2.12.罠発動


 ごちそうさまでしたっ。


 骨もすべて食べ尽くした。

 余すことなく入る経験値に満足感を覚えながら口元についた血を舌で舐め取る。


 レベルはこいつだけで9になった。

 まぁ小さい個体だったしな。

 仕方がない。


 だがこいつは良い稽古相手だった。

 おかげで水流剣すいりゅうけんの熟練度が目に見えて上がっている。

 やはり実戦のほうが熟練度がよく上がる。

 危機感を持ってやっているからだろうか?

 まぁやられたら食べられる世界だし、必死になるのは当然か……途中まで遊んでてごめんなさい。


 ていうか……やっぱり自分で探したほうが見つけるの早いな!

 って……しまった……肉残すの忘れてた。

 まぁまた探せばいいか。


 あ、そうだ。

 技能を合成しておこう。


 連水槍と水糸の相性がよさそうだったからな。

 実際に使ったのは多連水槍だったけど、扱いがすごく難しかったし三十本も操れる自信がない。

 そこまで器用なわけじゃないしね。

 ってことで合成。


【『連水槍』及び『水糸』を合成して新技能『連水糸槍れんすいしそう』を取得しました。『連水槍』及び『水糸』は破棄されます】


===============

―連水糸槍―

 水流槍と糸を操ることができる技能。操作性は熟練度、糸の強度は使用MPで変わる。

===============


 ん?

 天の声さん?

 さっき俺が言った多連水糸槍のネーミングほぼパクってませんか?

 いやもういいけどさぁ。


 ピコピコッ。


 にょ? なんだ?


 頭に生えているアンテナがピコピコと動いている。

 それに気が付くと、アンテナは一つの方角を示した。

 頭を振って確認してみるが、ずっと同じ方角を指し示し続けている。

 これは何なのだろうか。

 ドロ蛇の説明にこの触覚のことはなかったし、一般的に知られていない生態があるのかもしれない。


 ってちょっとまて! だったら天の声!

 貴様何を参考にして俺に情報を渡してくれているんだ!?

 今まで天の声は何でも知っている神様的存在だと思っていたけど、これはいよいよ本格的に辞書になるのも時間の問題だぞ!?

 まさかとは思うけど……人間が書いた書物を参考にしているわけじゃないよな?

 ないよな?


 ごめん、もう一回ドロ蛇についての情報見せてもらっていいかな?


===============

―ドロ蛇―

 沼や泥の中を好む蛇。泥や沼を好むだけであってその場にとどまり続けるということはない。

 比較的温厚で、自分が仕掛けた罠を用いて獲物を狩る。自分より大きな獲物は狙わない。

 頭に生えている触角は、自分が設置した罠に獲物がかかると自動的に発動して居場所を教えてくれる。

===============


 お~い。お~~~い天の声。

 変ってんぞ!

 説明文前に見た時と変わってんぞ!

 最後の説明聞いたことねぇぞこら! 今作ったろ! 絶対今知って今作っただろ!!!

 もう天の声は辞書でいいよね。

 もう辞書だよ。

 わかった実は辞書なんだろ。


 で、辞書のいうことによれば……さっき仕掛けた罠に獲物がかかったって事ね。

 で、このアンテナが場所を示してくれているということか。

 流石罠師のドロ蛇さん。

 結構いいところあるじゃない!

 じゃ、早速このアンテナを頼りにしていってみますか。



 ◆



 俺はアンテナを頼りにして先ほど罠を仕掛けた場所に戻ってきていた。

 そこには水捕縛に捕まってすでに息絶えているアザワラチの姿があった。

 ざまあないな。


 すぐに罠を解除する。

 今回は食べずに獲物をおびき出すために使用する餌を作るため、肉をぶつ切りにしていく。


 設置していた罠は二十個だが、獲物が小さかったので八か所にしか設置できないな。

 だがすべてに設置しなくてもいいのが偽装沼のいい所だな。

 この肉は水捕縛の近くに置いておくことにしよう。


 運ぶのはもちろん無限水操で出したお水。

 便利!

 場所は全部把握しているし、八つに分裂させて水捕縛の罠を設置した場所に持って行ってもらおう。


 だがこれをするときは操り霞を展開させておかないといけない。

 じゃないと場所がわからないからな。

 MP消費もあまりないし問題はないんだけどね。


 全ての罠に餌を配置した後は、本格的に待つ。

 獲物がかかったら教えてくれるし、今日は家に帰って寝よう。

 五時間待ったのが駄目だったなー!

 無駄な時間だった!


