2.11.狩り


 俺は家から少し離れた場所でとある作業をしていた。


 この辺でいいかな。

 『偽装沼』!

 んでこっちには~『水捕縛』!


 そろそろ一気に進化がしたい。

 これまでは戦闘経験値を稼ぐためにチマチマとやってきていたが、罠術技能も手に入れることができたのだ。

 待っていれば勝手に獲物がかかってくれるので、これを利用しない手はないだろう。


 戦闘経験値は手に入らないが……まずこの辺りには俺より圧倒的に強い敵がいない。

 だが、操り霞を使用してできる限りの範囲に霞を展開させてみると、すさまじい量の生物がいることがわかったのだ。


 流石大自然。

 自然豊かな森は生命を増やし続けるのですね……素晴らしいです。

 ていうか木の幹もめちゃくちゃ太いしな。

 これ何年生きてんだ?

 日本でこんな木があったら絶対にご神木となっていることだろう。


 そんな木が数えきれないほどあるのだ。

 ここにある木だけでお寺が立てれてしまいそうだな。

 そう言えばこの世界の建築工法を知らない。

 村や町を見たことがないので仕方ないのだが……木は使わないのだろうか?


 いやでも使うだろうな。だって加工しやすいもん。

 西洋の建築物でも木を使っている建築物もあるし、文明がそれなりに進んでいたら絶対に使われているだろう。


 ま、そもそもこんなところまで木を取りに来ようなんて思わないか……。

 来たら来たでぶっ飛ばすけどな!

 生まれ故郷を壊すなど俺が許さん!

 はい『水捕縛』。


 一通り罠を設置し終えたので泥に身を潜める。

 白い体だから普通に隠れてると割りと目立つんだよな。

 土壌変化で土を泥にしてすぐに身を潜めることができるので、これは隠れるのに適していると思う。


 そして、罠を設置した場所に操り霞を展開しておく。

 周囲だけではなくて離れた場所に転々と設置することもできたので、獲物がかかったかどうかをこれで判別できる。

 操り霞が便利すぎ。

 神棚にあげたくなってしまうほどだ。

 上げないけどな!


 とりあえず一匹、なんでもいいから確保しておきたい。

 出ないと餌が作れないからな。

 一匹確保したら噛みちぎって罠のある場所に置いておく。

 そうすれば匂いに連れられて獲物が寄ってきてくれるだろう。


 あまり狩りの知識はないが、匂いに敏感な生物はこの世界でも多いはずだ。

 匂いでおびき寄せれさえすれば全く問題ない。

 食べさせる必要のない罠だからな。


 よーし……じゃあ待ちますか。



 ◆



 ―五時間後―


 うっそだろおい。

 まだ一匹もかからねぇのかよ。

 設置している罠20個あるんだぞ……なのに一匹も罠にかからないなんて……。


 くぅ~これなら普通に探したほうが早かったなぁ。

 ていうか朝に探しているのが間違いなのだろうか。

 夜行性の生物が多いから夜に待ち伏せしたほうがよかったかなぁ……。


 ていうか待っているってのがおかしいかもな。

 放置しておいた方がいいか。

 寝て起きたらかかってるだろ!

 うん、罠は明日の朝確認することにしようかな。


 沼から出て操り霞を解除する。

 罠と設置した場所とは反対の方角に向かう。

 反対側に行って獲物を探すためだ。


 操り霞を展開させて獲物を探していく。

 発動させてみてわかったが本当に周囲には獲物がいないようだ。この5時間は何だったのか……。


【新しい耐性を開発しました】


 ……?


===============

―気移り―

 惑わされにくくなる。

===============


 え、これいる!?

 こんな耐性必要あるか!?


 いやまぁ耐性だからありがたくもらっておくけどさ!

 てかこの耐性が必要になる技能って何よ……流石にわからないな。

 ま、まぁいいか……よし、狩りを再開するぞ。



 ◆



 ―二十分後―


 どらああああああ!


