5.22.記憶喪失


 ど、どうなってんだ!?

 さっき騒がしいと思ったのは騎士団が来たんじゃなくて、避難していた国民が戻って来たことによる物だったのか!!

 いやいやいやいや!

 なんだこれ!!


「どうなってやがる!!」

「わ、わからん! あの者たちはこの辺に住んでいる者たちだな……」

「話を聞きに行くぞ!」

「勿論である!」


 鳳炎は普通に飛んで地面に着地する。

 俺はこんな高さから落ちたら骨折どころじゃすまないので、普通に階段を使っておりていきます。


 鳳炎は俺のことを待たず、すぐに住民と冒険者に話を聞きに行った。


「おい! これはどういう事なのだ!」

「ほ、鳳炎さん! こいつらおかしいですよ!」

「何がだ!」

「話を聞いてください!!」


 冒険者と鳳炎が話している内に、俺も何とか合流する。

 結構全力で走ったから疲れたぞ……。

 まぁ基礎体力は魔物のそれなのですぐに回復はするが。


「そこの者! 何故戻って来た! 避難していたのであろう!?」

「……何を言っているんですか……?」

「何を……って……。魔物の群れが来ているのだ! ここにいると危険なのだぞ!」

「え、そうなんですか?」

「そうである!!」


 ……え?

 おい、待ってくれよ?


「鳳炎! こいつ記憶が飛んでるんじゃ……!」

「!? そうか! 応錬! 床にへばりついている塊を逃がしたのはマズかったかもしれんな!」

「俺もそんな気がしてきたよ!」


 最悪だぞおい!

 鳳炎がさっき推測した事と、これを合わせてみるとなんとなくあの床にいた塊の技能が分かる!

 だ、だがまだ確定とまではいかない!


「おい! 他の奴らもこんな調子なのか!」

「え、あ! はい! そうです! 全員で説得して避難してもらっています!!」

「対処している人数は!!」

「な、中にいた冒険者全てで行っています!」

「それじゃ防衛ラインに綻びが生じるぞ……。魔物の接近予測時間は分かるか!」

「一時間といった所です!」


 一時間か……。

 微妙な線だな。

 また国民を説得して状況を説明し、避難してもらうのには相当な時間がかかる。

 それに加えて配置をし直さなければならないのだ。

 十分な防衛体制が整うかは怪しい。


 そう言えば鳳炎たちは罠を仕掛けながら帰って来たんだったな……。

 増えているという事に気が付いて、到着するまでに少しでも数を減らそうとして足並みを揃えていたのか。

 だから時間がないのね!

 しゃあねぇ!


「応錬! デカい音を鳴らせる技能は無いか!? 私に注意を向けて欲しい!」

「空気圧縮という技能があるが、少し時間がかかる! それと、結構高威力だぞ!」

「空に打ち上げろ! 私は空にいるから問題ない!」

「分かった! 五分待て!」


 鳳炎の言う通りに動き、俺は空気圧縮を使用する。

 ぼやっとした透明な空気の玉が出現したのを確認した後、俺はそれを上に向かって放り投げた。


 空中であれば何処でも適当な場所に滞空してくれるからな。

 後は俺が任意で破裂させることができる。

 今はチャージ中だ。

 言わばコンプレッサーみたいなものだな。


「助かる!」

「おう! だが一度確認だけしておこう! 奴の技能について!」

「それは私も思っていた所だ……」


 避難したはずの国民は、魔物が来ているからという理由で確かに教会、または中央区の広い空間に避難したはずだ。

 それは分かっている。

 冒険者が避難誘導をしたのだ。

 俺もその姿を見ているので間違いはない。


 だが国民は帰って来た。

 それは何故か。

 魔物が来ているという事を忘れていたからである。

 正確には記憶を消されたと言ってもいいだろう。


 そしてそれをしたのは……。


「恐らくあの床にへばりついていた塊……」


 喋っていた内容は、複数の人間の記憶を操れるような内容だった。

 これも憶測になっていたのだが、今回の件ではっきりした。

 あいつは大勢の人間の記憶を弄ることができる。


 だから報告に行った衛兵が、騎士団を動かす権限を持っている王子に話をしに行くことすらできなかった。

 その後に、報告をした人物の記憶を消し、帰らせる。

 次に後を付けて、報告を頼んだ者たちの記憶を曇らせる……。

 

「いや、だとすると効率が悪い……」

「……むぅ。もしかしたら記憶を消した相手に対し、何らかの技能を使ってその周辺にいる者も同じように記憶が無くなるのかもしれないな」

「なんだよそれウイルスかよ……」


 でもそれじゃないとこんだけの人数の記憶を操るのは無理だよな……。

 ってことは!


「騎士団共! あいつらも忘れてるんじゃ……!!」

「ああー!! そうか! 本当に役に立たないポンコツであるな!」


 今から呼びに行って準備してとか時間が足らん。

 十分な戦力は寄越してくれないだろうな……。

 用意できたとしても門番とかくらいか……。


 あ、でも俺たちはどうなんだ!?

 国民と接触しているんだったら俺たち冒険者にも被害が出てるんじゃないのか!?


 と思って周囲を見てみるが、冒険者はいつも通りだ。

 国民に避難誘導をもう一度している。

 特に動きにも怪しいところは無いようだ。


「何でだ……?」

「……もしかしたらだが、魔物が攻めてきているという事をしっかりと認識している者であれば、その洗脳……? 記憶操作……というのか? それが効きにくいのではないか?」

「なるほど?」


 それなら冒険者に被害が出ていないのは頷けるな。

 とりあえず冒険者については心配する必要ないか。


 つーか、なんて面倒くさい技能なんだ。

 でも弱点は分かった。

 魔物を見せればとりあえず信じてくれるようだな。

 でも一人一人に見せている時間は無いか……。


「とりあえず騎士団はどうする!?」

「そんな物待っている余裕はない! 音がすればこちらにも来るだろう!」


 まぁそうだよな!!

 あの二人にこの事説明しに行く時間のも面倒だし!


「とりあえず俺はあの執事を探す!」

「分かった! 頃合いを見て帰ってきてくれ! それと……そろそろいいか!」

「おう! 爆発させるぞ!」


 空気圧縮で圧縮された空気を一気に開放する。

 バンッ!

 という大きな音がしたが……。


「あんまり音でなかったな……すまん」


 だがそれで十分だったようだ。

 国民及び冒険者の目線は、空中にいる鳳炎に集まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る