1.21.ベドロック②
今度は俺の発見したベドロックの場所へと
大きな岩が転々としていて周囲は割と開けている場所に、そいつはいた。
川底で少しだけ周囲より暗いのだが、俺たちはどちらも夜行性のようなので暗さは基本的に関係ない。
ベドロックも夜に動いていたので、夜行性の可能性が高い。
暗いからこちらが有利となるなどということはなさそうなので、このまま討伐しようという流れになった。
『応錬の兄貴。大丈夫ですか?』
『任せろ。それに新しい技能も試したいからな』
零漸が心配そうにこちらを伺っている。
確かに防御力は零漸よりは少ないが……攻撃力はこいつよりあるつもりだ。
…………実は零漸のロックガンと部位強化(
その威力に零漸自身も驚いていたようだが、俺も驚いた。なんて技能取得してやがるんだマジで。
ただでさえ防御力が高いのに遠距離攻撃まで火力が高いとなるとそれはもう城から放たれる投石器。
あのときはこいつを元気づけるために冗談半分で城とか言ったが……本当に城になりそうだ。
ま、味方だから心強いことこの上ないがな。
『ま、行ってくるぜ。手出しは無用な?』
『手をだしたくてももうMPがありませんよ……お気をつけて』
零漸の言葉を聞き届けてから俺はベドロックのほうへと泳いでいく。
気が付かれないように後ろから進んでいたのだが、思ったより簡単に気が付かれてしまった。
ぐるっと体を回転させて俺を睨んでくる。
白と黒の混じった色の中にぽっかりと浮かぶ目玉があった。近くで見なければわからないほど小さい。
ふと深海魚のことを思い出す。
深海魚は目に頼ることがあまりないため目玉が退化している個体がいくつもいたはずだ。
だがこいつはそれなりに浅い川に住んでいる。
完全に退化して目が見えないということはないだろう。
実際にこちらを睨んできているのが何よりの証拠だ。
もしかしてこいつ光に弱かったりするのだろうか?
目くらましが使えるならめちゃくちゃ戦いやすくなるんだが……本当に光が弱いかわからない。
いや、物は試しだやってしまえ!
『発光!』
鱗が太陽を反射して強い光を発生させる。
狙いはもちろんベドロックだ。
強烈な光に俺自身も少し目が眩みそうになったが、耐性があるため一秒もかからずに見えるようになった。
ベドロックを見てみるが、特に動いた様子はない。
動けないから当たり前なのかもしれないが、動じていないようにも思えたので、発光が効いたかどうかわからなかった。
少しベドロックの周りを旋回してみる。
先ほどまでベドロックは俺を注視していたが、移動してみると目線は先ほど俺がいた場所をじっと見ていたままで動いてはいなかった。
どうやら効果はあったらしい。
気取られないように平静を装っているのかもしれないし、実は見えないふりをしているかもしれないが、どちらにせよチャンスだ。
俺はベドロックに猛スピードで突撃する。
その間に一つの技能を展開した。
『
牙が大きくなり口の中がチクチクする。
口を閉じていてもこの技能の強さが伝わってきた。
接触の数歩手前で口を大きく開け、動かないままのベドロックにかぶりついた。
ベドロックはやっと自身の置かれている状況に気が付いたらしく、体を大きく動かして振りほどこうとした。
俺は絶対に放さまいと力を思いっきり込めた。すると口が閉じてしまった。
『…………?』
ベドロックを見てみると、体の一部がなくなっていた。
どうやら、剛牙顎の力でベドロックの肉を食いちぎってしまったらしい。
【経験値を獲得しました。LVが10になりました】
ほ!!? 一口でそんな上がったの!?
てかベドロック結構硬かったけどそんなでもなかったな……わかりやすく言うなら鳥の軟骨をかじったような感覚だ。
コリコリッじゃなくてゴロゴリリッって感じだったけど。
ベドロックを見てみると、すでに絶命していた。
なんかすんません。わざとじゃないんです。
まさか貴方様がこんなにも柔らかいなんて思いもしなくてですね?
