10.14.元より


 いや待てなんでアスレが声のこと知ってんだ!?

 ウチカゲたちが教えた……?

 いやいやいやいや、さすがにそれはない。

 名前を口にしてはいけないはずだし……あ、でもこの作戦を説明するためには教えなければならなかったとかそういう……?


 邪神とかであれば口にする事もできるし、そう伝えたのだろうか。

 それだったらまぁ納得はできるが……とりあえず話を聞いてみよう。


「ウチカゲから教えてもらったのか?」

「詳細は教えてもらうまで分からなかったんです。ですが、悪魔が何かをしようとしているというところまでは、こちらでも掴んでいたのですよ」

「す、すげぇな……」

「大したことではありません。何せ私の父上が悪魔の魅了によって操られていましたから」

「そうだったの!?」

「あの一件の事件も、悪魔が一枚嚙んでいたんです。ウチカゲさんの故郷、そしてバミル領……奴隷が悪魔と絡み、一番の権力者である父上がそれをもみ消す。ここまでたどり着くのにずいぶん時間を使いましたが、無駄ではなかったですね。おかげでウチカゲさんの話をすぐに飲み込むことができ、こうして鳳炎さんが予測してくださった策を実行しているんですから」


 なるほどねー……。

 まぁその辺は分かってたけど、まさかアスレがそこまで知っていたとはな。

 いや、これは……。


「バルトか」

「はい。私だけではたどり着けませんでしたよ」

「あいつも鳳炎と同じで頭が切れるからなぁ……。敵に回したくはないよ」

「それは同感です」

「なんか失礼な会話が聞こえるんだけど気のせいかなー?」


 バルトが扉を開けてこちらに歩いてきている。

 そこから会話が聞こえるって地獄耳か。

 尚更怖いわ。

 ……相変わらず小さいな。

 だってのに鳳炎と同じかそれ以上のスペックを持ってるんだからすごいよね。


 バルトはアスレの隣りに座り、お菓子を一つ食べる。

 それを飲み込んだ後、鳳炎を見た。


「鳳炎君と会うのは二度目だね」

「お久しぶりです。前鬼の里ではお世話になりました」

「僕は何もしていないけどね」


 手を軽く振っておちゃらけた。

 だが物資を持って来てくれたのだ。

 それはバルトの指示だろうし、何もしていないわけがない。


 しかし本人が言うのだからと、鳳炎とアスレは特に追及するようなことはしなかった。

 それよりも、鳳炎は話を進めたいらしい。


「バルト様。私自身今一度この作戦を見直したのですが、気になるところはございませんでした。何かありましたらお教えいただきたく存じます」

「か、硬い……。なんだ応錬君のお友達にも常識ある人物がいたんだね!」

「おい待てどういう──」

「んじゃ話すよー」


 めっちゃはぐらかされたんだが。

 いや、俺が王族相手に敬語使っていないというのは事実だけども。

 今更使うとか気持ち悪いでしょうがっ!


「えーとね……鳳炎君の考えてる三つの内二つは確かに有効だと思う。でも一つは絶対に違う」

「どれのことでしょうか?」

「今やってる……この魂を使うやり方のこと」

「……………………あ」

「気付いた?」

「失念しておりました。自分が経験してきた事を軸に憶測を立てましたので……」

「待って説明して」


 俺もアスレもお前らが何を話しているのかほとんど分かってないから!


「ああ、なるほど」

「!?」


 いやアスレお前分かったのかよ!

 ちょっと待って置いてけぼりにしないで!

 俺にも説明して!!


「あー……えっとだな。応錬にも分かりやすく説明すると」

「いやもうちょい語彙を上げてもらっても大丈夫だけど」

「んじゃ普通に。私はサレッタナ王国とバミル領で起きたことを軸に問題解決の方法を探っていた。でも、悪魔は他の場所も破壊していたよな」

「それは知ってる。魔王のマナが見せてくれた地図に書いてあったんだろ?」

「そうだ。他の地域でもサレッタナ王国やバミル領の様に大量の魔物が押し寄せて来たのかというと、そうではない。なんせウチカゲの故郷ではほとんど攻勢に出ることはできなかったんだからな。そういう話だったろ?」

