代白蛇知ってる奴じゃねぇのか!?
そもそもこんな事件が無くても、俺はここにもう一度戻ってくる予定だったんだ。
先代白蛇。
そいつが何をしていたかを調べる為に。
だがここで先代白蛇……日輪を知っている鬼が現れてくれたことは非常にありがたい話だ!
聞きたかったことが聞ける。
知りたかったことが知れる!
もしかしたら、あの悪魔が言った事が分かるかもしれない!
『鳳炎! 通訳頼む!』
「え、あ。うん、わかった」
鳳炎にそう言い、俺は何とか姫様の腕から脱出する。
隣にはずっとへばりついているが、会話の支障にはならないのでとりあえずそっとしておく。
『婆さん、名前は?』
「お忘れですか……! ヒナタでございます……!」
ヒナタはそう言いながら跪いて持っていた薙刀を置き、首を垂れる。
今は日輪と俺を勘違いしているようだが、彼女は日輪に随分と誠意を尽くしていたらしいというのがこの動きで分かる。
『悪いが、俺は日輪ではない。俺の名前は応錬。お前が日輪と言っているのは、おそらく先代白蛇の事だろう』
「先代……白蛇様……」
『日輪とは、最後にいつ会ったんだ?』
「……思い出せませぬ。が……私が七十四歳の頃だと記憶しております。それも今思い出したもの故、定かではないやもしれませぬ」
『……悪いが、失礼を承知で今の年齢を教えてくれるか?』
「五百七十四歳でございます」
『ゴッ』
五百七十四歳!?
ってことは五百年前の話じゃねぇか!!
ライキよりも年上の鬼とかいたんだな……。
「しょ、少々お待ちください! 先代白蛇様の伝承は今も尚継承されておりますが、五百年以上前の事だとは記載されておりません! それに、名前も……!」
「そうであろうな……。白蛇様、日輪様は自身の姿を隠した際、人々の記憶から自身の名を消したのじゃ……」
「……ワシの技能……?」
「そなた、日輪様の加護を持つ鬼であったか。日輪様は自身が有する技能を全て鬼に託された。その一つであろう……」
そんな事が可能なのか……?
自分の姿を消す、っていうのがどのレベルかは分からないけど、自分の技能を託すっていうのは難しいと思う。
だが自分の名前をかき消しているのであれば、鬼からも名前を忘れさせる。
となれば、今の白蛇の伝承に先代白蛇の名前がないのは頷ける。
……まず、先代白蛇の伝承を聞きたい。
『ライキ。今の先代白蛇の伝承を教えてくれ』
「はっ。白蛇様というのは、わしらの中では神の使いとされております。そして白蛇様は言葉を理解し、手にかけてしまえば呪いを身近な者にかけてしまうという物があります」
ソンナコトシナイヨー。
でもこれは昔にテンダと姫様から聞いた話と同じだな。
「白蛇様に名前はありませぬ。ただ昔、武具を拵えさせ、それを鬼の武具として広めたという物があります。昔の鬼の武器は棍棒や金棒で、防具などは布で動きやすさを重視したものばかり。しかし、白蛇様の智恵により武具の制作に着手しはじめ、それが今でも残っているとされております。それが……黒鱗鎧と日本刀にございます」
……この世界の鬼に日本の文化を持ち込んだ先代白蛇は、随分と武具に関しての知識があったらしい。
作り方とか教えてたんだろう?
という事はずいぶん昔の職人だったのかもしれないな。
「ワシが若い頃は既に武具の下地は出来ており、様々な武器、防具を作っておりました。そして鬼神舞踊も白蛇様が伝授したと言い伝えられております。一人の鬼がそれを極めましたが、どうにも人に教えるのが苦手だったらしいのですが、これも白蛇様の提案として、傘踊りとして祭りごとに仕立てればよいのではないかと申されたそうに御座います」
「因みに、俺とウチカゲの先代がその鬼神舞踊の初代当主です」
「先代白蛇様は、武術や武具など、今の鬼の里が形成される礎を築き上げたお方だとされておりますね」
伝えられている伝承はこれくらいらしい。
本当はもっとあったようなのだが、時代と共に重要な部分しか残されなくなってしまったのだとか。
だがそれだけでも先代白蛇が何をしたのかが分かった。
……そして、先代白蛇はあの悪魔と接点があった。
それが何かは全く分からないし、何処でどう繋がりがあったのかも想像の域を出ない。
では、先代白蛇を知っている鬼に聞けばいい。
俺はヒナタに問う。
『ヒナタ。先代白蛇、日輪はどんな奴だった?』
「……すみませぬ……。あまり、思い出せぬのです」
『……そうか……』
「思い出したのは、日輪様のお名前と、身を隠されたという事実のみ……。私も日輪様に記憶を消されておりますので、断片的にしかわからぬのです」
『ヒナタ。先代白蛇は、天割という技能を使っていたか?』
「……! それは、使っておりました。先代白蛇様が一番得意とする御業であり、鬼神舞踊の悪鬼羅刹の元となった物でございます……!」
俺はその悪鬼羅刹というのを見たことがないので何とも言えないが、ウチカゲは確かに、という顔をして一人で納得していた。
俺の視線に気が付いたのか、慌てて説明してくれる。
「す、すみません。鬼神舞踊の悪鬼羅刹とは、テンダが使う鬼神舞踊の奥義の様な物です。俺は先ほどそれを見ましたが、確かに応錬様の天割にとても似ていたように思います。ヒナタ様が申されていることに、嘘偽りはないかと」
……悪魔がどうして俺の天割を見てから態度が変わったのか、少しわかった気がする。
あの変わり方からして、悪魔にとって日輪が大切な存在だったように思える。
険悪であれば、あのような物言いの仕方はしないだろう。
もっと刺さる様な言葉をかけてくるはずだ。
一体悪魔と日輪はどんな関係性があったんだ?
『悪魔との関係性は何かあるか?』
「…………」
ヒナタは少し考える素振りを見せた。
思い出そうとしているのか、何かを隠そうとしているのかは分からない。
だが、一つ頷いて俺に目線を合わせる。
「すみませぬが、わかりませぬ」
『そうか』
「ですが……久しく忘れていた謎の言葉を思い出しました」
『それは?』
「『ヒナタ。何年後になるかわからないが……。その時は、
…………完全に、俺たちの事じゃん。
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