1.20.ベドロック


 ようやく空が明るくなってきた。

 あれから、元の場所に戻って監視を再開していたが、特に目立った動きはなかったので暇で暇で仕方がなかった。


 まだ完全に朝ではないが、ここに居ても意味がなさそうなので零漸と合流するため、元居た場所に戻ることにする。

 ベドロックの位置も把握したので、始めに考えていた作戦通り、こちらから先制攻撃はできそうだ。


 動きのない魚たちを尻目に、合流地点へと泳いでいく。

 戻ってみればすでに零漸れいぜんがいた。


『なんだ、早かったな零漸』

『あ! 応錬の兄貴! おはようございます!』

『おはよう。で、どうだった? なにかあったか?』

『はい! ベドロックのような魚を発見しましたよ!』


 …………ん?

 俺と零漸が見張っていた場所はそれなりに離れていたと思うが……。

 偶然同じ場所にいたのだろうか?

 だがあの時零漸の姿はなかったように思ったが……。


『どんな奴だった?』

『えっとですね……白と黒が混じったような色をしたアンコウみたいな魚でしたよ! 全く動かない魚達の中で一匹だけ泳いでいる魚を見つけて不思議に思ったので追跡してみたんです。そしたら大岩の影にベドロックがいたんですよ! 泳いできた魚はベドロックの口の中に入って食べられちゃいましたけど……』

『お、大岩の影?』

『はい!』


 零漸が見たというベドロックは俺が見たものと同じだった。

 だが、隠れていた場所が違う。

 俺が見つけた場所は大岩の影ではなく、川底であり、大岩に隠れているようには思えなかった。

 と、いうことは……ここにはベドロックが"二匹いる"ことになる。


 予想外の事態だ。

 別に騒ぐことではないかもしれないが、安全を期すため作戦をもう一度思い出しておく。

 とりあえず相手がどんな攻撃手段を用いてくるかがわからないため、攻略方法は俺と零漸が一緒に行動して仕留めるという形するのがいいはずだ。


 俺であればこの攻撃力のごり押しで一匹くらいは簡単に倒せるかもしれないが、零漸はそう言うわけにもいなかいだろう。

 圧倒的に決定打となる攻撃手段を持ち合わせていない。

 防御力は折り紙付きだが、それだけではじり貧だ。

 俺のサポートが必要になるのはずである。


 なのでここに来るまでに決めていた作戦を実行しようと思う。

 作戦を行う回数が増えるだけなので、零漸も混乱はしないだろう。


 俺は情報を照らし合わせ、今の状況と作戦をもう一度零漸に説明する。

 ベドロックが二匹いることに多少驚いていたようだが、相手が二匹いても動くことができないことは確かなので、作戦事態に大きな変更はないと伝えたところ急にやる気を出した。


 ……やっぱり弱いのだろうか。頭が。

 いや、だがこれでも諜報員だ。俺は零漸に期待をしている。


 零漸はやる気に満ちた声色で質問をしてきた。


『応錬の兄貴! まずはどっちから始末いたしましょう!』


 今一度零漸の言葉遣いを見直しておいた方がいいような気がしてきた。

 一瞬言葉が詰まったが気にしないようにして方針を伝える。


『……うん、そうだな。まずは零漸の見つけたベドロックにしようか。俺の見つけたベドロックは川底にいたし、戦いやすい所で相手の情報をできるだけ引き出して、川底にいるベドロックは簡単に倒せるようにしようか』

『わっかりましたぁ!』


 空がもう少し明るくなるのを待ってから、零漸に一匹目のベドロックがいる場所に案内してもらった。

 相手に気づかれるわけにはいかないので、少し離れた場所に隠れて場所を教えてもらう。

 周囲は海藻が少し多く、日当たりが良い。

 山のように大きい岩が何個も転がっていて、川より外に露出している物も多い。

 大きな岩があるということは、ここは上流なのだろう。

 小さな石があまり見受けられない。


『応錬の兄貴、あそこです』


 零漸が示した場所は大岩が二つ重なっている場所で、小さな洞窟が二つの岩によって作り出されている。

 少し海藻が邪魔で見えにくいが、その洞窟には確かにベドロックがいた。


 白と黒をいり交ぜたような色が見ている者を不快にさせる。

 ベドロックは時々口を開いて水を入れこみ、エラから吐き出していた。

 見ていてわかるのだが、どこか安心しきっているように思う。


 今の今まで敵となる生物がいなかったのだろう。

 俺から言わせてもらえば不用心なことこの上ない。

 MP切れになったやつが言っていいセリフではなさそうだがな。


 しかし……場所がちょっと厄介だな。岩が重なって作られている洞窟……っていうか穴? 隙間? が想像以上に狭い。

 まぁベドロックからしたら自分が入れる大きさだけあったらいいんだからな。

 ああいうところに巣くうのは当然か。


 だがまいったな……あれでは俺が参戦できない。

 遠距離攻撃がないのだから仕方がないのだが……あの隙間が狭すぎて俺が入るには正面からの特攻でしか攻め立てれない。

 流石に未知の相手に向かって正面特攻はかましたくない……。


 んー……戦い方だけ考えていて、地形のことを全く考慮していなかった。

 そうだよなぁ……地形で戦い方変わっちまうもんな。


『あー……厄介な場所にいるなぁ』

『え、そうなんですか? 逃げ場がなさそうでよさそうですけど』

『いやいや……あの場所に陣取られてたら俺が攻撃しにくいじゃないか。少なくとも奇襲は無理だな』


 俺がそう答えると、零漸は少し考えこんだ後また話し始めた。


『…………応錬の兄貴? これなんとかなるかもしれないっすよ?』

『なに?』

『いや、俺のロックガンで岩崩してしまえばアイツ潰れて死ぬのでは?』

『え、天才か?』


 天才か?

