3.40.誰だてめぇ
気が付くと真っ暗な空間に放り出されていた。
だが俺のいる場所だけはスポットライトがあてられているように明るく、上から降り注ぐ光が闇を打ち払っていた。
体を動かしてみる。
どうやら人の姿のままのようで体は自由に動かせる。
闇のほうに歩み寄っていけば、スポットライトがついてくる。
どうやら暗闇に手を入れることはできなさそうだ。
なんだ此処。幽閉されたってことはないよな。
うん。こんなスポットライトなんてあるわけがないし、空間も広すぎてよくわからん。
てか技能が発動しねぇ。
てなると夢か? 随分とはっきりした夢だな。
こういうのなんていうんだっけ? 明晰夢か。
にしても変な夢だな……。
なんでよりによってこんな何もない空間で夢だって気が付いてしまうんだ。全く。
「───。────────」
あっれ、声が出ねぇ。
なんでだ? 夢だからか?
これどうしたらいいの?
適当に歩いていたって意味ないだろうし、かと言って誰かいないか確認しようにも声でないし。
音も出ないのかこれ。
そう思って手を叩いてみる。
やはり音はならなかった。
だが本当はなっているのかもしれない。
そう思ってとりあえず音は出しながら歩いてみるが……やっぱり周囲にあるのは闇ばかり。
結構な距離を移動してきたと思うのだがなーんにもない。
夢じゃないのこれ。夢だったら普通に覚めてほしいんだけど……。
俺! 目覚めよ!
…………目覚めねぇ。
変なポーズ取った俺が恥ずかしいじゃねぇか。
零漸じゃあるまいし。
いや誰もいないから別にいいんだけどさ。
……しっかし……どうしたもんか。
コトッ。
背後から硬い何かが地面に落ちる音が聞こえた。
その音はとても小さなものだったが、今まで何の音も聞いていない俺の耳にははっきり聞こえた。
音を聞いてパッと振り返る。
怪しいとは思ったが今まで何もなかったのだ。
それが一体何なのかくらいは調べておきたい。
そこには三人の人物が立っていた。
俺と同じようにスポットライトを浴びている。
一人の人物は男だろうか……?
飾りつけの多い白い服を着て何故だか土下座をしている。
これは俺に対してしているものなのだろうか。
顔は見えないためどんな容姿をしているのかはわからない。
もう一人は黒い服を着ていて、服にはバンドやベルトなどといった物が巻き付けられている。
この人物は女性だ。
服はコートのようなものだが……白い線が所々入っており、時々色を変えているようだ。
どうなっているんだろうか……。
黒服の女性の髪の毛はとても長く、膝あたりまではありそうだ。
下に行くにつれてふわっと広がっている。
顔を見てみればきりっとした目をしていた。
しかしなんだか頑固そうな人だ。
何故だかとてもめんどくさそうな顔をしているが……何故なんだ。
最後の一人は男性だ。
背が他の二人よりも低く、黒服の女性に何かを言っているようだった。
この男性の服装は全体的に青い。
が、その中に黄色が混じっていた。
牧師のようなその服装はとても奇抜なデザインだという印象を受ける。
背は低いが他二人よりも年上だろうという事がわかる。
会話を終えた牧師っぽい人物が俺の方を向いて口を開く。
「──────。─────」
いやわかんねぇよ。
てか誰だてめぇ。
「!? ────! ──────!!!!」
あ? もしかして俺の言葉はわかるのか?
