8.28.突然の訪問
勝利に喜ぶ声も次第になくなっていき、全員が戦争の片付けを開始し始めた。
基本的には魔物の死体の片付け。
戦死者の埋葬など。
全員でやればそれもすぐに終わり、その日の晩には宴会が催されることになった。
復興途中ではあったが、食料事情は安定しており、ガロット王国からの支援もあるので鬼やガロット王国からの援軍を含めても十分な宴会を催すことが可能であった。
当然俺たちのところにも酒や食事が運ばれてくるわけだが、俺はどうやら酒に酔えないらしい……。
なんか耐性あるのかなーって思ったけど、これって毒耐性発動してますぅ?
いやこれが原因かどうかは分からないけどね。
兵士や領民たちはもう宴会を楽しみまくっている。
流石に指揮官クラスの兵士は自重しているようではあるが、領民たちは本当に楽しそうにしていた。
誰もが戦闘で疲れているというのに、よくもまぁここまで騒げるものだ。
別腹なのか?
ん、これは使い方が違うか……?
「皆さん、本当にありがとうございました。おかげでバミル領は救われましたわ」
俺たち霊帝のメンバーのいる所に、サテラがやって来た。
同じ場所にガロット王国から来てくれたジルニアとレイトンもいる。
全員が酒を手にしているが、アレナだけは果実の飲み物だ。
あるじゃん味のついてる飲み物……。
酒を飲んでいる者は特にまだ酔ってはいない。
飲み始めたばかりだからだ。
意外とここのお酒は美味しいね。
サテラが頭を下げて礼をいった後、ジルニアが話し出す。
「何を言いますか。ここは我らが領地。守るのは至極当然のこと。それよりも遠くから来てくださった……霊帝、でしたかな? そちらの方々にお礼を言ってください」
「フフ、そうですね。応錬さん、ウチカゲさん、鳳炎さん、アレナ、ありがとう」
「どういたしまして!」
「へへへへ~」
鳳炎とアレナは照れ臭そうにしている。
俺とウチカゲは声は出さないが、持っている杯を軽く掲げておいた。
こうして正面から礼を言われると、案外照れるものだ。
しかし今回の戦いは、領民の参戦が勝敗を分けたと言っても過言ではないだろう。
最後はどうなることかと思ったが、領民が居なければあれを全て落とすのは不可能だったはずだ。
一番頑張ったのは俺たちではない。
領民なのだ。
それに加えて天の声の助言は本当に大きかった。
あれがなければ準備する期間は設けられなかっただろう。
ムカつく奴だが、今回だけは礼を言っておく。
「って鳳炎さん!? 貴方今子供なんですからお酒は……!!」
「あっ!」
「だーいじょーぶー!」
「「じゃないですよ!?」」
バラディムがそう指摘して、実際に彼に酒を注いでしまったジルニアもそれに気が付く。
だが鳳炎はすでに飲んでしまっており、酔ってしまっていた。
時すでに遅し……。
やはり子供の姿ではお酒も飲めないらしい。
肝臓機能や精神年齢も幼くなっているのだな。
今度は気を付けなければ……。
ステーンと転んでしまった鳳炎を、皆は笑いながら起こす。
何でこういう時だけは世話が焼けるのだろうかと呆れるが、実際鳳炎はこっちの方が素らしいしな。
大人鳳炎は無理してキャラ作ってるみたいだし。
その辺は気にしないでおこうか。
すると、遠くの方で領民の話し声が聞こえてきた。
「あの回復魔法陣、誰がやったんだろうな?」
「さぁ……あんなの見たことないぞ」
「ガロット王国の兵士に、そういった技能を持った奴が居たんじゃない?」
「かもなー」
と、広域治癒に関する話をしている彼ら。
どうやら俺が広域治癒を発動させた張本人であるとはバレていないらしい。
あの時は皆満身創痍であり、俺の近くにいた者はほとんどが倒れていた。
無事だった者も手当などで忙しく、俺の叫び声などは聞こえていなかったようだ。
俺がやりました、などと言えるはずもないので黙っていたのだが、まさかバレていないとは思っていなかった。
あれだけ大規模な回復魔法陣は誰も見たことがないだろうし、そもそも領民や兵士たちが知っている広域治癒とはまったくの別物だ。
広域治癒だと気が付いてもいなさそうだった。
「この調子であれば、隠し切れそうですね……」
「だな」
ウチカゲが小声でそう言ってくる。
隠せるのであれば隠しておくとしよう。
バレて追われる羽目になったら嫌だしね。
今そんな暇ないし……。
「で、ウチカゲ。お前はこれからどうするんだ?」
「勿論応錬様の隣にいますよ。前鬼の里はもう復興がほとんど終わっています。俺が居なくても問題はないでしょう」
「そうか。やっぱりお前がいないとなんかしっくりこなかったんだよなー」
「はは、光栄です」
いろいろ助けられていたのは事実だしな。
これでまた一緒に活動ができると思うと、やはり頼りになるものだ。
昔からの付き合いということもあるけどね。
「ちょちょちょちょ!! お待ちください!! ちょっと!」
なんだか門の方で騒いでいる兵士がいる。
皆が宴会をしているというのに混ざってこない真面目な奴なのかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。
なにより、その声の主は領民ではなく、一人の兵士。
だがガロット王国の兵士の防具ではない。
そして彼が追いかけている一匹の魔物の上に乗っている少女が、こちらに勢いよく突っ込んできていた。
「サーテラー!!」
「きゃあ!? メ、メリル!?」
そのままの勢いでサテラに突っ込んでいったのは、サレッタナ王国にいるはずのメリル。
そしてリゼもそこにいた。
流石にこのままではサテラが怪我をしてしまうと思ったバラディムは、手をかざしてメリルとリゼを空中に一度停滞させる。
「『軌道風』」
「わぁ!」
『あららっ!?』
勢いを完全に殺した後、ゆっくりとメリルとリゼを地面に下ろす。
少し呆れながら、バラディムは二人を睨む。
後ろから走ってきたカーターは、息を切らしながら膝に手を置いて息を整えている。
暫くは会話できそうにない程息が乱れているので、そのままにしておくことにした。
突然の訪問者に驚いた俺たちだったが、まずは聞きたいことがあった。
「どうしてここに……」
「サテラ! 大丈夫!? 怪我はない!?」
「うにゅにゅ……らいじょーぶ……手をはなひて……」
「ああっ! ごめんなさい!」
全く話聞かないじゃんこの子……。
ていうか皆ぽかんとしてるぞ。
ちょっと説明してくれないと何とも言えない空気が流れ続けるから、早く説明をして欲しいのだが。
そこで、俺とアレナはリゼをじーっと見る。
なぜ今になってここに来たのかと。
『……ごめんね?』
「「遅い」」
『ごめんなさい……』
こいつの声は聞こえないアレナだったが、リゼが小さく声を出したのに反応して思ったことを口にした。
俺も同意見だ。
とりあえず説明してくれこの状況……。
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