8.9.宣戦布告
「オカシイナァー。ドーシテ、バミルリョウノニンゲンハ、ボクタチガココヲ、セメルコトヲ、シッテイルンダー?」
様々な方向にゆっくりと回転しながら、その悪魔は奇妙な語り口調でそう言った。
小柄な体に似合わない大きすぎる藍色の翼を生やした悪魔。
頭には黒い一本の角が額の右側から生えているが、それは少しばかり長く二回ほど枝分かれをしている。
ジッパーのような物が服に拵えてあり、継ぎ接ぎをしているように見えなくもない。
悪魔の姿を目視したアレナは、すぐに戦闘態勢をとる。
下にいた領民たちも、女子供を避難させようとしたり、守ろうと農具や木の角材を持ったりして警戒をしていた。
「ハハハハー! ダイジョーブ! マダナニモシナイヨ!」
「……誰?」
「ボク? ボクハ、ヤーキ。ヤーキダヨ」
相変わらず妙な口調だが、聞き取れないわけではない。
言っていることは分かるが、何故か耳元で喋られているような気がして気持ちが悪い。
これも悪魔の能力なのだろうか。
だとしたらとても地味である。
「デモデモ、ナンデシッテル? ナンデナンデ?」
「教える気はない」
「ソッカー、ソーダヨネー!」
「悪魔の目的は何!? どうしてこんなことするの!」
「へ? ドーシテッテ、キマッテルジャン」
ヤーキと名乗った悪魔は、またくるりと回転して反転する。
その後に、少し詰まらなさそうに理由を言った。
「モクテキ、ノタメ」
「……その目的って?」
「イーエーナーイーノー! デモデモ、ボクタチモ、ギセイガデルノハ、イヤダナ」
そう言って、今度はアレナから目を離して領民たちに向けて語りだす。
「ボクハ、センセンフコクヲ、シニキタヨ! ニゲルンダッタラ、コロサナイ! ニゲナインダッタラ、コロシチャウ! ニゲタトシテモ、マチハコワスヨ! コレ、ヒツヨウナコト!」
「させない!! 『重加重』!」
「オペッ?」
アレナはヤーキに重加重を掛ける。
すると体の動きが止まり、一気に地面に叩きつけられた。
だがまだ動くようで、ゆっくりと立ち上がろうとしている。
「い、今だ! やれみんな! アレナ様が作ったチャンスを逃がすな!」
「「おおー!!」」
農具や角材を持った男たち三人が、一斉に悪魔を取り囲んで持っていた得物を全力で振り抜いて悪魔を殴っていく。
重加重を付与しているのでまともに動けないヤーキは抵抗することができず、されるがままになっていた。
領民はそれを見て舞い上がる。
自分たちでも悪魔を倒すことができるという自信が、これによりついたのだ。
周囲で怯えていた者たちもそれを見て勝てると立ち上がる。
「てぇ! やぁ!」
「おらぁ!」
あのような発言を聞いて黙っている領民は誰も居ないだろう。
アレナも領民が満足するまで重加重は止めないつもりだ。
しかし……。
「──『反転』」
「やぁ!! っ? ごぁ!?」
「ふぐぅ!?」
「うが!?」
殴っていた三人の領民が、一気に吹き飛ばされた。
だが彼は現在、重加重で動けないはず。
その証拠に、領民が吹き飛ばされて姿が見えるようになった今でも、ヤーキは地面にあお向けて寝て動いていない。
だが次の瞬間、アレナと目が合った。
「『反転』」
「っ!? ~~!!」
がくんと体に重い何かがのしかかる。
だが背中を見ても何もない。
浮遊で何とかゆっくり落ちることはできたが、明らかにおかしい様子のアレナに領民は手を貸してくれる。
だがアレナの体は今非常に重くなっているらしく、手を貸してくれた領民は持ち上げることができずにいた。
二人掛かりでも無理らしい。
「! これ私の……!」
「アーー。アァ?」
「ッ……」
上半身だけを起こし、首をだらんと垂らしながら漆黒の目玉がこちらを向いた。
理性のないその顔に、それを見た者は恐怖を覚えてしまうだろう。
その証拠に、周囲にいた人々はその姿を見て一歩下がってしまっていた。
どうしたらのような表情ができるのか。
これが悪魔であると、体の底にある本能が警告しているようにも感じられる。
だがすぐにケロッと戻って目をパチクリさせ始めた。
その途端、アレナ自身にかかった技能も解除され、動けるようになったようだ。
「アディバ。ヤッチャッタ」
「一体……なんなの……!」
「アー、ボク、カエルネ。キョウハ、センセンフコクヲ、シニキタダケ。ホーンジャネー!」
大きな翼を広げ、一気に飛び上がる。
そしてどこか遠くへと飛んでいってしまった。
とんでもなく速い飛行速度。
それに謎の攻撃……あんな技能を持っている悪魔が居るとなれば……戦いは本当に不利になるかもしれない。
「アレナ!! 大丈夫!?」
「サテラお姉ちゃん……」
駆け寄って来たサテラは、すぐにアレナの手を取って心配そうに体を見る。
領民が支えてくれたおかげで、大した怪我はない。
しかし、悔しいという思いがアレナにはあった。
何もできなかったのだ。
自分がやったのは動きを止める事だけ。
勇敢にも立ち向かった領民も謎の力に吹き飛ばされるし、何故か自分も“重加重”を喰らってしまった。
これは予想だが、もしあの悪魔の技能が喰らった攻撃を返すものだとすれば、本当に相性が悪い。
先ほど吹き飛ばされた領民は無事なようだが、体中がボロボロで頭からは出血している。
「やっぱり……あってるかも……」
「おい大丈夫か!?」
「大丈夫だって。わけわかんねー攻撃だったけど、俺たちでも手を出せたんだ! 大丈夫だ!」
「だなぁー!」
それを聞いて、周囲で見ていた領民はどこか安堵したようだった。
彼らのお陰で、士気は下がらずに済んだようだ。
だが実際に戦った身としては、一切安心できない一件となってしまったのだった。
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