5.9.冒険者出陣
冒険者の出立準備が着々と進んでいる。
元々冒険者は自分の好きなタイミングで依頼をこなしに行く為、大した準備などはしないらしい。
その為か準備が速い速い。
招集掛けたの今日だよね?
もう出陣できる準備整ってちゃってますよね皆さん。
だってほとんど動いてないもん。
指示待ちじゃないですか。
てか何で俺もここにいるん?
絶対俺必要ないよね?
てか俺さっきから置物で何もしていないんだけど。
全部鳳炎がテキパキやっちゃってるし、マリアはマリアで物資の調達とか指示とか出してるし、他のギルド職員も冒険者に頭下げながら何か頼みごとをしている。
俺いるーーーー??
そう言えば零漸たちの方は大丈夫だろうか?
あいつらにも泥人渡しておけばよかったなぁ。
んー、まだ技能を有効活用できてない。
てか何なら使ったことない技能すらある有様だ。
いやでも名前からして危険なんですよ。
そんなの練習にっつってぶっ放していいわけないでしょ。
天割の二の舞になるわ。
てかギルドってここ以外にもあったんだね。
俺知らなかったよ。
まぁ一つのギルドで四千の冒険者とか捌けるわけないわな。
なんか小さいギルドとか大きいギルドとか分かれているらしい。
何処でも受けれる内容は同じらしいから何処に行ってもいいみたいだけどね。
でもギルドマスターは一人なんだとよ。
後はギルドの支部長って役割になるらしい。
本社と支社みたいな感じかな。
「パーティーリーダーは集まってくれよー!!」
お、鳳炎がまた指示してる。
こうしてみると鳳炎って人の上に立つの得意っぽいよなぁ。
前世で生徒会長とかやってそう。
でもあいつ実は僕っ子なんだろう?
んー、やっぱ鳳炎は一人称僕の方が似合うんだよなぁー。
ま、それは好みだな。
俺が言う事ではあるまい。
ダンッ! ダンッ!
「聞けー!」
鳳炎が石突を二回床に突き、大きな声を出して場を一瞬で静かにさせた。
めっちゃびっくりしたじゃねぇかやめろよ。
「準備は整った! 皆この短時間でよく動いてくれたな! 感謝する! ここにいるのはパーティーリーダーだけだが、後から君たちの仲間にも私の言葉を届けて欲しい!」
そう言って、また石突で地面を突く。
ていうかこういう役目ってマリアがした方が良いんじゃないの?
違うの?
てか準備整えるの速くね!?
流石というべきなのかこれは……。
「皆も知っての通り、今この国に魔物の軍が迫ってきている! このまま放置していればこの国はひとたまりもないだろう。そして騎士団は役に立たない! 国を守る為と言っているが、やっている事は臆病者のすることである! では我々が立ち上がり、この危機を凌ぐしかない!! 奴らの力無しでもこの国を守れると、この戦いで奴らに一泡ふかしてやろうではないか!」
『『『『おおおおーーーー!!!』』』』
とんでもない声がギルドに響き渡った。
それは地面を揺るがさんばかりの勢いだ。
そんな腹から声出さんといてー?
俺耳いかれちゃう……。
そこでまた鳳炎が石突で地面を突く。
これを合図として冒険者たちは一気に静かになる。
やっぱなんかすげぇな鳳炎。
「君たちの役目は既に通達しているはずだ! 各々ができる事を最大限活かせる戦場にせよ! 大局を握るのは私たち冒険者である! 何があっても自分の役目をはき違えるな! この戦いは一人の犠牲者が出ただけでも私たちの負けだと思え! 一人の死が全てを狂わせる事を忘れるな! なにせ私たち冒険者の志しはただ一つ!」
『『『『『生きてこその冒険者である!』』』』』
ダンッダンッダンッ!!
「その通り!! 報奨金は弾むと、この私とマリアギルドマスターが保証しよう! だがそれを成すには騎士団に手を出させないようにする必要がある! この意味が……君たちには分かるはずだ!!」
「鳳炎お前中々悪いこと考えるな!!」
「奴らが悪いのだから仕方あるまいー!!」
こいつ騎士団から金もぎ取る気だ。
まぁ……できないことは無いだろうけどさ……。
うわぁマリアもやる気満々じゃないっすかヤダー。
騎士団、俺はお前らのことまだよく知らねぇから同情してやるよ……。
「行くぞ冒険者諸君!! 私たちの底力を見せつけてやろうではないか!!」
『『『『『『『『『『おおおおおおーーーー!!!!』』』』』』』』』』
ギルドの中にいたパーティーリーダーは勿論、その掛け声は外にいる仲間たちにも届いたようで、同じ様に掛け声を響き渡らせる。
約四千人の大きな掛け声だ。
冒険者に関わらず、物資を運ぶ商人や、道行く人もその声に流されよく分からないまま掛け声を出す。
大きな声を出すというのは気持ちの良い物だ。
この大きな掛け声は、遠くにあった城まで伝わったのだった。
「防衛は応錬に任せてある! 後のことは考えるな! 目の前のことに集中するのだ! では行くぞ!!」
鳳炎を先頭にして、冒険者一同は門に向かった。
二千の冒険者が出て行っても、残りの者たちは士気が高まり続けており、テキパキと防衛の準備にかかっていった。
「ほ、鳳炎……あいつやべぇな……」
「なーんか知らないけど、あの子みんなの心を掴んじゃうのよね~。私の出番なくなるわぁ」
「……同じことできるか?」
「無理ね」
「おい」
駄目じゃねぇか。
◆
Side-??-
「おおー! おおー! すっごいのだー!!」
小さな子供が、大きな掛け声のする方向を眺めていた。
あの掛け声には一体何の意味があるのだろうかと疑問ではあったが、その声を聞いているだけで体の中から力が溢れそうになる。
遠くから眺めているの、あの場所でいったい何が起きているのかは分からない。
だが楽しそうなことが起きているという事だけは分かる。
今からでもあの場所に行ってみたいと心の中では思っているが、身分がそうはさせてくれない。
「王子。此処に居られましたか」
「おお! じぃか! 見よ見よ聞け聞け!! あの声を! とっても楽しそうではないか!?」
「ほっほっほ。あれは冒険者でしょうな」
「ぼーけんしゃ? 騎士ではないのか?」
「ええ」
初めて聞いた言葉だ。
だがそれが何故か体中をくすぐってくる。
冒険者という物を彼はまだ何も知らない。
教えてもらっていなかったのだ。
「気になるぞじぃ! ぼーけんしゃとはなんなのだ!? 騎士とは違う強さがあるな! いいな! いいなぁ! できる事ならぼーけんしゃを側に仕えさせて話を聞きたいぞ!」
「無茶を言ってはなりませんよ。もう王子の側近は決まっておるではないですか」
「話を聞くだけ! 聞くだけなのだー! じぃー!!」
「ほっほっほ。困りましたなぁ」
はて困ったと、執事である老人は頭を掻いた。
王子はひとしきり駄々をこねた後、また声の聞こえた方を向く。
今彼は冒険者に憧れという眼差しを向けていたのだった。
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