1.18.作戦会議


 俺と零漸れいぜんは並走しながら作戦会議を行っていた。

 このまま上流へと向かって行けばベドロックなる魚が住まう場所が現れるはずだ。

 ベドロックがどんな魚なのかまだわからない以上、作戦の数は多いほうがいい。

 今俺たちはできる技能を照らし合わせて、接敵したらどのように動くかを相談している最中だ。


『俺が近接で、零漸は遠距離だもんな』

『ですね。ロックガンがどれくらいの威力なのかは先ほど試しましたし、まず俺が牽制してみる感じがいいですかね? 連射も結構できましたし』


 零漸には先ほど取得した技能を試し撃ちさせた。

 ぶっつけ本番でやっても基本碌なことが起こらないので、技能を取得したらまず試し撃ちしておけと言ってあるのだ。


 それで岩に向かってロックガンを試し撃ちしてみたところ、岩が崩れた。

 ただでさえ頑丈な鱗に部位強化(鋭)の技能までつけているのだからそうなるのは当然かもしれないが……三発で岩が崩れてしまうとは思っていなかった。


 ロックガンは、数枚の鱗をはがして周囲に展開させて発射する物のようだ。

 威力、連射速度共に申し分ないが同時発射はできないようで、一拍おいて射出しなければならないらしい。

 最大二十まで展開できるようで、試しにやってみてもらおうとしたがMPが切れてしまうので出来なかった。

 進化したばかりだったのでMPがないのは仕方がない。

 こうなればレベルを上げてMPの上限を増やしておかなければいけなさそうだ。


『うん、そうだな。じゃあ接敵したときはまず零漸に任せようかな』

『任せてください! でも命中精度はあんまり期待しないでくださいね……これ結構難しいんです』

『今の段階で何発まで連射できそうだ?』

『んー……いまのMPで言うと……10発が限界かもしれませんね。MPは多少残しておいた方がいいんですよね?』

『そうだ。MPだけは絶対に切らしてはいけないからな』


 MP切れはマジでやばい。あれは体験してはならないくらい危険な代物だ。

 切れたら最後、数時間はぷかぷか浮いているほかなくなってしまうからな。

 零漸にもこのことはしっかりと教えてある。

 同じような体験はさせたくないからな。


『で……牽制した後はどうします?』

『動きとしては「そのまま連射する」か、「接近戦に持ち込む」か、「逃げる」のどれかだろうな。零漸のロックガンが有効だった場合はそのまま十連発撃ってもらったいたい。攻撃が効いていそうにない場合は俺が直接出て見る。それでも無理そうだったら逃げて体勢を立て直す感じだな』

『逃げるときは俺が囮になったほうがいいですか?』

『囮っていうより殿かな。ベドロックはその場から動けないらしいし、その場にとどまっている必要はないんじゃね? 出来れば上流側に逃げたいけど……難しいかな。ベドロックがいる場所によってどっちに逃げるかは考えるか』


 こういうのは臨機応変に対応するのがいい。

 前しか見えていないと予想だにしない場所から飛んでくる問題を直で受けてしまって最後は大変なことになる。


『応錬の兄貴の剛牙顎があればなんだってできそうですけどね』

『……確かにな。ここにきてとんでもないぶっ壊れ技能が出て来たもんだ。ありがたいけどこれ墓場まで持って行かなきゃダメ?』

『一生物ですよ!』

『そうだよな~』


 作戦会議がひと段落ついた。

 作戦と呼べる作戦ではないが、どうするかを決めておくだけでも戦場ではすぐに動けるようになる。

 困惑してしまったら大きな隙になるからそれだけは避けたい。


 今回はそんなに頭を使うことはしないと思うので、零漸も覚えてくれるだろう。

 零漸のすることは遠距離攻撃と殿なので、動きとしては簡単なはずだ。


 進化してからしばらく進んでいるが、なかなかベドロックらしき姿が見えてこない。

 そもそもどんな場所にいるかもわからないので、完全に手探り状態だ。

 動かないというから地面か何かに埋まっているようなものだと思っているが……それが間違っていたらスルーする自信がある。


 天の声とか地の声は生物に関する描写は教えてくれない。

 教えてもらえるのはこんな生物ですよ~ってくらい。

 本当にめんどくさい大辞典だ。


 こんな調子で問題となっているベドロックを見つけることができるのだろうか……。

 幸い、まだ魚がいないのでこの辺りにはいないということはわかる。


 あ、そうか。魚がいたらその周辺にベドロックがいる可能性が高いのか。

 じゃあ魚が出てくるまではどんどん上流に向かっていても問題なさそうだな。


 にしてもこの川めちゃくちゃ長いな! どうなってんだ!