 今度は罠を仕掛けた時はすぐに離れよう。

 そして足で獲物を探そうと心に誓いながらコケの上で寝たのだった。



 ◆



 ―翌朝―


 ん~めっちゃピコピコしていらっしゃる。

 あらぶっていますね。


 起きてみると頭が騒がしい。

 罠二十個は多かったかな?

 おいアンテナ。一番近い場所から案内してくれ。うるさい。


 そう念じるとピタっと一度止まって一点を指し示した。

 俺はその方角に向かって進む。

 餌の効果はすさまじく、今日だけで五つの罠に獲物がかかっているようだった。

 二つが水捕縛の罠で、三つが偽装沼の罠だ。

 どちらも窒息を狙った罠となっているので回収はとても簡単だ。


 だが、かかっている獲物は全て小さい。

 全て食べたがレベルは24までしか上がらなかった。

 進化を繰り返していくにつれて必要経験値の量が以前よりも更に増えている気がする。

 仕方ないと言えば仕方ないのだろうが……恩恵があってもこの遅さだ。

 恩恵がなければもっと時間がかかってしまうだろう。


 こればかりは辞書……もとい天の声に感謝しなければな。


 五匹目を捕食したところでやっとアンテナが静かになった。

 こいつ割と鬱陶しい。

 次の進化までこいつと一緒にいなければならないということが少し癪ではあるが……まぁそれまでは仲良くしてやろうか。


 ピコッ!


 ……千切っていいかな。


 ペタン。


 おん? 誤作動でも起こしたのか?

 今まではこんな反応なかったんだけどな……。


 するとまたアンテナが立つ。

 しかしそれも数秒するとペタンと倒れてしまう。

 これが数回繰り返されていた。

 明らかに誤作動ではなさそうだ。


 このアンテナは罠が発動したら反応し続けるようになっている。

 反応がなくなるときは罠から獲物を取り出した後だ。

 あの罠から自力で出ることは考えにくい。

 てことは……わざと発動させている可能性がある。

 罠感知の技能がある敵かもしれないので、近くに行ってそいつを倒してしまおうと思う。


 罠が破壊されている場所に向かってはいるが、あれからすでに4つの罠を壊されている。

 アンテナが起動する感覚が短かったので、罠を比較的近くに集めた場所にいるはずだ。


 操り霞を発動させて索敵してみる。

 罠を置く間隔を狭めていた場所は大体覚えているので、そちらに霞を展開させていく。

 すると感知に何かが引っ掛かった。

 そこまで大きくはない。

 大きさは1mくらいか。

 いや十分デカいな。


 今感知出来ているのはシルエットだけなので、どういう生物なのかはわからない。

 操り霞の感知能力は、そこに何かがいる、何かがあるということだけしかわからないからな。

 それだけでも十分強い技能なのだが……。


 ま、ただ罠を壊すことのできる生物というだけだろう。

 脅威ではなさそうだし、狩って経験値となっていただきましょう!


 俺はその生物の元へと進んでいく。

 久しぶりに『追跡』の出番だ。

 たまには接近戦もしておかないと遠距離攻撃ばかりに頼ってしまいそうだからな。

 剛牙顎一発で終わらせてみよう。


 操り霞で常時場所を把握しているので見失うことはない。

 そして確実に背後を取る。

 草むらから顔を覗かせると、やっとその姿を見ることができた。


 大きな牙に大きな角。

 二足歩行で異常に筋肉質な生物がそこに立っていた。


 骨格は……人のそれに近い。

 だが背丈がとても低いので、どちらかというとゴブリンなどにいそうだ。

 手には手の形をかろうじて残したかぎ爪があり、関節がない。

 爪が手の役割を担っているようにも見える。

 色は毒々しい紫色だ。


 すると罠をまた踏んだ。

 あれは水捕縛だ。

 一気に体に纏わりついて体全体を覆ってしまう。

 だがその行動が少し気になった。


 俺の考えでは、罠を見破る技能があるかと思っていたので、何かに技能を使って解除するのかと思っていたのだが……思いっきり罠にかかっている。

 あれでは逃げれようがないはずだが……操り霞でずっと付けていたので、罠を解除して回っている奴はこいつで間違いがないはずだ。


 どういうことだと、首をかしげていると目の前で衝撃的なことが起こった。


「ボア」


 二足歩行の生物は片腕を思いっきり振りぬいて水捕縛を破ったのだ。

 水は地面に落ちて土に吸収されてしまい、水たまりはなくなってしまった。

 そして今までの仮説がすべて間違いであったということが分かった。

 罠を解除して回っていたのはこいつで間違いない。

 だが罠を感知する技能なんて持ち合わせてはいなかった。

 こいつは自分の強靭な肉体だけで罠を解除して回っていたのだ。


 な、なんだアイツ……。

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