5.10.Side-鳳炎-開戦
進軍開始から一日が経った。
予定としては今日魔物の軍がこちらに迫ってくる頃合いだ。
その間にできる事はしておく。
今日は作業がメインになってしまう。
魔法が使える者は技能を使って土を掘り起こし、掘り下げたりして土塁を作っていく。
これがなかなかに重労働らしく、魔力切れになることもしばしばである。
だがここは頑張ってもらわないと、足止めが出来ない。
この土塁は大きな魔物を足止めする為に使う物であり、小型の魔物は特に考えていないのだ。
今日この日、小型の魔物は殲滅させる予定である。
そうしなければ防衛が持たないだろうからな。
「前衛を勤める者は今の内に休んでおいてくれ! 見張りは交代でしろよー!」
私は空を飛びながら指示を出していく。
今回私についてきてくれた冒険者は全員がそれなりの腕を持っている者たちだ。
作業はとても早い段階で行われている。
この調子であれば敵が来るまでに準備を整えることが出来るだろう。
因みに今回は徒歩でやってきているので、全員が多少なりとも疲れてしまっている。
本当は魔法陣を使用して一気にここまで来たかったのだが、流石に二千人移動する為に魔法陣を使うと負荷が凄いらしい。
あれは古いらしいからな……。
新しい物であれば、そう言う事も可能だとは聞いたが……。
ま、そもそもあれ五人くらいしか一気に転移できないらしいし、教会に儲けさせるってのもなんか癪だしな。
それに転移の場所間違ったらとんでもないことになる。
無駄なロスを減らすためにも、こうした軍単位での出陣は徒歩が基本になるのだ。
「ていうか皆士気高いな……」
何だろう、この勝てるっていう自信しかない者たちの集まりは。
滅茶苦茶心強いけど……。
ま、まぁ私がしっかり士気を上げてやったからな!
当然の事だろう。
「っしゃ騎士団見返すぞおらー!」
『『おおーー!』』
あ、そっちか。
まぁ士気が高いのには変わりないし、別に問題ないか。
「鳳炎さーん!」
「お、どうしたー!」
「マナポーションが無いんですけど、何処かのチーム余ってませんかー!?」
「それなら右の方にマナポーションの馬車がいたはずだ! そこからもらってこい」
結構消費が激しいな。
もう少し余裕を持っておくべきだったか。
馬車はどうなっているんだ?
そう思い、ポーションが準備してある馬車の方に飛んでいく。
そこに行ってみると、数人の冒険者がポーションをいそいそと運び出していた。
だが人手が足りていないのか、殆ど積まれているままだ。
しかしなぜ馬車を使わないのだ?
「大丈夫であるか?」
「あ、鳳炎さん! 実は馬車の車輪が壊れてしまいまして……。運ぶのに時間がかかっているんです」
「ああ、そう言う事だったのか」
不備はこの際仕方がないか。
よくここまで持ってくれたものだな。
予備の車輪もなければ、代用できるような馬車もない……か。
「分かった。人を集めてこよう。お前たちも暇そうにしている奴を捕まえて手伝ってもらえ。俺からの指示だと言えば動くだろう」
「了解しました!」
今は前衛に出る予定の冒険者が余っているはずだ。
休憩中で申し訳ないが、土塁が完成しなければ突破された時危険だからな。
空を飛んで休憩しているはずの冒険者の元まで飛んでいく。
すぐに見つけることが出来たので、そこに降りて行こうとしたその時。
カンカンカンカンカン!
けたたましい程の騒音が一つの方角から鳴り響く。
あれは見張りをしている物が持っているはずの魔道具だ。
敵の接近を知らせる物だった筈……!
「総員!! 戦闘態勢に入れー!!」
低空で飛行して冒険者にそう叫びかける。
その間にも魔道具の音はどんどん数を増やしている様で、何処に居ようと敵の位置が見て取れるようになった。
低空で飛行しながら、敵が突き進んできているはずの場所を見てみると……。
奴らは確かにそこにいた。
報告通り、地下やダンジョンにいるはずの魔物ばかりだ。
パッと見脅威度はそこまで高くない。
ここにいる冒険者であれば対処できる程度の魔物たちだ。
そこは問題ない。
だが……。
「数が……報告より多くないか……?」
あれは群れ、軍という表現では生ぬるい。
まるで津波だ。
魔物の津波。
この表現が一番しっくりくるだろう。
何という数だ。
報告では一万程度……と聞いたが、これは一万という数ではないぞ!
どれだけいるんだ……?
五万いてもおかしくない数だ。
「お、おい……何だよあれ……」
「わ、わかんない……。魔物なのよね?」
「いくら何でも多すぎるだろ! お、おいどうすんだこれ!」
流石にこれを見れば士気も下がるか……。
仕方ない、あまり使いたくなかったがやむを得ん。
だがその前に観察だ。
幸いにして敵の動きは遅い。
所詮は洞窟にいるはずの魔物たち。
機動力は地上では遅くなっている様だ。
これであれば馬車でも余裕で逃げることが出来るだろう。
それに敵は大きいのと中くらいの、そして小さいのがいる。
一番多いのは中くらいだな。
小さいのが先陣か。
こいつらを殲滅するのが今回の私たちの役目だ。
それだけ片づけたらすぐに撤退させるしかないな……。
こんなのに飲まれたら流石の私でも勝ち目はない。
防衛で全てを殲滅する方が賢明だろう。
前衛が役に立ちそうにないからな……。
物量で押し切られて終わりだ。
「全軍に通達! 前衛部隊は帰還準備! 魔導士は攻撃準備を整えろ! 物資班は持ってきた油を土塁に流せ! 急げ急げ時間が無いぞ!! 何とか時間は稼ぐから早くするんだ!」
「わ、わかりました!!」
「俺が攻撃したら魔導士は攻撃を開始! 魔力が尽きない程度に強力な魔法を撃て! 撃ち終わり次第物資班と共に撤退だ! 前衛部隊はスムーズに進行できるように手配しろー!」
一通り叫んだ後、空高くまで飛んでいく。
そこに見えるのは黒い塊。
大きい魔物が木々をなぎ倒しながら歩いてきている為、もう森はボロボロだ。
慌ただしくしながらも、冒険者は何とか情報を伝達して作業に取り掛かっている。
士気は一気に下がってしまったが、撤退という言葉を聞いてまた士気が上がった。
正確な指示を出してくれる存在は、冒険者にとってとても有難い存在だったのだ。
「とりあえず、出来る限り時間は稼がせてもらうぞ……!」
これを使うのは二回目だな!
「行くぞ……。奥義、『紅蓮の芽』」
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