5.36.悪魔とレクアム
目の前には因縁の相手がいた。
隣にいる奴は誰だか知らないが、なんともやる気の無さそうな表情をして俺を見ている。
そいつは鉄の様な角を生やし、銀色の翼を有していた。
丈の長い服を着ており、その襟には硬そうな魔物の毛が付けられており、袖にはダイスが細い糸で結ばれて何個もぶら下がっている。
正直言って変な格好だ。
袖だけじゃなくて、他にもダイスがいろんなところについている。
ポケットとかにも入っていそうだ。
あいつも今回の事件に関わっているのか……?
だがレクアムと一緒にいるんだ。
その可能性は十分にあるだろう。
しかしどうする。
今のこの状況はあまりいい物ではない。
俺の後ろには負傷者と戦意を喪失した冒険者が三人。
無傷な一人の冒険者はレクアムに酷く怯えている様だ。
そう言えばアイツ結構有名なくそ野郎だったな。
ここでその障害が立ちはだかるか……。
それに加えて、俺のMPが無い。
200ちょいしかないのだ。
長々と戦っている暇はなさそうだな……。
「……レクアム。あいつは……」
「名前は知らんな。ワシの実験を邪魔して多くの奴隷を殺した奴じゃな。はははははは」
「それはお前のせいだろうに……」
「邪魔しなければ長生きさせてやったんじゃがのぉ。じゃないと実験体が足りんからの」
ここからじゃ何喋ってるかわからねぇ。
ていうかこれから二人相手にしなきゃいけないのか。
これ結構きついぞ……。
「おい! お前ら早くそいつに応急処置してやれ!」
「駄目……! もう……!!」
「……! ……ショック死か……」
どの道この出血量じゃ助からなかったか……。
くそ……!
「おい二人とも。下がれるか」
「お、おおお俺はいけ、行けます……」
「その女担いで中に逃げろ。そんでもって状況を説明してこい。いいか、このまままっすぐ行くんだ。そうすれば結界が守ってくれる」
今回は空圧結界を大きめに作ったからな。
門を通るまでは安全なはずだ。
あいつが何もしなければだけどな……。
男は俺の指示通り、女性に肩を貸して門の中に入っていった。
あいつらはそのことについて特に何かするわけでもなく、ただただ話をしている様だ。
何を喋ってるか分からないが、援軍が来るまで少し時間を稼ぎたい。
なんならMPを回復させる時間が欲しい。
「貴様ら! 一体何のつもりだ!」
「何のつもりだと? それはこっちのセリフだ! ワシが折角中を崩して攻めやすいように悪魔に提言してやったのに! 全部始末してしまいおって!」
「やっぱりてめぇの仕業かよ! 何が目的なんだ!」
「目的? 決まっているだろう!」
レクアムは新しい杖を何処からともなく取り出して、演説し始める。
隣にいる悪魔……だろうか。
話的にはそういう奴だろう。
そいつは特に気にすることなく、好きにさせているという印象を受ける。
今は動く気配は無さそうだ。
「この国を壊すのだ! 壊さなければならないのだよ! 今までは実験の拠点として使っていたが、もう用はない! だがそれが見つかっては困るでなぁ。折角だし自分の培った技術を城攻めに使いたいと思ったわけだよ! ついでに実験していた場所も壊せる! 一石二鳥とはこのことだろう!?」
「クズが……」
「悪魔と契約して力を授かった! いやはや実にいい! これは良い物である! だが……だが貴様はまたワシの邪魔をした!! 許さん! 許さん!! 許さんぞ貴様ああああ!!!!」
こいつ……。
城の中で何かやってたんだろうけど、それに加えて悪魔と契約するとか……。
ほんと死ぬまでこういうのは治らねぇんだろうな!
って待てよ……。
てことはあの黒い塊も悪魔の類か!?
多分そうだよな……。
じゃあ今回の魔物の軍勢との戦いって、悪魔が仕掛けてきた事なのか?
丁度悪魔いるし、聞いてみるか。
「おいそこの悪魔! 今回の主犯はどっちだ! レクアムか! 悪魔か!? どっちだ!?」
「…………我々だ。我々はこの国を壊すことに大賛成。レクアムは同じ目的を持った仲間として行動を共にしているに過ぎん。契約などしていない」
「魔道具の知識の共有はそれに入らないのか?」
「そんな微々たる知識など、ゴミのようにある」
「まぁよいわ。力は増幅したからの」
魔道具……?
魔水晶の事か。
こいつらが共同で作っていたからあんなに数が増えたのか……。
でもなんでこの国を壊そうとしてるんだ?
悪魔だからっつても、手当たり次第に攻撃しているわけじゃあるまい。
何か理由があるはずだ……。
「お前らの目的は何だ!」
「ワシはさっき言っただろう。国を壊し、ワシの実験試料を全部壊すとな!」
「てめぇじゃねぇよ! 悪魔お前だ! 何故この国なんだ! 悪魔どもは全員それに賛成しているのか! それともお前個人の意思か! 上からの指示か!? 答えろ悪魔!」
レクアムは個人の意思で行動を起こしている。
それは前の事からもよくわかっている事だ。
今更話を聞いて奴の考えが変わるとは思えない。
悪魔は少し怪訝そうな表情をして頭を掻く。
何かぼそりと言っていたようだが、その内容は俺に届かない。
そのあと、俺に言葉を投げつける。
「暇つぶしだ」
「何……?」
「聞こえなかったか? 暇つぶしと言ったのだ。魔界は暇で暇で仕方なくてな。それに比べて人間界は面白い事ばかりが起こっている……。日常に我々という非日常を落とす。するとどうだろう。なんとも面白い事が起きるではないか。今回は人間が無様に逃げ惑い、虫如きに肉をむさぼられる。一生懸命前線で戦っている者が居る中で、戦えない物は命を落とす。前線で戦った者は帰った後どのような表情をするだろう……。その表情こそ甘美な我々の褒美。良きなぁ……良きなり……」
良ーくわかった。
悪魔とはそういう存在なのだ。
理由が必要とかそういうのじゃない。
悪魔とは、こういう事を引き起こさせることを目的としている存在なのだ。
混沌を望んでいる。
「ぶっ殺す」
殺さなければならない。
そう、俺の本能が叫んでいた。
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