「ききーーー!!」


 水の剣と木の葉の剣が何度も交差する。

 水流剣は三本発動させて同時に操っているのだが、なかなかこの敵を仕留めることができない。

 水流剣の熟練度をあげたいので水流剣縛りで戦っているが、相手は葉流剣という技能を使用して戦っており、手加減している俺とほぼ互角に渡り合っている。


 相手はモモンガのような姿をした生物で、名前はトバチリというらしい。

 モモンガに近い姿をしているのに飛べないようだが、移動速度が尋常じゃなく速く、なかなか剣で捉えることができない。


 先ほどまで一方的に攻撃ができていたのだが、俺の水流剣が自分のスピードについてこれないということを理解したトバチリは走り回りながらこちらに攻撃してくるようになった。

 トバチリの葉流剣の熟練度は相当高いらしく、木の幹を軽々と切断していた。

 俺はまだ枝しか切れないというのに!


 時折接近戦もしなければならないので、俺は一本の剣を体の近くに持ってきて防衛に回した。

 後の二本はトバチリの追撃に回す。


「きっ!」


 全力疾走から急に方向転換をして俺のほうに体を向ける。

 二本の水流剣は三本の葉流剣に阻まれて近づけないでいる。

 あの葉流剣は葉っぱがある場所であればいつでもどこでも発動が可能らしい。

 すでにあるものを媒体にしているのでMP消費がとても少ないはずだ。


 しかも厄介なことに剣の作成速度が速い。

 これが熟練度の差か!


 トバチリは毛を逆立てて「ききっ!」っと鳴いた。

 すると周囲の葉っぱが弾丸のようにこちらに向かってくる。

 全方向から葉っぱが飛来してきているので水流剣一本だけでは流石に捌ききれない。


 俺は咄嗟に土壌変化を使って足元を沼に変化させて身を潜める。

 潜伏時間は水蛇を受け継いでいるのかはわからないが、十分以上は潜り続けていられる。

 流石にここまでは葉っぱの刃は届かないだろう。


 って思ってた時期がありました。


 いでででででで!


 沼に数枚の葉っぱが侵入して俺の体に傷をつけていった。

 すぐさま目の前の土を沼に変えて移動を試みる。

 操り霞で確認してみると、どうやら葉っぱを上空高くへと持ち上げて勢いよく突っ込ませているようだ。


 くそう。飛べないくせにやりやがる。

 とりあえずあの機動力を削がないと攻撃は当てれそうにないな。

 水流剣縛りで戦いたかったが……仕方ない!

 そろそろ本気出すぞ! 『多連水槍』!


 沼の水分を利用して泥の槍を作る。


 どんな水でも操れるのが無限水操の強みだからな!

 若干砂利が入ってるけど気にしないでくれな!

 主に後で食べる俺!


 今回は三本の槍を作成した。

 それをトバチリに向かって猛スピードで突撃させる。

 しかし移動速度の速いトバチリは全てを見切って危なげなく躱していく。

 だがそれは予想の範疇。

 

「き!?」


 突然トバチリの足に傷ができた。

 それは後ろ脚のつま先だけを落とす。

 小さな傷だが、これで後ろ脚の踏ん張りは利きにくくなったはずだ。


 槍は当たっていないのに何故傷ができたのかわかっていないようだな。

 よしよし、作戦成功だ!


 実は三本の槍の柄頭の部分に水糸を張っておいたのだ!

 攻撃力はあまりないが強度を強くし、細くすることで巻き付かせて引っ張れば傷くらいは簡単に付けることができるのだ!


 さぁ天の声!

 この技を技能として確立させてくれたまへ!

 名付けて!

 『多連水糸槍』!


 どうだ!?



 ……

 …………

 ………………


 くそおおおおおおおおおおお!

 貴様の技能判定の基準どうなっとるんじゃあい!


 「はっ。こんなの技能になるわけねぇだろ」っていうのが技能に追加されすぎなんだよ!

 ふざけやがって!


 クソ真面目に考えた俺がバカみたいじゃないか!

 この……このぉお……!


 ギロリとトバチリを睨む。

 びくりと体を震わせて縮こまってしまったが、俺は今……そんな容赦する考えは持ち合わせていなかった。


 多連水槍を発動させる。

 その数は三十本。


 動けないトバチリにむかって全力で槍を突撃させた。

 森に小さな悲鳴が響いたのは言うまでもない。



 ◆



 冷静になって気が付いたがやりすぎた。

 だが後悔はしていない。

 すまんかったなトバチリ。

 しっかり食べてやるから恨んで出てくれるなよ。

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