7.17.屁理屈


 リゼが何処かに行ってしまったので、俺たちは先に洞窟へと向かうことにした。

 鳳炎には調べ物をしてもらうので、今回は同行していない。

 目的地である洞窟は、以前俺たちがダンジョン目当てで向かった場所とは真反対の方角にあった。

 そんなに遠くない場所だったので、転移の魔法陣なしでも来ることができる程だ。


 しかし、国から近い場所に発生しているのは如何せんよろしくない。

 話を聞いてみれば、バディッドは夜になると外に出て様々な動物や木の実などをむさぼるのだとか。

 雑食なんですね。

 ていうか普通に害獣じゃねぇか。


 というわけで俺とアレナは今現在、バディッドが異常発生しているといわれている洞窟に辿り着いたわけなのだが……。

 う~~んとですねぇ……。


「「「「ワワワワワッワワワワワ」」」」

「う、うるさい……」

『うるさすぎんだろどうなってんだ……』


 なぁにこの声。

 あのーあれ、高い声を出しながら手で口を押えたり放したりを繰り返すあの声に近い。

 うん、うざいなこの声。

 凄い煽られている気分だ。


 どんな声帯を持ったらそんな声が出るんだよ。

 いや鳴き声かこれ。

 鳴き声でこれなの!?

 お前ら夜になったらその鳴き声を発しながら洞窟から出るんだよね?

 なんでそんな煽りながら夜の街に繰り出すの?


 心なしかこの辺の生物も洞窟を避けている気がする。

 まぁこんなうるさい声が耳に入るだけでも嫌だもんな。

 分かる分かる。


「うるっさいわねぇ……」

『……ああそうだな? で? お前どっから来たんだ?』

「今到着したところよ」

「あ、リゼお姉さん」


 知らない間に俺たちの後ろにリゼがいた。

 暗殺者でも持っているのだろうか?

 全然気が付かなかったぞ。


 しかし、リゼの服装は相変わらず緩いものだ。

 冒険者ギルドには不釣り合いの服なので、あの時はとても浮いていたな。

 だがそれで戦うのか?

 あ、まずはそれよりも……。


『で、鳳炎からああ言われたけど、どうするんだ?』

「え? 何を言っているのかしら?」

『……ん?』

「ほら、こんなに小さな子供が洞窟の中に入ろうとしている。危険でしょ? ここは大人の私が付いていってあげなくちゃ! 貴方今魔物だし!」


 なーんでこいつはちょっと嬉しそうなんだ?

 ていうかとんでもない屁理屈だなおい。

 別にいいけど。


 ていうか魔物になってくれたらそれ一発で解決するんじゃないのかね。

 そうなると通訳が居なくなるからあれだけど……。


「ということで、アレナちゃんよろしくね!」

「? 私一人でもいけるよ?」

「うん、知ってる……それは知ってるわ……。お姉さんも行きたいの。いいでしょ?」

「いいよー?」


 アレナは終始首を傾げたまま、リゼの問いかけに頷いた。

 随分と強引だが、まぁバレなきゃ罪じゃないしね。

 バレてもこの調子だと屁理屈で押し通しそうな感じはするけど……。


 とりあえず協力してくれるということだ。

 戦力が増えるのはありがたいことなので、早速洞窟の中へと入ることにする。


 大きな洞窟なので、始めの内はランタンも要らない程だ。

 しかし奥に入れば入る程、鳴き声は大きくなっていく。

 耳を塞ごうにも俺は今蛇……蛇? の体なのでそんなことはできません。


 二人はしっかりと耳を塞いで周囲を警戒している。

 クッ……。


「ちょっとこれうるさすぎるわねー!」

「そーだねー!」

『まぁ……だろうな……』


 常に操り霞を展開している俺には、ここにいるおびただしい数のバディッドを把握している。

 ていうか数えきれないんだが……。


 今俺たちがいる真上に、洞窟の天井部分を埋め尽くさんばかりのバディッドが集まっていて、洞窟の奥に行けば行くほどその数も増している。

 ていうかこの音に負けて他の冒険者はこの依頼を受けないんじゃないだろうか……。

 数も数だし、一匹や二匹狩ったところで喜んではいられないだろうし。


 とりあえず上の奴らだけでも何とかしておくか……。

 こういうのは範囲攻撃がいいと相場が決まっている。

 何か良い範囲攻撃技能はあったかなぁ~……?


『やっぱりこれだな。『無限水操』』


 大量の水を作り出して、それを洞窟の天井にぶつける。

 いきなり大量の水を出しても動かなかったので、バディッドは意外と鈍いのかもしれない。

 だがそれであれば狩りはしやすいというものだ。


 バチャッという音を立てて水がバディッドを飲み込んだ。

 それと同時に鳴き声がしなくなる。

 水の届かなかったところでは相変わらず鳴き声がしているのだが、一番近くにいたこいつらが居なくなるだけでも随分変わった。


 後は暫く待っていればいいだけなのだが、そこでリゼが技能を使用する。


「あら、丁度いいわね。『サンダーピストル』」


 手を銃の形にして、指先に雷を溜める。

 それはすぐに発射され、水に直撃して一瞬まばゆい光が洞窟を照らした。


 俺は耐性に不名誉な眩みがあるので、目をやられてしまうということはなかったのだが、アレナは眩しくて目を瞑ってしまった。

 忠告せずにやるからこうなる……。


「眩しい!!」

「あっ。ごめんなさい! 大丈夫?」

「みえなーい」

「あはははは……し、暫くすれば大丈夫よ……」


 こいつ今まで仲間と一緒に戦ったことないな……?

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