そう聞いてみると、牧師は大きく頷いた。
どうやら俺に声は届かないけど、俺の声は向こうにきちんと届いているらしい。
完全な一方通行だ。俺も聞きたいことあるんだけど……これじゃあ会話はなかなか進みそうにないな。
てかいつまで土下座してんだ白男。
さっさと頭上げて顔見せやがれ。
すると白服の男はすぐに立ち上がって俺に笑顔を向けてくる。
そこでようやく顔を拝むことができた。
とてもやさしそうな表情をしている男性だ。
笑顔が似合うとはこのことなのだろうかぶっ飛ばしたい。
一言でいえば優男。
そんな雰囲気の……青年だ。
青年はなんともバツの悪そうな表情で立ち上がった。
だが俺はなんでこの青年が土下座をしていたのかもわからないし、何故こんなバツの悪そうな表情をしているのかもわからない。
正直そういう反応をされると困るのはこっちなのだが……。
「──────。──?」
わかんねぇっつってんだろ。
「…………!」
青年は何かを思いついたように人差し指を立てた。
すると青年は両手を自分の胸にあてた。
動作から推測するに恐らくこれからゼスチャーが始まる。
俺とアレナがやっていた時より遥かに難易度が高いぞこれ。
……俺は? って意味か?
青年は大きく頷いた。
まぁあれくらいならわかる。
無難な表現方法だしな。
それから人差し指を上に向けてかざした。
……俺は光?
青年がずっこけた。
スポットライトの光を指さしているから俺はそうだと思ったのだが……。
違うようだ。
青年は全力で首を横に振るってもう一度人差し指を上に向けてかざす。
……俺は人差し指?
すると、黒い女性と牧師はその答えに爆笑した。
声こそ聞こえないがそれくらいなら表情から読み取る事ができる。
一方青年は頭に手を当てて「まじかぁ……」って言ってそうな表情を浮かべている。
いや、おそらく言っているのだろう。
まぁ実は俺も違うなとは思っていた。
だけどさ、わかんねぇんだわ。仕方ないね。
黒い女性はひとしきり笑った後、俺に手を振った。
牧師も同じように手を振る。
青年は浮かない表情をしていたが、二人と同じように手を振り始めた。
すると、三人に浴びせていたスポットライトの光が収縮していき、闇に飲み込まれるようにして姿を消した。
それは俺も同じだったようで、周囲の光が収縮していく。
完全に光が閉ざされ、何も見えなくなる。そこで俺は意識を手放した。
◆
朝鳥が鳴いている音で目が覚めた。
やわらかいベッドで寝たのは久しぶりで、ぐっすりと眠れた気がする。
目を開けて体を起こしてみると、窓辺から差し込む光が反射して俺の元まで届けられる。
少し眩しいが我慢できないほどではない。
そもそもこの部屋が明るすぎるのだ。
これでは目が悪くなってしまいそうだなと考えながら、ベッドから降りて朝支度を開始した。
朝支度を整えながら俺は先ほどまで見ていたであろう夢を思い返してみる。
あれは確かに夢だった。
現にこうして起きて夢で見たことを再確認できている。
白い青年、黒い女性……そして青と黄色の奇抜な服を着こんだ牧師。
白い青年は何故俺に謝っていたのだろうか。
それに黒い女性と牧師はなんだ?
何故あの場にいたんだ?
目的は?
俺に何か気が付いてほしかったのか?
だ、だめだ……謎が多すぎる……。
ただご近所さんが挨拶するだけの短い対面時間だったしな。
あれで何かに気が付いてくのは無理がある。
……もし次会う時は、ちゃんと声を聴けるようにしてもらいたいものだ。
次がいつになるかはわからないけどな。
「あ。そうだ……。『無限水操』」
手の平の上に水を出現させる。
すると念じた通りの水が出現してくれた。
夢の中では技能が使えなくて少し不安だったが、こちらでは問題なく使えるようだ。よかった。
ま、深く考えても仕方がない。
悪い奴らではなさそうだったし、今は放置しておいてもいいだろう。
それよりもだ。
今日でガロット王国とは暫くお別れ。
今日はダズラの所に零漸の防具を取りに行ってから前鬼の里に向かう。
久しぶりに帰るな……。
装備も武器も見繕ってもらう予定だし、とても楽しみだ。
「っし。行くか」
俺は荷物を持って部屋を出た。
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