9.28.互角からの追い上げ


「よそ見なんていい度胸じゃない……!」

「しっかり見てるね……」


 大振りのハンティングソードと双剣がせめぎ合う。

 ギチギチと音を鳴らしながら、次はどう仕留めに掛かろうかと思案した。


 敵ながら天晴あっぱれな攻防。

 それは両者が感じている事であり、実力が互角だということもよく分かった。


 カルナは技能を使い、自分の速度を上げ、相手の速度を落とす。

 一見有利に見える技能ではあるが、マリアはデバフ魔法を解除することができる技能を所持している。

 それによって戦況はほとんど変わらず拮抗していた。


 マリアがハンティングソードを押し込み、カルナがそれに気付いて距離を取る。

 もちろん自身の速度を上げているので追撃は絶対に喰らわない。

 素早い動きで後退した後、もう一度地面を蹴って今度は攻撃に転じた。


「スーッ」

「『牙突』」


 霞の構えを取ったマリアが技能を呼び出して突く。

 一直線に飛んでいく斬撃がカルナを掠めた。

 だが速度は変わることなくマリアに双剣を振り下ろす。


 軽い攻撃。

 だが相変わらず殺意の籠った危険な剣は、受ける度にマリアの肌を刺激する。

 これ程にまで逼迫した状況での戦闘は久しぶりだ。


 双剣を払いのけ、今度はこちらが距離を取る。


「……はぁー。疲れるから使いたくなかったけど……」

「……?」


 戦闘が長引けば、作戦に支障が出る。

 もう作戦と呼べるものではなくなっているが……それは置いておこう。


 マリアは目を閉じて奇妙なリズムで手を叩く。

 パパンパンパッ、パンッ、パンッパパンッ。

 片目を開けて視界を確認する。

 相変わらず相手が目の前にいるだけだ。

 もう片方の目を開ける。

 三秒後、こちらに上段からの攻撃が繰り出されるらしい。


 マリアの目の色が変わっていた。

 片目はそのままの黒色だが、もう片方の目が白色になっていたのだ。


「『予知』」

「スーッ」


 きっかり三秒後、カルナは上段からの攻撃を選択。

 完全に見切っていたマリアはそれを半身で避けて回避する。

 ついでに蹴とばしてもう一度距離を取った。


「ッ……」

「うんうん、慣れてきた」


 今度はこちらから攻撃する。

 片方の手だけは自分に当てて。


「『スローリー』」

「『マジックフォーグ』」


 速度を落とされた瞬間、速攻で解除する。

 武器を両手で持って一回転して遠心力をつけた。


 その攻撃はしっかりと武器で防がれた。

 だが、マリアの自動技能がそこでようやく発動する。


 バギャアアンッ!!

 双剣が粉々に破壊された。

 いくら大振りのハンティングソードの攻撃を受けたからといっても、カルナは暗殺者でありそれなりに剣の扱いにはなれている。

 なので今の攻撃では武器は破壊されないと思っていた。


 普通であれば、確かに武器は破壊されなかっただろう。

 だがマリアの自動技能、部位破壊はそれを許さない。

 なかなか発動しない技能だが、それが決まれば戦闘が一気に優勢に傾く。


「ヒュー。ようやく決まった」

「っ!?」

「ギルドマスターを舐めるんじゃないよ?」


 即座に追撃を行う。

 大上段から斬り伏せる様にハンティングソードを振り抜いた。

 刃はカルナの肉を裂き、この戦いにようやく終止符を打つ。

 はずだった。


 ガチンッ。


「……は?」


 刃が通らない。

 大振りのハンティングソードはカルナの肩で完全に停止していた。

 分厚い防具を付けているわけではない。

 何か魔法で強化しているとも思えない。


「残念」


 ザグッ。

 一瞬の隙をついてカルナが折れた双剣の一つをマリアの足に突き刺した。


 マリアの予知は動揺で精度が変わる。

 強すぎる技能は扱いにくいのだ。

 先ほどの予知は、完全にカルナを切り裂いていたはずだ。

 だがそうではなかった。

 それにより動揺してしまい、技能が一時的に解除されてしまったのだ。


「ぐっ……!」


 咄嗟にハンティングソードを振るう。

 それはカルナに当たったが、先ほどと同じように切り裂くことはできなかった。

 再び作られた隙を狙い、もう一つの折れた双剣でマリアの腕を切り裂く。

 短剣と同じような扱いをすれば、折れた武器でも使えないことはない。


 腕を斬られたマリアは大振りのハンティングソードを支えることができず、その場に落としてしまった。

 だがもう片方の手で拾い上げ、すぐに後退する。

 足に突き刺さった剣を抜き、遠くへと放り投げた。


「こ、この技能は……!」


 見たことはない。

 だが、似たような人物を知っている。


「零漸君と同じ……」


 この敵には、今の段階では勝つことができない。

 そう直感した。

 勝てるのは、応錬のみ。


 しかし怪我をした状態で逃げられるか非常に怪しいところだ。

 誰かが近くにいてくれるのであれば何となかったかもしれないが……今は誰も居ない。

 逃げることはできるかもしれないが……相手が本気で殺しに来れば、負ける可能性の方が高かった。


「どうしろっていうの?」

「スーッ」

「!!」


 攻撃が来る。

 即座に立ち上がって体に手を当てておく。

 とにかく仲間の所へと逃げなければならない。

 魔法を得意としない自分が今の彼女と相対するのは非常に危険すぎた。


 ここから近い味方は何処だろうか。

 いや、今は身を隠すことを最優先としよう。

 そう考えてとにかく走った。


「ぐっ!!」

「スーッ……」


 後ろからの攻撃を何とか防ぐ。

 こんな調子では予知が使えない。

 相手の攻撃を往なすので精いっぱいだ。


「攻撃が効かないなんて卑怯じゃないかしら!?」

「相手の嫌がることをするのが、戦闘の基本」

「間違ってないわね!」


 斬られた腕に力が入らない。

 腱が切られているのかもしれないと思いながら、残っている腕で大振りのハンティングソードを操った。

 防ぐにこの大きさは一役買ってくれている。

 だがこれもいつまで持つか分からない。


「ああーもう! 誰かいないのー!?」

「いるぞー」

「うわ!?」

「うわって……」


 応錬が地面から顔を出した。

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