とりあえず岩盤石って異名返上してください。
もうあなた石より硬くないですから。
唖然としていると、零漸が近づいてきた。
『応錬の兄貴! お疲れ様です! まさか相手が光に弱いと気が付くだなんて流石ですね!』
おおう……こいつは都合よく解釈しすぎなんじゃないのか?
あれはほとんどまぐれだし……やらないよりやってみたほうがいいと思っただけだ。
『まぐれだまぐれ。ほら、そんなことよりお前もこいつ食べろ。すげぇ経験値うまいぞ?』
『いいんですか!?』
『お前の仕留めたのは岩で出せないからな。遠慮するな』
『有難う御座います! ではお言葉に甘えさせていただいて……いただきます!』
零漸はベドロックに近づいて思いっきりかぶりつく。
ガジッ。
……すごい嫌な音が鳴った。なんだ?
そう思っていると、零漸がベドロックから口を放した。
かぶりついたところを見てみるが、歯型すらついていなかった。
『……応錬の兄貴……すいません。俺こいつ食べれそうにないです……』
『……マジか』
前言を撤回しよう。こいつ石より硬いわ。
どうやらこいつは俺の剛牙顎でなければ肉を噛みちぎることができないらしい。
なんと面倒くさい魚なのだ。
せっかく零漸にも食べさせて進化の手助けをしようと思っていたのに……。
仕方ない。俺一人で食べることにする。
零漸にはその辺に浮いている魚を食べてもらうことにした。
どうやらまだベドロックの香の能力がまだ続いているらしく、魚達はふらふらと泳いでいるだけだったので簡単に捕食することができる。
俺に至ってはベドロックをもう一口食っただけでレベルがMAXになってしまった。
これだけまだ魚がいて、ベドロックを二口食べたらレベルがMAX……。
これは相当な回数進化ができるのではないだろうか!?
早速進化先を……っと。
【進化しますか?】
うっす!
【進化先を選んでください】
===============
―進化先―
―クレイカープ―
―水辺蛇―
===============
…………ん?
……えっ? 水辺蛇?
あれ蛇って爬虫類で……陸にいる……蛇だよね?
て、てててて、て天の声さん!?
水辺蛇について教えてくれ!
===============
―水辺蛇―
読んで字のごとく、水辺に住処を作る蛇。
川や海を泳ぐことができる蛇ではあるが、陸を走る方が早い。
水辺蛇のいる周辺には水の玉が浮かんでいることが多いため、それを目印にして水辺蛇を探すことができる。
水辺蛇の皮は高級品で、アクセサリーに加工されることがほとんどだが、密猟で数が減っているため保護の対象になっている。
===============
クッソ。どこ行っても人間に狙われる生物になりやがる。
いやそこじゃない!
俺、川生活卒業できるぞ!? やったぁああああ!!!
と、喜んだのは良かったが……俺はまだ零漸のことが心配だ。
あれだけ強力な技能を持っていればこれからは一人で何とかなるかもしれないが、合流して一日しかたっていない。
一か月も何もせず誰ともあわず、恐ろしい忍耐力でいるとも限らない日本人を探していたのだ。
やっと会えたのに一日一緒にいただけで、はいさようならとは行かないだろう。
というより俺のメンタルが持たない。
俺だって本当は早く陸に上がりたい。
そりゃそうさ。
この世界を早く見てみたいし、人とも交流ができるようになりたい。
第二の人生こんな川の中で一生過ごすのはまっぴらごめんだ。
だが……零漸とあえて俺も嬉しかったし、慕ってくれているから可愛がってやれる。
仲間を一日で見限るやつがいてたまるか。
どうするか俺は一瞬悩んだが、殆ど即決だった。
もう少しだけ零漸を見守ることにする。
だが、折を見て離れるつもりだ。
零漸は悲しむだろうが、これはあいつを一人で生きていかせるために必要なことだ。
それに、俺も零漸に頼ってばかりはいられない。
だが今は……もう少しだけ……アイツを見ておきたい。
なので俺は、クレイカープに進化先を指定した。
おそらく次に進化するときが、零漸との別れの時だ。
それまでは零漸を見守ってやることをにする。
残っているベドロックを食べてしまえばすぐに進化できるだろうが……こいつは捨てておこう。
俺はクレイカープに進化する。
体全身にまた激痛が走ったが、それもすぐに収まった。
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