 そういえばこいつ岩ぶっ壊してたな! おお! 勝機が見えてきたぞ!?

 まさかこんな所で零漸が知恵を働かせるとは……。

 少し過小評価をしていたようだ。考えを改めよう。

 てか岩ぶっ壊せるほどの威力持った遠距離攻撃持ってんだから十分な戦力じゃねぇか。

 何考えてんだ俺は。


『よし! いけ! 零漸!』

『うっす!』


 掛け声と同時に隠れていた場所から飛び出す。

 ベドロックにはすぐに気が付かれたようだが、大して驚いた様子はない。

 零漸を睨んで何をしてくるかを観察しているようだった。


『ロックガン!』


 零漸の鱗が五枚はがれて周囲に漂う。

 ひし形を半分に割った鱗はとても鋭利で先端が光っているように見える。

 そのまま発射するかと思いきや、零漸はさらに技能を付与した。


『部位強化(爆硬)!』


 五つの鱗が淡いオレンジ色に光る。

 部位強化は体の一部であればなんにでも付与できるらしい。

 だが零漸の持っている部位強化は少し危険だ。


 鱗に部位強化(爆硬)を付与したのならばこれは弾丸ではなくて魚雷になる。

 そのかわり爆発に巻き込まれても大丈夫なように、自身の体は硬くなるが動けなくなるというメリットとデメリットがある。


 しかし、相手は動くことができない。

 今回は遠距離攻撃のロックガンの火力をあげているだけなので、実質こちらにデメリットはない。

 部位強化(爆硬)とロックガンのコンビネーションは相当いい物なのでないだろうか。


 ロックガンに部位強化(爆硬)を施したところでようやく一撃目を発射する。

 一拍おいて二射目、三射目と次々にロックガンを放っていく。


 一発目はベドロックの頭上付近の岩に直撃した。

 ベドロックは射撃制度が上手くないと勘違いしたようで、どこかあざ笑っているように見える。


 だが今回の目標はお前ではなく、お前の上にある大岩だ。

 何処に当たろうが関係ないのだ。


 一発目は爆発こそしなかったものの、大きな亀裂を入れることに成功した。

 爆発するかどうかわからないのがこの攻撃の怖い所だ。

 爆発の発生確率は『中』だと言っていたが……中とは何パーセントくらいなのだろうか。

 MPに余裕があったら実験したいと思う。


 二発目も爆発はしなかった。

 しかし、一発目に入れた亀裂を抉るかのように全く同じ場所に当たった。

 ベドロックも流石に焦っているのか、その場でウゴウゴと体をひねりまわしている。


 三発目でついに爆発が起こった。

 水中なので爆発の規模は大きくはないが、亀裂の入った岩を崩すには十分だったようで、この三発だけで二つの岩が崩壊し始めた。


 だがまだ二発残っている。

 それも発射させると同時に完全に岩が支えを失ってガラガラと大きな音を立てながら崩れ始める。

 気持ち悪いぐらいに暴れまわっていたベドロックがいたが、それもすぐに岩で見えなくなってしまった。


 あそこまで自分の身が危険にさらされていたのにも関わらず、動かなかったということは……やはりその場から動くことができないのだろう。

 流石岩盤……動いちゃ岩盤石の異名が廃れちまうからな。


 ちゃんと死んでいるかどうか確認したかったが……流石に岩は持ち上げれない。

 だがどのみちこれでは食事はできないはずだ。

 もし奇跡的に生きていたとしても死ぬのは時間の問題なので放置していても大丈夫だろう。


 プランクトンがいれば生きていけるかもしれないが……流石にあれだけだと腹減るからな……持って一週間といったところだ。

 実は俺もきつかったりする。


 零漸は想像以上の威力に驚いているようだった。

 だが「俺つえぇ」と小声で言ったの俺は聞き逃さなかったからな。


『やるじゃねぇか零漸!』

『ふゃい! ああ、有難う御座います!』


 噛んだな。

 

 よし、これで一匹目は撃破した。

 この調子でもう一匹もやってもらいたいが……少し気になったことがある。


『だが零漸。あんだけ技能ぶっ放したんだ。MPは大丈夫か?』

『…………残り5でした』

『ギリッギリじゃん!』


 MPの回復方法はその辺にいくらでも転がっているので回復は簡単にできるだろうが……零漸だけに任せず俺も戦ってみたほうがよさそうだな。

 新技能試してみたいし。


 少し休息をしてから、今度は俺が見つけたベドロックの場所へと進んでいくことになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る