5.39.復興


 あの戦いから一日が経っていた。

 俺たちはあの後ギルドに帰ったのだが、全員緊張の糸が切れてしまった様で疲れがドッと出たらしい。

 冒険者は勿論の事、全員が地面に座ってぼーっとしていた気がする。


 防衛戦は何とか勝利を収める事は出来た。

 だが、何故だろう。

 嬉しくない。


 国が無事だったというだけで喜ばしい事なのかもしれないのだが、どうにもあの悪魔の言った言葉が脳裏をよぎる。

 それは零漸や鳳炎も同じようで、浮かない顔をしていた。

 鳳炎は何かしらと深く考える癖があるように思える。

 一日経った今も何かを考えるようにして窓越しに外を眺めていた。


 零漸は打って変わって、元気。

 一日休んで疲れの取れた冒険者たちと復興作業に勤しんでいた。

 考えるのが苦手なタイプだからな。

 体を動かして分からないことは適当に流しておきたいんだろう。


 ムカデの死骸は防具や武器に加工することが出来る様なので、冒険者が一生懸命解体と掃除をやっていた。

 勝ったというのに歓声も上げなかった冒険者が、それを解体してようやく嬉しそうな顔をし始めている。


 まぁ、今回の戦いは何時勝ったのかというのが分からなかったからな。

 外は始末したけど、中ではまだムカデが暴れていた。

 それを駆逐するために大半の冒険者は中に戻ってしまったので、俺の雄姿は本当に数えるくらいの人物しか見ていない。


 この広い国の中でムカデが何処に居るかもわからない状況で、勝ったのかどうかを確認する暇などは無かっただろう。

 全員が気が気ではなかったのだ。

 こういう結果になってしまうのも仕方のない事だと思う。


 冒険者は町と国の復興を。

 国民もそれを一生懸命手伝っているようだ。

 報奨金は国から出るらしい。


 この辺は鳳炎とマリアが工面してくれたようだ。

 騎士団の給料を奪ってやったぜと鳳炎は喜んでいたのだが……。

 何をしたんだ……。


 騎士団は何をやっているのかは分からない。

 所々で騎士の姿をした人物を見かけるので、復興を手伝っているのだとは思うのだが……。

 冒険者との間で喧嘩が起きている。

 それを止めるのに無駄な労力が掛かっている様だ……。


 まぁ、復興になってようやく姿を現したんだ。

 冒険者が怒ってしまうのも無理はないよな……。


 にしても疲れた。

 マジで疲れた。

 一日休んだ程度じゃ体力なんて戻らんよ……。

 精神面のな!


 今は冒険者ギルドで休息を取らせてもらっている。

 俺たちの泊まってた宿ぶっ壊れたからな……。

 悲しいぜ……。


「応錬ー」

「……」

「おーうーれーんー!」

「……あ。ああ、アレナか。どうした」

「大丈夫?」


 んー、大丈夫かどうかというと、肉体的には大丈夫だけど、精神面的には少し弱ってるって感じかな。

 なんせ、あの悪魔の言った言葉がずっと頭の中でループしてる。


 生まれ変わり。

 お前たちの為、貴方たちの為。

 復活が早過ぎる。

 眠っていればよかった……。


 なんのこっちゃ分からんぞ……。

 生まれ変わりって何の?


 国滅ぼすことが俺たちの為になるもんか。


 復活とか知らん……。

 邪神でもいんのかこの世界。

 いや、悪魔が居たんだから居るにはいるんだろうな。


 眠ってればよかったってどういうことなんだろう。

 俺の事なの?


