5.35.静かになった


 生ごみの腐った匂いが周囲に漂っていた。

 ポンと蓋を開ける音が聞こえてそれが地面に落ちる。

 中にあった液体を全て胃袋の中に落としたことを確認した後、その瓶を地面に叩きつけて割る。


「がっは…………うげっほげぇっほ!」

「だ、だだ大丈夫ですか……」

「死ぬ……マジで死ぬ……」


 俺は箱で届いたマナポーションを飲み続けていた。

 不味い。

 至極不味い。

 この世界にこんな飲み物があって許されていいのだろうか。

 意識がそろそろ飛びそうなんだけど。


 何なんだよこの若干の酸味。

 要らねぇよ。

 息止めて飲むけど、飲み終わって息吸った時の後味が絶望的に不味い。

 ほんとに毎回毎回吐きそうになる。


 だけどこれ飲まねぇと気絶する!

 動けなくなるのだけは避けたい!

 まだあの技能止まらねぇんだよおおおおおお!!

 どうなってんだ破壊破岩流!!

 もう敵居ねぇだろ止まれや!!

 見える限り更地だよ!!


 サレッタナ王国の周辺は更地が多かったけどさ、あれ絶対森の方まで行っちゃってるよな。

 ていうか音がもう聞こえないの。

 あの土砂流の音が聞こえないんですよ。


 いや何処で動いてんだよ!!

 地面の中でも動いてんのか!?

 どうやったら止まってくれるんだよおおおおおお!!


「ど、どうぞ」

「うぐっ……!」


 MPが200を切っている。

 相変わらず一秒に3MPを消費しているのでどんどん削られていく。

 飲み続けなければ……気絶する!

 絶対にやだ!


 MPの総量自体が多いから復活するのに丸二日かかるんだよ!

 そう何度もなってたまるか!


 マナポーションを受け取って一気に飲み干す。

 それを四回ほど繰り返せばMPは200増える。

 死ぬ。


「……あ! 大きな容器に入れて飲みます?」

「馬鹿やろう!! 小さい瓶に入ってるから匂いが飲み干すまでしねぇんだろうが!! 息継ぎさせんじゃねぇよ!!」

「ひえっ……」


 辞めろマジで余計な事すんなぶっ飛ばすぞ……。

 ただでさえ衣服に付かない様に慎重に飲んでんだから。


 でもマナポーションって液体だけど腹の中タプタプにならないんだな。

 それは知らなかった。

 ヒールポーションもそうなのかな。


 なんか飲んだ後すぐに分解されてどっかに行ってる感じがする。

 魔力として返還されているんだろうけどな。

 不思議な飲み物だよクッソ臭いけど。


「ぜぇ……ぜぇ…………あ」

「……?」

「止まった……」


 止まったああああああ!!

 やっと、やっと止まったぞ……。

 もう飲まなくていいという解放感。

 何これめっちゃ嬉しいんだけど。

 

 ドサッと地面に座って休憩する。

 本当に地獄だった……。

 一体何本飲んだんだよ……。


「お疲れ様で……」

「「「持ってきましたよー!」」」

「持ってくんな帰れ!!」

「「「ええー!?」」」


 ええーじゃねぇよ。

 もうしばらくマナポーションの姿すら見たくないわ。

 ていうか何で全員箱で持ってくるんだよ!

 おかしいだろうが!


 はぁ……。

 あ、落ち着いてみると結構冷静になれるもんだな。

 なんか静かだ。


 お?

 これはもしかして中の方も何とかなったのだろうか?

 こっちにいた冒険者はマナポーションを運んでもらうを何人かに頼んだくらいで、他にさせることもなかったな。

 他の冒険者はどうしたんだ?


「他の皆は中に戻って行きました。今頃はムカデを倒していっていると思います」

「お、おいおい。それ大丈夫か? 低ランク冒険者もいるんだろう?」

「低ランク冒険者はこの辺に結構残っていますよ。幸い帰って来たばかりの高ランク冒険者が居ましたからね。彼らにはムカデを。低ランク冒険者には避難誘導、物資の補給や医療班などに分かれてもらっています。応錬さんが以前納品した薬草が役に立っているみたいですよ」

「そ、そうか……」


 良いことすれば巡り巡って自分の所に帰ってくるとは言うが、こういう報告だけでも結構いい気分になれるもんだな。

 ま、役に立ってくれているようで何より……。

 お礼は旨い飯でいいぞ。


「はぁーつかれた……」

「「「「くっさ!」」」」


 うるせぇよ。


 仕方ねぇだろうが!

 こちとら何本マナポーション飲んだと思ってんだ!

 こんなにこれ飲んだ奴お前ら知ってんのか!


 ふざけやがって。

 はぁ、でもとりあえずMPは結構回復した……。

 これが無いと途中でぶっ倒れてたからな。

 素直にこのマナポーションには感謝しておかなければならないだろう。


 えっと、MPは……348か……。

 も、もうMP使うことは無いだろう……。

 ていうかこれ……勝ったんだよな?


 よかったー……。


「お前らもうちょい喜べよ……。俺頑張ったんだから……」

「そ、そう言えば魔物退けたのに歓声とかないですね。でもなぁ……」

「な。なんかあれだよな」

「んだよ」


 冒険者は顔を見合わせてから、声をそろえてこう言った。


「「「「マナポだけ飲んでた人が魔物退けたとは思えにくくて」」」」

「俺の! 技能! だっつーの!!」


 ひでぇな。

 まぁこんなこと言えるのも気が楽になったからだろうけどさ。

 今回は大目に見てやんよ……。

 別に歓声とか求めてなかったけど、こういう勝利した時とか歓声が上がるのが普通じゃん?

 だからちょっと違和感だっただけなんだよね。


「っしゃ、帰るか……」

「そうですね! まだ中にムカデがいる可能性があります」

「俺先行ってますね!」

「私は応錬さんを案内するわ」

「了解だ!」


 なんか勝手に決められていくけど、もう俺も疲れたのでこいつらに任せよう。

 俺頑張ったからそれくらい許してくれるよね。


 ドシュッ。


 一瞬赤い光が真横を通った。

 その光は、先に行くと言って走っていった冒険者に辺り、腹部に大きな穴を空ける。

 何が起きたのかわからなかった俺たちは固まった。


 腹部に大きな穴が開いた冒険者が力なく倒れる。

 ドサッという音がして、ようやく何が起きたのかを認識する。

 攻撃された。


「きゃああああ!!」

「だ、だれっ──。……え?」


 隣にいた冒険者の足が吹き飛んだ。

 支えを失って真横に倒れてしまう。


「ぐああああああ!! 足が! 俺の足がああ!!」

「くっ!! 空圧結界!!」


 後方からの攻撃だという事がわかったので、真後ろに大きめの結界を張る。

 100MPを使用しての結界なので、硬いはずだ。

 これであれば何とか攻撃を防げるはず。


 そして結界は透明だ。

 結界越しに敵の姿を目視する。


 そこには……見覚えのある人物一人と、気だるそうにしている角の生えた男が浮いていた。

 一人は分かる。

 今まで何処に居たのか知らないが、この状況でここに現れるという事は……。


「お前が今回の主犯かよ。レクアム……!!」


 レクアム・ソールマルトは、不敵な笑みを浮かべてこちらを眺めていた。

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