8.29.リゼの協力
俺は突然訪問してきたリゼと、息を整えたカーターに今回の話を聞いてみた。
要約するとこうである。
まずメリルとサテラは知り合いだったらしく、自分と同じくらいの年齢であるサテラが一人で領主をしていることにいたく感心して、友達になったらしい。
どうやらガロット王国に訪問していた時に出会ったらしいな。
そして、二週間ほど前にサテラが納める領地、バミル領が悪魔に襲撃されるという噂がサレッタナ王国にも届いた。
それを聞いたメリルは父親に猛抗議して、父親の持っている兵士を援軍を向かわせてほしいと願い出たが却下。
怒ったメリルはリゼといつものカーターを連れて、また一人で家出してここまで来たのだという。
んー、馬鹿っ。
「馬鹿か!? カーターだったか!? お前メリル殿の護衛だろう!! 戦闘が終わった後から来たからいいものの、そうでなければどうするつもりだったのだ!! お前一人で何かできたのか!? いくらお前の立場が護衛だと言っても、お前のやらなければならなかったことはサレッタナ王国からメリル殿を外に出さないことの筈だろう!!」
「俺だって頑張りましたよ!」
「それが足りんからメリル殿はここまで来てしまったのだろうが!!」
話を聞いていたジルニアが滅茶苦茶に怒っている。
いくら家臣や部下だと言っても、上司が間違ったことをしているのであればそれを指摘してやらなければならないというのは分かる。
ジルニアはカーターが流されてここに来たということを看破しているのだろう。
俺たちはこのカーターやメリルのことについてはよく知らないが、ここまでの道のりは長い。
その間に何度でも帰ることができる方法はいくらでもあったはずだ。
夜に馬車に乗っけて引き返してもいいし、なんなら馬車を壊して先に行けなくさせてもいい。
最後のは少し危ないが、戦闘が始まっているかもしれない所に行かせるよりかマシだろう。
「……待てよ。おいリゼ」
『……』
「おい、貴様こっち向け。お前何した?」
『……』
「お前かぁ……」
移動手段は、馬車だけではなかった……。
そう言えばこいつ、メリルを背中に乗っけてここまで走ってきていたはずだ。
馬車、使ってないのねっていうか、持ってきてないのね。
おっしゃ殴る!!
「何してんだよダボが!」
『いったぁ! だってだって! 皆が頑張ってるのに私だけ何もしないってあれじゃない!』
「メリルを巻き込んでんじゃねぇ!!」
『私はメリルを一番に考えてるの!』
過保護か!!
いやそれよりも悪質だぞ、なんだこいつ!
でもあれか、リゼの背中に乗ってこっちに来たっていうのであれば、流石にカーターも追いかけるだけで精一杯だろうな……。
サレッタナ王国から遠く離れてしまった手前、戻るに戻れなくなったのだろう。
であればと、できるだけ時間をかけてここに来ることにより戦闘後に到着するように調整したようだ。
カーター確かに頑張ってる。
メリルとリゼはここに来ることを目的としているだろうから、知っているガロット王国に一度入るなんてこともしそうにないしな。
メリルは父親が援軍を出さなかったことへの怒りと、純粋な心配で何も考えず飛び出したらしい。
よくもまぁこんな活発な女の子が貴族の中にいたものだ……。
発案者はメリルで首謀者はリゼ。
巻き込まれたカーターが一番災難ですねぇー……。
「とんでもないおてんば娘だ」
「確かに……」
しっかし終わってから来るんだもんなぁ。
まぁその方がよかったんだけどね。
メリルのことはサテラに任せておくか。
なんか楽しそうに話しているし、放っておいても問題はないだろう。
バラディムもいることだしな。
ということで俺はリゼの首根っこを掴んで、皆とは少し離れた場所に行きます。
鳳炎は潰れてるから放置だ。
俺の行動に気が付いたアレナとウチカゲは、とりあえずこっちについてきてくれた。
他の人はカーターへの説教で忙しいようだ。
さて、ここであればこちらの話は聞かれないだろう。
「ああ、ウチカゲにまずは紹介しておくぞ。こいつはリゼ。俺や鳳炎、零漸と同じく俺の同郷の者だ」
「では人の姿にも?」
「なれるが、こっちの方がいいらしい。通訳は俺がする」
軽く説明をしておいた後で、俺はリゼに顔を向ける。
とりあえずメリルを引っ張って来たことは置いておく。
メリルの我儘から始まったものだし、これ以上説教をしても意味はなさそうだしな。
俺が聞きたいのはこれからこいつがどうするかだ。
協力しないのであれば、さっさとお帰り頂きたい。
ぶっちゃけ邪魔である。
「お前はこれからどうするんだ? 俺たちは氷照山脈に行くつもりだが」
『氷照山脈? 何のために?』
「悪魔の情報を集めるために、だ。で、お前は? このままメリルの側にいるってんだったら、さっさと帰れ」
『ちょっと、そんな言い方……』
「……」
俺は真剣に言っている。
リゼは恩人であるメリルの側から離れるつもりはないことも重々承知しているつもりだ。
だから帰って欲しい。
俺たちに協力したから、恩人を守れなかったなんてことがあったら洒落にならん。
俺や鳳炎はこれまで一人で活動することが多かった。
そして大切な仲間も近くにいるし、そう簡単には倒れることがない程の力を持っている。
だがメリルは違う。
守ってもらう人が居なければ、簡単に命を奪われてしまう。
襲われたらの話ではあるが。
リゼにとって、メリルはリゼの大きな弱点なのだ。
もしリゼが俺たちの調査に全面的に協力するということであれば、そちらの方も考えておかなければならない。
「応錬様の言う通りです。貴方のことはよく知らないが、応錬様は貴方を心配してこう言ってくださってる。このように言ってくれるお方を大切にすることですよ」
「おい……俺はそんなんじゃないぞ……」
盛らないで? お願い。
でもまぁ心配しているというのは事実だ。
仲間と一緒に戦った経験がないということは、あの洞窟での行動でよく知っているし、長く一緒にいすぎたメリルと離れるのが難しいということも分かっている。
恩人を捨ててまで協力しろとは、俺たちは口が裂けても言えない。
リゼが天の声と出会ったあの空間で悪魔のことは知っているとしても、協力を強要することはできないのだ。
『でも、貴方たちが頑張っているのに、無視しておけないわ』
「そうは言うが……」
『それに、氷照山脈に向かうんでしょう? あそこ村どころか掘っ立て小屋もないんだから、この時期に寝泊まりなんて考えない方がいいわよ』
「分かってはいる。だが行かなければならないんだよ」
『だったら役に立てるわ。貴方たちが探している人を探せるわよ』
やけに自信に満ち溢れた発言だ。
しかし、それは俺たちに協力するということになる。
「メリルはどうするつもりだ?」
『ここにいる限り安全でしょう。サテラの護衛もいるし、問題ないわ』
「……お前は義理堅いのか薄情なのかどっちなんだ……」
『失礼ね!? 私だって心苦しいんだから! ちょっとでも貴方たちの役に立たせてよ』
俺はウチカゲの方を見る。
先ほどと表情は変わらないが、彼は小さく頷いた。
「彼女がそういうのであれば、良いのではありませんか?」
「はぁ、それもそうか。こいつの判断だ」
『それに私、そこに住んでる悪魔にあったことあるし』
「……はっ?」
『役に立つって言ったでしょ?』
リゼの自信に満ち溢れて発言には、そういう意味があったのかということが分かった瞬間であった。
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