5.21.詳しく


「応錬!! 私が居なかった時のことを詳しく聞かせるのだ!!」

「あ、ああ。そのつもりだ……」


 えっと……まず何を話すべきなのかな?

 とりあえず騎士団についてのことだな。


「鳳炎たちが出て行ってから暫くしてから、騎士団隊長と副隊長のロイガーとツァールが来たな。そんで出兵できない理由を教えられた」

「そこで王子が出てくるのだな。だが王子に騎士団を動かす権限など誰が与えたというのだ。というか王は?」

「今はいないらしい。パルバン王国だったか? そこにお忍びで行ってるんだとさ」

「んん……。まぁ王が居ないと知れば攻めてくる国もあるかもしれないからな……。それは良いが……洗脳というのはどういう事だ!」


 いや、それを今から話すからとりあえず近いから離れろ……。

 鳳炎の肩を押して距離を取ってからその説明を始める。


「変だと思ったから泥蛇使って城に忍び込んだのさ。その時に執事を見つけてな? 天井と床に塊がへばりついてて、それが喋ってたんだよ」

「何を喋っていたのだ」

「床の奴が、魔物の報告を捌くのがどうとか言ってて、天井にいた奴が完全に執事を操ってるって言ってたな。後、魔水晶がどうとか言ってたが、何か知らないか?」

「魔水晶? それは知らんな……」


 これは鳳炎でも知らないか。

 マリアも知らなかったし、これ以上の情報はなさそうだ。


 声に聞こうとしたことはあったけど、あいつ現物が無いと教えてくれないんだよな。

 マジでケチ。

 名前分かってるんだから教えてくれてもいいだろうに。


「……応錬。その天井の奴は一人の人間を完璧に操れるんだな?」

「ん? んー、そんな感じのことは言ってたな……」

「もう床の奴は……捌く……捌くか……。記憶の操作ができるのか?」

「あー……天井の奴が君のとは違うからって言ってたから、その類に入る技能を持っているかもしれないな」

「だがもう何処に居るか分からないと」

「そうだな。ずっと探しているけど見つからないな……」


 洗脳って聞いて俺も黙って見てるなんてことはしない。

 だが解除方法も分からなければ、あの塊ももう見つからないのだ。

 王子もいないしどうなってんだよ。


 本当は相談したかったが、記憶を操れたり洗脳できたりする奴に皆を近づけさせたくなかった。

 それに、普通に怒られそうだったし。


「外だけではなく、中にも注意を払っておいた方がよさそうだ」

「俺たちにそんな余裕があるのだろうか……」

「わからんな。でもやるしかあるまい。機動力は高いから私はすぐに動けるしな」

「お前時々自分を褒めるよな……」


 まぁ別にいいけどね。


 すると、鳳炎が何かに気が付いたかのように目を見開いた。

 だがすぐに口を閉じて考え事を始める。


 な、なんだなんだ。

 この鳳炎の顔マリアの部屋で待機している時に見たぞ……?

 こうなったら声かけても黙ってくれって言われるんだよなぁ。

 悲しい。


「応錬」

「うおびっくりした! な、なんだ」

「洗脳には様々な種類があると仮定しよう。一人を完全に洗脳できるタイプ。そして記憶を弄ることのできるタイプ」


 お、何だよいきなり……。


「まず一人の権力者……。今回の場合は執事か。だがその執事は政務に直接かかわりを持つことのできる王の側近と言っても過言ではない人物……。その者は年を取っていたか?」

「え、ああ。爺さんだったぞ。結構豪華そうな部屋の扉から出てきた」

「バスティ・ラックルか。王子と王に仕えている執事だな。王が居ない今実際の権力を握りやすいのはこの執事……それはないな。では女王……いや、女王も国を出ているか。お忍びだしな。となると公爵が指揮を取るのが普通なはず……。だが執事に何故洗脳を……? 王からの命令と言えばそれで済むが所詮使用人だぞ?」


 な、なんか自分の世界に入っちゃったなおい……。

 ていうか鳳炎は貴族の事とかよく知ってるっぽいね。

 また今度説明してもらおう。


 で、どうなんですか鳳炎さん。

 何かわかったんですか……?

 俺に話を振っておいて勝手に自分の世界に入らないでいただきたいんですけどー。


「……床の奴は拡散型?」

「洗脳の拡散ってどういうことだよ……」

「床の奴は魔物の報告を捌くって言っていたのだろう? という事は何回もその報告を持ってきている衛兵が居るという事だ。そうなれば報告しに行っていない他の者も知っていておかしくはない……」


 まぁ報告をしに行った奴は誰かからそのことを聞いているだろうし、それは普通だと思うけど。

 国民もこの事知ってるから避難してるしね。


「……んーこれ以上は分からん!! どうなっているのだ!」

「俺も分からん。とにかくあの執事にへばりついている塊見つけないとな……」

「ああ、確かにそうだ……。その捜索は引き続きまかせる。もしかしたら厄介な奴かもしれないから、見つけたらその塊を全て殺してくれ。最悪の場合……城の者全員が何かしらの記憶を弄られている可能性がある」


 はっ?


「い、いやそれはないだろ!」

「王子に騎士団を動かす権限を与える国が何処にあるというのだ! 記憶の弄られ方はよく分からんが、それが普通だと思わせる事はできている。説明はこれでつく」

「いやそうかもしれんが……」


 暴論じゃないのそれ……。

 いくら何でも城の中にいる奴全部洗脳……または記憶を弄るなんてできる奴いないだろ。

 流石にこれは暴論だよ!


 俺が疑いの目線を鳳炎に向けていると、いきなり肩をガっと掴まれてこういった。


「この世界で常識は通用しないのだ! あり得ない可能性があり得ることも多々ある! この世界の技能ってのは……恐ろしい物なんだ……!」

「……あ、ああ……」


 鳳炎の剣幕に押されて、俺はこれ以上何も言えなかった。

 だが確かにその可能性は大いにある……。

 ここは魔法の世界。

 そして技能という持っていればだれでもそれを再現できる技を放てる。


 とんでもないチート技能。

 旅に役立つ技能、怪我を治す治癒系技能……。

 思い出してみれば、あり得ない物ばかりだ。


「塊の捜索を頼む。いいな」

「わかった」


 それは言われずともやるつもりだ。

 任せてほしい。


 鳳炎が城壁の内側を覗き込む。

 おそらくそこには騎士団が待機しているはずだ。

 だが、鳳炎は体を半分乗り出して、下にある光景に驚いていた。


「なっ!!」

「ど、どうした鳳炎!」

「何故騎士団ではなく……民がここに戻ってきているのだ!!」

「はぁ!!?」

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