 約一日上っている気がするのだが……川幅が全く狭くならない。

 川底も深いままだし……どれだけ続いているんだ。


『応錬の兄貴。兄貴は陸に出たら何したいんですか?』


 唐突に零漸が声をかけてきた。


『俺か? そうだな~……とりあえず人間はいるらしいから交流はしてみたいよな。人間に化ける術を持っていないと意味ないけど、多分何とかなるんじゃないか?』

『他には何かないんですか?』


 なんだか少し食いつき気味だ。どこか期待をしているようにも見て取れるが……流石に何を期待しているのかはわからない。


『え、他かぁ……。まぁ龍になりたいな。……あ』


 自分が失言をしたことに気が付いて口を閉じる。

 零漸の最終進化先が亀だということを完全に忘れていた。

 零漸が聞いてきたら答えるはずだったのだがついつい言ってしまった……。


 俺は零漸のほうを恐る恐る見てみると、ぐっと近づいて詰めよってきた。


『応錬の兄貴は龍になれるんですか!?』


 …………思ってた反応と違う。


『お、おう。俺の最終進化先は龍だって天の声に教えてもらったな』

『えええ! めちゃくちゃかっこいいじゃないですかー! 俺なんて亀ですよ亀! なんですかこの格差社会! 俺だって好きで転生したわけじゃないのに来て早々亀になれますとか言われたんですよ! わかりますか亀ですよ! なんで大してかっこよくもない亀がチョイスされてるんですか! もっとほら! 鳥とか動物とかいるのにですよ!? それ聞いてから俺もう何にもやる気でなくなってずっと寂しい思いをしてきてっていうのに……ううぅうう……』


 あ、やばいこれ。何かフォローを入れておかなければまた泣き出してしまう。

 とは言ってもどうしよう……中途半端なフォローだとかえって心抉りそうだし、黙っていたらいたで絶対泣くだろうし。

 うーーーん……。そうだ!


『零漸。ちょっと考えてみてくれよ。出鱈目な防御力を持った敵が目の前に現れたらどう思う?』

『…………嫌になりそうです』

『それに加えて自分が持っている最高火力の攻撃が通じないってわかったらどうなる?』

『…………俺だったら心折れます』

『だろ? 出鱈目な防御力を持った奴って、前に立っているだけで城になるんだよ』

『城……おお……』


 よしあともう一息だ。


『それで人間の姿になれるようになってみろよ。お前一人いるだけで軍隊だぜ? 仲間のピンチに駆けつけて体張って守れる奴って……かっこよくないか?』

『め、めっちゃかっこいいっす!!!』


 よかった……何とか興味を持ってくれたようだ。あのままの流れで動かなくなってしまったらそれこそ問題だ。


 でも俺としては防御力が高いのはとても羨ましい。

 防御力が高いというのはそれだけで脅威となりえるので、そんな奴が仲間にいればさぞ心強いことだろう。

 だが亀以外に何かなかったのだろうか……それだけが疑問だ。


『だろぉ? 見てくれは悪いかもしれないけど、性能としてはピカイチだ。人間の姿になれるようになったらどんな異名が付くのかなぁ?』

『おお! おおおおお! いいですね! さっすがは応錬の兄貴です! 俺! 考えを改めていいほうに持っていくことにします!』

『そうだな。悪いほうにばっかり話持ってっていると、いつまでたっても問題が山積みになっていくからな。ま、外に行っても一緒に旅はしような。お前だけだとなんだか心配だ』

『いつでもどこでも! 俺は応錬の兄貴についていきますよ!』


 そう言ってもらえると嬉しいな。だが……一緒に旅をするのは難しいかもしれない。

 俺のほうが速く外に出て行ってしまいそうだからな。まぁこいつなら一人でもやっていけるだろうけど……な。

 なんせこの防御力だ。俺ですら噛みつきたくないのに、他の奴らが噛みついてこの防御力を突破できるとは思えない。


 ま、その時が来たら一人立ちさせてやらないとな。

 …………なんで俺は我が子を見るようなことを考えているんだ……。

 さっさとこの問題を終わらせて経験値を稼ごう。それがいい。

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