「ああ、そう言えば確かに……」


 数万の大軍が一つの国、もしくは領地を襲ったとなれば、それは周辺諸国へと広がるはずだ。

 実際サレッタナ王国とバミル領の一件はすで広まっており、防衛策などを練り始めている国も存在するらしい。

 だが他でそう言った話は聞かない。

 と、いうことは……大軍の魔物が国を襲った事例がないということになる。

 魔物を殺して魂を声復活阻止に使うというのはあまり考えられないのだ。


 よく考えてみれば、悪魔が本当に魂を使って復活を阻止するということであれば、もっと弱い魔物を送り込んできていたはずだ。

 それを人間たちに殺させれば解決できるのだから。

 だが彼らは人間を減らすことを目的をして動いていた。

 その点から考えても、この策は違うということになる。


「私としたことが……。気付ける材料は多かったというのに……」

「そうだねー。でもまぁ、実際に体で経験していることの方が頭に残るからね。僕はそれを遠くから見て紙の上で考えたんだ。経験してこびりついた情報と、割と当たり障りのない情報。どちらも見ないとね」

「勉強になります」


 んー、小さな見逃しで変わるのか……。

 となると、これからは魔力の消費をすればいいのか?

 こっちは割と簡単そうだけど……。


「では、次の策に早急に移らなければなりませんね」

「うん。まぁ兵士たちの力を合わせれば一瞬だろうけど……。ねぇ、鳳炎君。どれくらいの魔力を使ったらいいのかな?」

「すいません、それは私にも分からないのです。私は方法だけを推察しました。どうなったら復活を阻止できるのかという明確な基準はありません」

「んー……。難しいところだね~」


 難しいっていうもんじゃないと思うんだが。

 判別するのは不可能に近いのではないか?

 魔力が見えるわけでもないし、何かエフェクトがある訳でもない……。

 分かるのは悪魔の……なんだっけ?

 ダロスライナだっけ?


 あいつがいつも場所を決めているんだろう?

 だったらそいつを呼んできてもらえれば済む話だとは思うが……。

 悪魔は今回、無干渉なんだっけか。

 となると難しいかなー!


「でも、やってみるしかないんですよね」

「そうだね。邪神って聞いてびっくりしたけど、悪魔が味方である場合……その復活を阻止しようとしていたのなら今までの行動にも説明がつくことがある」

「そうなのか?」

「人間を殺すと言っていても、逃げた人々は手にかけなかったんだ。逃げる人も追わなかった。唯一殺したのは、立ち向かって来る人だったよ」


 破壊された場所を調べたのか……。

 鳳炎もマナの持ってきた地図を見るまで、他にどんな場所で活動をしているか分からなかったんだもんな。

 まぁ鳳炎だけに限った話ではないが。


 それをバルトたちは調べたってすごいな。

 どんな情報網だよ。


 アスレが立ち上がり、机の上の広げていた資料をすべて集める。


「では早速やってみましょう。しかし……邪神というのは本当に居るんですねぇ……」

「僕もそれは思った。ウチカゲ君もマリアギルドマスターも何も教えてくれないんだ。その辺、何か知らないかい?」

「……いえ、知ってはならない……としかお伝えできません」

「そっかー。まっ、大丈夫」


 椅子から飛び降り、バルトはアスレに近づいた。

 少しだけ胸を反らして、こちらを見る。


「君たちは信用してる。それに、何も聞かずに手伝うのって、なんかかっこよくない?」

「……今めちゃくちゃ聞いてたじゃねぇか……」

「そこは乗ってよ応錬君!」

「え!? ごめん!?」


 いやなんで俺が謝ってんだ……。


 ま、確かに詳しい事情を知らずに俺たちを手伝ってくれるっていうのは、素直にありがたいし嬉しい。

 向こうからしたら恩返しの様なものなのだろうが、それよりも信用されているということが自信にもつながる。


 ここまで手伝ってもらっておいて、失敗しましたじゃすまされないよな。

 成功したかどうか分かる術はないけれど、やってやろうじゃないですか。


 俺も立ち上がり、白龍前に手を置いた。


「頼むぞ。アスレ、バルト」

「任せなさいっ!」

「お任せを、応錬さん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る