「ぬああああ!! わからん!!」

「びっくり……した……」

「……すまん……」


 もう何が何だかよく分かんねぇんだよな俺も。

 鳳炎もおんなじこと考えてんだろ。

 俺が分からんって言ったら頷きやがったぞ。


 はー……煮え切らん。

 あいつらは何が目的で国を滅ぼそうとしたんだよ。

 暇つぶしじゃねぇだろ絶対。


 だけど……ダチアって言ったっけ。

 あの悪魔。

 あいつとは実際、あの場所で戦わなくてよかったと思ってる。

 普通に勝てるビジョンが見えない。


 ウチカゲより早いんだったら、鳳炎の炎も当たらないだろう。

 零漸だったら戦えるかもしれないが、目に見える速度で動く相手を止められないわけがない。

 防御力がどれだけ高くても、攻撃が当てられないんじゃ意味ないしな。


 アレナとも相性が悪そうだ。

 重加重は発動者本人ですら止められない技能。

 一定の距離離れるか、対象が気絶するまでその効果は続く。

 それを無理やり解除したのだ。

 技能ありきでの攻撃は通用しそうにない……。


 マリアの能力は知らないから予想はできん。

 それに、俺も勝てなかったと思う。

 MPが全快だったとしても、ウチカゲ以上の速度で動くあいつを攻撃できるとは思えない。

 詰みだ。

 あいつがその気なら、俺たちは殺されていたかもしれないな……。


「おーい、鳳炎。お前は何か答えが出たか?」

「出るわけないでしょ……。僕はまだ子供の姿だから頭の回転が遅いの」


 鳳炎は小学生くらいの背から、中学生くらいの背になっていた。

 元の姿に戻るのには三日かかるらしい。

 死んだ直後が小学生。

 一日経って中学生で、二日経って高校生くらいの背丈。

 三日目で大人の姿に戻るようだ。


 めっちゃ早い。

 高校生くらいの大きさになると、魔法攻撃力が下がって普通に飛ぶことが出来るようになるのだとか。


 ていうか鳳炎、完全に僕っ子になったよな。

 これが本当の性格……なんだろう。

 その姿ではそっちの方が似合ってるぞ。


 アレナは子供姿の鳳炎をいたく気に入っていたようだが、背を越されてショックを受けていた。

 朝は鳳炎の腹を意味もなく殴っていたな。

 可愛そうに。


 鳳炎は考え事を止めて、テクテクと俺の方に歩いてくる。


「だけど、復興自体はすぐに終わりそうだよ。マリアギルドマスターが方々を走って指示を出しているし、洗脳を受けていた騎士団たちや城の中にいる貴族たちも急いで政務に取り掛かってる。王が帰ってくるまでに何とかしたいそうだよ」

「だろうなぁ……。王がこの惨状見たら絶対に怒るだろうしね」

「ま、流石に死者は多かったけど、騎士団のお陰で最小限の被害に抑えられたことは紛れもない事実。敵側のミスリードに助けられた感じだよ」

「あの黒い塊の悪魔か」


 あいつの能力だよな。

 ウイルスみたいに感染する記憶消去技能。

 自分では洗脳魔法とか言ってたけど……。


 騎士団の記憶を消していたので、騎士団は防衛に行くことなくその場に留まり続けた。

 だからムカデが湧きだした時、すぐに戦闘を開始することができ、多くの国民を助けられた。

 もし騎士団の記憶は消さず、防衛に向かわせていたら確実に被害はもっと出ていたことだろう。


 にしても、悪魔については全然情報が無い。

 国の図書館とかで調べものとかできないかな。

 少しでも知っておいた方が戦いに活かせそうだし……。

 出来れば戦いたくないけどね。


「あ、いたいた」


 人がまばらしかいないギルドの中にいるので、俺たちの事を探している人はすぐに見つけることができる。

 マリアが扉を通って入って来た。

 手には手紙を持っているようだ。


「霊帝の諸君」

「おいどうした急にキャラ変わったぞ」

「こういう時は何かあるよ。良からぬこと考えてるよ」

「悪い女なの」

「アレナちゃん??」


 何処で覚えたそんな言葉。

 俺今めっちゃびっくりしたわ。


 マリアは一度咳ばらいをして仕切り直す。

 手紙を俺に手渡してきて、こういった。


「サレッタナ城への招待状」

「は?」

「王子様が呼んでるみたいよ」

「「は?」」


 俺と鳳炎の声がハモった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る