10.13.合流


 大きな城壁が見えてきた。

 本当に久しぶりに来た気がするなと思いながら、どこに向かうかを決めておく。

 ラックたちを休ませるところがあればいいのだが、まぁその辺はアスレが何とかしてくれるだろう。


 とりあえず無断入国は良くないので、ガロット王国からちょっと離れた場所に着陸する。

 ここからは徒歩だが……まぁ目立つよね。

 でっかい飛竜に騎竜とバトルホース。

 目立たないわけがないか。

 これ、中に入れるかな?


「あ! 応錬さん!!」

「誰……」

「ま、まぁ一介の兵士の名前なんて覚えてないですよね……。前鬼の里に援軍に行った一人です」

「おおー! そうか! いや、あの時は助かった。ありがとうな」

「いえいえ! えっと、入国手続きですが……」

「やっぱりこいつらがいるとマズいか?」

「そんなことはありませんよ。それと応錬さんが来た時に城へ来てくださいとアスレ様から承っております」

「じゃあ行かないとな。俺も久しぶりに会いたいし!」


 ……まぁ、アスレのこの誘いは今の現状を話してくれるためのものだろうけどな。

 とはいえ、行かないわけにはいかないし、さっさと入国手続きを済ませよう。


 銀貨数枚を支払い、俺たちは中へと入る。

 普通であれば銅貨だけで済むのだが、今回は飛竜、騎竜にバトルホースがいるので少し値が張った。

 まぁ特殊な個体だし仕方ないけどね……。


「よし、じゃあこのまま城に向かうか!」

「こんなデカいの連れて行く気か!?」

「多分アスレなら場所を用意してくれるはず……。バトルホースも普通の馬小屋に連れて行ったら馬が怖がって迷惑だろうしな」

「戦力にはなるが置き場に困るか。少し軽率だったか……」


 いやいや、そんなことはないぞ。

 これからの働きに期待しておけば、そんな悩みなんてすぐに消える。


 ……で、凄い騒がしいけどこれ何が起こってるんだ?

 なんか冒険者がその辺走り回ってますが……。

 え、これもしかして作戦実行中!?


「おおい! しっかり押さえとけ!!」

「ぬおおおお!!」

「あっ!! 小さいのが逃げた!!」

「全力で捕まえろ!! ていうか何してるんだ貴様!!」

「す、すいませんっ!!」


 冒険者や騎士団たちが、魔物を捕まえてガロット王国の中へと持ち込んでいる。

 あれから解体場に持って行って処理をするらしいが……ていうかこの絵面怖いな……。

 領民も怖がっちゃってるよ??


 仕方ないこととはいえ、本格的にやるんだな……。

 これアスレの命令なのか?


