1.19.諸悪の根源
『結構泳いできましたね~。相変わらず何もないですけど』
『ベドロック……マジでどこにいるんだよ。早く姿現せ経験値よこせ』
『その顔で言うと怖いっす』
その顔とはなんだ。全く失礼な奴め。
確かに牙が口から所々飛び出していて目もでかいし口もでかいけどさ。
てかもう夜になるぞ……。
俺は大丈夫だが夜になってしまうと
『お? 応錬の兄貴! あそこなんか広い場所じゃないっすか?』
『何?』
確かに零漸が言った通り、奥の方に広い空間が広がっているようだった。
おそらく池だろう。
これだけ上がってきてまだ池があるのかと驚いた。
俺たちは急いで池に入って周囲を確認する。
今まで通ってきた場所よりはるかに底が深い。
見えないほどではないが、魚が生活するには十分すぎるほどの広さがあった。
大きな岩や水の中に沈んだ大木が魚たちのいい住処になっているようだった。
そう。"魚達のいい住処になっている"のだ。
『魚だ!!』
『ここにきて!?』
そこは魚たちの楽園。
様々な魚が泳いでいて見たことのない魚も数多く泳いでいた。
それも大量にだ。
この池にしてはいささか多すぎる量の魚達が悠々と泳いでいる。
そこで確信する。
ここの池のどこかにベドロックがいるはずだと。
おそらく食べきれない量の魚が集まったので食事のとき以外は香を出さずに放置しているのだろう。
香のせいかどうかはわからないが、魚達は一切殺し合ってはいない。
明らかに魚を丸のみにしそうな魚も残っているのだが、ただ静かに何もせずに流れている。
『どうなってんだこれ』
『……ここがベドロックがいる場所で間違いはなさそうですけど……これどうなってるんですか? 大きな魚も小さい魚もいるのに、大きな魚が捕食をしていないなんて』
流石に零漸もこの異変には気が付いてくれたようだ。
この光景は予想外だった……このままこいつらを経験値にしてもいいが……そうすればベドロックが確実に出てくるだろう。
自分がため込んでいた飯を横取りされるんだからな。怒るのは当然か。
だがそのあぶり出し方だと、零漸の遠距離攻撃ができなくなる。
本来ならば先手を大前提とした攻略方法だったので、あぶり出すとなると根本から作戦を見直さなければならない。
今から練り直しても問題ないだろうが……夜が近いのであまり悠長にはしていられない。
明日まで待つというのも手ではあるが……いや、それがいいだろう。
ことを急いても始まらないからな。
今晩は夜目の利く俺が見張ってベドロックを見つけ出しておいて、明日の朝奇襲をかける様にしよう。
これなら考えていた作戦通りに事を進めれるはずである。
『零漸、ちょっとこれは予想外だったから明日の朝まで待とう。お前は夜目が効かないだろ?』
『夜目ですか? 夜でも周囲は見えますよ』
…………。
よし、こいつにも見張りをしてもらってベドロック捜索を手伝ってもらおう。
『そうだったのか。じゃあ夜の間、ベドロックの捜索に入る。場所は別々の場所で見張りをするから、明日、日が昇ったらここに集合な。それまでは見つけても見つけれなくてもその場を動かないこと。見つけたら監視しておいてくれ』
『わかりました! じゃあ俺は左側のほうの見張りに入ります』
『わかった。じゃあ俺は右側な。頼んだぞ』
『任せてください!』
零漸は勢いよく自分の持ち場へと進んでいった。
あれだけやる気の出してくれる部下を持つのは楽しいだろうな、と考えながら自分も右側へと進んでいった。
◆
―3時間後―
えーこちら、こちらレインキングスの応錬です。
見張り開始から三時間が経過しましたが一向に動きがありません。
今まで岩と海藻ばかりで目が寂しかったのですが、ここにきて魚が出現したので目の寂しさも次第になくなりました。
しかし三時間も見続けるのは目に毒ですね。飽きてしまいました。
こちらからは以上です。オーバー。
っつても誰も返事してくれないのは知ってるけどさ。
なんかしてないと変になってしまいそうだ。
根気勝負とは思っていたけど動かない奴相手に根気もくそもあるかってんだ。
うわ~完全に失敗した。集合時間もっと早くしとけばよかったな。
実際は今から戻ってもいいんだが……変に動いてベドロックに気が付かれるのも嫌だしな。
周囲の魚はほとんど動いていない。
これでは動いている奴のほうが目立ってしまうだろう。
ベドロックの出す香がどれほどまで効果があるのかわからないが、この光景を見るに束縛する効果はありそうだ。
そういえば……この香についても少しわからないところがある。
少なくとも一か月前からベドロックは魚達を支配している。
それはそれで問題だが俺が疑問に思っているところはそれではない。
今まで俺が戦ってきたマレタナゴとアシッドギル……あの二種類は香に呼び出されずに自由に生きていた。
自我もあったっぽいし、俺を食ってきたし。
この状況を見ていればあの二種の行動が普通だということはよくわかる。
じゃあ何故あいつらはこの香に誘われなかったのだろうか。
もちろんそれは零漸にも言えることである。
もし香が届いていたなら今目の前で流れている魚達のように餌になる順番を待っているはずだ。
俺と零漸は『希少種の恩恵』と『大地の加護』があるからかもしれないが……あの二種はわからない。
香と言っていたから匂い関係の技能だとは思うが……。
匂いがわからないのか?
実際俺もここに来てから匂いを感じたことはない。ついでに言うと味覚も感じてないが。
…………マレタナゴとアシッドギルってもしかして嗅覚が鈍い?
それならば香に誘われない理由も納得がいくが……なんでよりによってあの二種だけ嗅覚が鈍いんだ?
ん~こういう時あの種族になっておけばわかることもあったんだろうけど……個人的な恨みがあるのでアシッドギルは捨てさせていただきました。すまんな。
『あー……暇だな。マジで何にも起きねぇじゃねぇか……』
愚痴をこぼしても何も変わらないということはわかっているが、流石に暇すぎるのだ。
暇な時間程苦しい物はない。
【経験値を獲得しました】
今回は空気を読んでくれたなプランクトンよ。暇すぎる無音の空間にお前の声は良く響くぜ……。
天の声だけどな。
それから数十分後……集中力が途切れ途切れになりながらも監視を行い続ける。
すると、一匹の魚が動いていることに気が付いた。
『……お?』
ほとんど変わり映えしない空間での小さな変化は良く目立つ。
それに気が付いた俺の集中力を是非褒めてほしい所だ。
一匹の魚がフヨフヨと動いて川底へと進んでいく。
途中から岩に隠れてしまったのでこっそりと追跡する形で追いかける。
探偵ごっこをしているような気分で少し楽しくなってきたのは内緒だ。
岩陰からこっそり川底を覗いてみると、大きな黒と白の色が混じりあった禍々しくて気色の悪い、アンコウのような生物が大きな口を開けて泳いでくる魚を待っていた。
泳いでいった魚は口の中へと吸い込まれ、嫌な音を立てながら居なくなった。
無事に腹の中に飯を入れたアンコウの様な魚は、川底の色に同化して隠れてしまった。
…………あれだな。ベドロック。
やっと見つけたぞ……。
ようやく諸悪の根源を見つけることができた。
とりあえず朝になるのを待って……零漸と合流しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます