5.34.Side-鳳炎-現状整理


 アレナから何とか解放され、今は手を地面について休憩中だ。

 戦闘中だというのにこんなことで体力を奪われるとは思っていなかった。

 子供の体はこういう振り回しに弱い……気持ち悪い……。


 三半規管がしっかりしているのだろうか……。

 ふぐぅ……。


 気持ち悪くなりながらも話は聞いていた。

 どうやらウチカゲとアレナが周囲にいるムカデを蹴り飛ばしていたらしい。

 そして西側のムカデを全部潰して中央区に向かおうとしている時、丁度僕たちを見つけることが出来た様だ。


 確かウチカゲさんは俊敏が高かったんだよね。

 だからこんなに早くムカデを排除できたのか。

 有難い限りだね。


「現状はどうなっていますか?」

「アレナも知りたい」

「えっとね……」


 まだちょっと気持ち悪いのが残ってるけど、説明しておかないとね……。

 僕もちょっと整理したいし。


 事の発端は魔物の襲来。

 もっと詳しく言えばオークの発見報告からなんだけど、それだと遡り過ぎだからここからで。

 冒険者はそのことにいち早く気が付いて、戦闘の準備を開始。

 ギルドの皆は凄く長い時間働いてもらったから、しっかりと報酬を用意しておかないと。


 で、ギルドマスターが騎士団に援軍を要請したけど却下された。

 これは恐らく、既に敵側が何らかの洗脳魔法でそういう風に言わせていた可能性もある。

 でもロイガーたちがそのことを説明しに来たみたいだし、その時はまだ掛かっていなかったかも。

 だけど王子が権限を持っているのは異常だと思う。

 随分前から潜入していいように操られていたっていう可能性の方が高いかな。


 応錬の話を聞く限り、黒い塊が今回の事件の犯人だと仮定するのが一番だと思う。

 そして操られているのはバスティ・ラックル。

 王と王子に仕えている執事だ。

 塊は二体居たというので、一匹がバスティ・ラックルを操って、もう一人がウイルスみたいな記憶消去技能を持っている。


 消される記憶は魔物が来ているという事。

 だからそれに関連することも忘れてしまう。

 ロイガーとツァールも、魔物の事についてこっちに話をしに来ていたみたいだから、記憶を消されている仲間の近くに来たが為に感染して魔物の記憶を失ってしまった。

 だから防衛戦にも騎士団は来ず、静かに中央区付近をぶらぶらしていたという感じだろう。


 中央区からじゃ外の様子は見えないし、音もあまり聞こえないから……。

 こんな状況になっても気が付くことはできなかったんだろう。


 警備に回っていた騎士団も記憶を何回も消されては戻ってきてを繰り返していたらしいし、報告は上まで上がることは無かった。

 そして避難した国民にもその能力は猛威を振るった。

 帰って来た時は本当にびっくりしたよ。

 冒険者が付き添ってたから今は何とかなってるかもしれないけど、魔水晶が動き出して多大な被害が出た。

 こんなの予測しきるなんて無理。


 それと、ウチカゲさんとアレナさんの話を聞くに、今応錬が対処している魔物の軍勢は全て魔水晶による物。

 ダンジョン内に様々な魔物の入った魔水晶が埋まっていたのだという。

 数は覚えていないくらいに多かったみたいだね。

 よくもまぁそんな数をあのダンジョンの中にいれたもんだよ……。


 でもあのダンジョンの難易度は普通よりも高い。

 魔水晶を設置した人物は、相当な実力者である可能性が高いかも……。

 じゃないと最下層まで行って埋めないからね。


「敵は手強そうですね……」

「そうなんだよね。洗脳ってのが面倒くさいよ。ロイガーとツァールはバスティ・ラックルが何処に行ったか知らない? そいつに黒い塊は付いていたみたいなんだ」

「すまない。私たちはバスティ・ラックルとは会っていない」

「あんな奴と会う機会なんてあまりないしな」


 それもそうか。

 騎士団と王宮執事だもんね。

 会う機会なんてそれ相応の事が無い限りできないか。


 だけど居場所が分からないってのはちょっとまずいなぁ。

 操られているわけだから傷つけるわけにはいかないし、用済みになって殺されても敵わない。

 何とか居場所を探ることはできないかな……。


 そんな便利技能僕持ってない。

 騎士団は……脳筋だし持ってないよね。

 鬼のウチカゲさんは流石に持ってないか。

 接近戦特化だもん。

 アレナさんは……いやぁ……ないだろうなぁ……。


「はぁ……」

「人の顔見て溜息つくなよな」


 まぁできない事をねだっても出てこないんだけどさ。


「で、どうするのー? このままムカデ倒せばいいのー?」

「まだ居る可能性はあるからね。手分けして探そう」

「分かりました。では俺とアレナは東へ向かいます」

「私は騎士団と合流して状況を確認してくる。それから動くから少し時間をくれ」

「早くしてよね?」

「無論だ」


 んぁー!

 飛べないのがもどかしい!


 とりあえず行くぞー!

 殲滅戦だ!

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