「ま、話を聞けば分かるか……」

「ここまで本気でやるとはね……。私としては嬉しい限りだが」

「限度があるだろ……」

「そんなことはないぞ。私たちが戦った魔物の軍勢は一万を優に超えていた。これでも足りないくらいだよ」

「そ、そうかもな」


 ……でもなーんか違う気がするんだよなぁこれ。

 詳しくは説明できないけど、何か見落としている気が……。

 んー、分からん。


 まぁとにかく、まずはアスレと会うか。



 ◆



 兵士たちは何かと俺のことを知っているらしく、道中よく声をかけてきてくれた。

 前鬼の里に来てくれた兵士、バミル領へと応援に来てくれた兵士……。

 会う度に俺は礼を言って、彼らの仕事に戻ってもらった。


 なので少し城に辿り着くまで時間が掛かってしまった。

 警備にあたっていた衛兵は魔物が普通に歩いていることに驚いていたが、俺が顔を出すと納得してくれたらしい。

 うーん、解せん。


 彼らにも俺の話は通っていたらしく、すぐに中へと入れてくれた。

 その前に連れて来た四匹をここに大人しく待機させることにして、俺はようやく城の中へと足を踏み入れる。


 一人の兵士に案内されて行くのだが……連れて行かれた場所は城の庭だった。

 芝生が綺麗に広がっており、花壇には花も多く咲き誇っている。

 季節的な問題でまだ花をつけていない低木もあるようだったが、それはそれで綺麗だった。

 よく手入れが行き届いている。


「応錬さん、あちらです」

「ずいぶん洒落たところでお茶してんなぁ……」

「貴族とはそういうものである」

「王族だけどな」


 アスレは庭に設けられたスペースに座り、そこでお茶をしていた。

 こういうのをガゼボとかいうらしいが……真っ白な作りをしているのでとても綺麗に見える。

 だが彼は多くの書類も同時に見ているようで、あまりリラックスはできていないだろう。

 どうやらまだこちらに気付いていないらしい……。

 ここは……。


「よっ! アスレ!」

「うわ!! って、応錬さん!! お待ちしていました!! 久しぶりです!!」

「おいおい、王族風の喋り方はどうした」

「応錬さんの時くらい肩の力を抜かせてくださいよ……」

「それもそうか」


 二人でひとしきり笑ったあと、俺も近くにあった椅子に座る。

 鳳炎は一礼をして、俺の側に立った。


 ……いや、ちょっと待て鳳炎。

 これじゃお前が俺の従者みたいになるから普通に座ってくれないかな。


「応錬さん、そちらの方は?」

「俺と同じ魔物の鳳炎だよ」

「お初にお目にかかります、アスレ・コースレット様。サレッタナ王国でAランク冒険者として活動しており、今は応錬をリーダーとする霊帝にてパーティーを組んでいる鳳炎と申します」

「うわ気持ち悪」

「おい貴様」

「はははは! 応錬さん以外の魔物でしたか。どうぞいつも通りの喋り方で結構ですよ」

「……アスレ様は、王族だというのに物腰が低すぎませんか?」

「これが素なんです。いつもは何とか背伸びをして他の貴族や王族になめられないようにしているんですよ」


 アスレと別れてから、こいつの活躍はまったく届かなかったが、それなりに苦労しているらしい。

 頑張っているんだな。


 俺のことを昔から知っている奴は、そうそう居ない。

 気兼ねなく話すことができるアスレは、俺にとって重要な存在だ。


「……本題に入ってもいいか?」

「それ程切羽詰まっている状態ということですね。バルト兄様をお呼びしますので少々お待ちください」

「体調はどうだ?」

「すこぶる快調、だそうですよ」


 無茶をしていないといいんだけどな。

 アスレに変わって前鬼の里に来た時も元気そうに見えたけど……。

 まぁ自分の体は本人が一番よく分かっているだろうから、あまり口出しはしないでおくか。


 アスレは近くにいた従者にバルトを呼んでくるようにと指示を出す。

 一礼をした後、すぐに城の中へと入っていった。


「バルトがいないと駄目なのか?」

「そういうわけではないのですが、どうやら今回の作戦を考えた鳳炎さんとお話がしたいようでして」

「私とですか」

「なんでも、引っ掛かる点があるとのことで」

「私も万能ではありませんからな。指摘されるというのは嬉しいことです」


 鳳炎はほとんどのことを一人で解決してしまうし、頭も回る。

 無駄がないわけではないだろうが、口出しをされることはほとんどしない。

 だから指摘もほとんどされないんだけどね。

 俺が指摘したとしても、茶化したりするくらいかな。


 鳳炎はその会話のあと、少し自分でも何が間違っていたのかを確認し始めた。

 自分が経験してきた事を中心に考えるが、やはり何かが抜けているは思えないようだ。


「ふむ、バルト様とお話しするのが楽しみですね」

「それは何よりです。ああ、そうそう。ウチカゲさんやアレナともお話をしましてね。今回の邪神復活のお話……ガロット王国総出で対処いたします」

「「!?」」


 え、え!?

 なんでアスレがそれを知ってんの!?

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