8.30.麓


 翌日、早速リゼに道案内をしてもらう流れとなり、俺たちは飛竜のラックに乗って氷照山脈へと向かっていた。

 ラックの背中には俺とウチカゲ、更にリゼが乗り、鳳炎は前をアレナと一緒に飛んでいる。

 抱きかかえている状況ではあるが、今の鳳炎は中学生くらいの大きさまで戻っているのでそれくらいのことは簡単にこなせる。


 鳳炎が前を飛んでいるのであまり寒くない。

 あいつの炎翼には助けられる……。


 しかしリゼが悪魔とあったことがあるとは知らなかった。

 場所もしっかりと覚えているため、今日一日で到着する予定である。


 どうやらリゼは産まれてから家出をし、旅をしている時に偶然悪魔を見つけたのだそうだ。

 季節的にはまだ暖かい時期だったので雪もそんなの積もっておらず、寒くもなかったのだとか。

 そこで見つけた悪魔は小さな家で暮らしているらしい。


「ま、見ただけで話したことはないんだけどね」

「よく覚えてたなお前……」

「悪魔とかインパクト強すぎるからね。忘れる方が難しいわ」


 そんなものなのだろうか……。

 まぁ俺も蛇の時に悪魔見たらいやでも覚えていそうだしな。

 俺が見たのは鬼だったけど。


 ちなみに、リゼは今人間の姿になってもらっている。

 流石に動物の姿だとラックにも乗れないし、掴むこともできないので危ないからだ。

 それに全員と意思疎通ができる。

 メリルが居ないのであれば、こっちの姿になってもらっておく方がいいだろう。


「あ、見えてきたわよ!」


 遠くを見てみると、確かに大きな山脈が見えていた。

 真っ白で雪が積もっていると理解できるのだが、そこには天に向かって登っている氷柱が数多く存在している。

 普通氷柱は屋根の下や木々の下にできる物だ。

 想像とはまったく違ったその光景に、思わず魅入ってしまう。


 柱と呼んでもおかしくない程に大きいものから、人と同じくらいのものなど様々な大きさがある。

 どうしてこのような物ができるのは不思議だったが、そこで強い風が山脈を通り過ぎた。


 すると積もっていた雪が舞い上がる。

 それは一瞬で凍り付き、新たな登り氷柱へと姿を変えた。

 そんなことがあるのかと驚きを隠せなかったが、実際に見てしまったのだ。


 加えて、ここが非常に危険な場所であるということも理解した。

 あれに巻き込まれると普通に死ぬ。

 誰の目から見てもそれは明らかだった。


「そりゃこんな所に住む人はいないわな……」

「麓は安全よ。少し休みましょう」

「だな。ラック、一度降りてくれ」

ガルッ了解ガルァア降りるよー!」


 ラックが前方にいる鳳炎に咆哮で声をかける。

 気が付いた鳳炎は一度止まり、ラックが地面へと降下しているところを見て同じように降りて来てくれた。


 飛んでいる時は俺たちの声では鳳炎に声が届かない。

 ラックが声を出してくれなければ鳳炎は気付かずに飛んでいってしまっていただろうな。

 ナイスだラック。


 そのまま降下したが、やはり雪は多く積もっている。

 キョロキョロと周囲を見渡したラックは何かを発見したらしく、そちらの方へと飛んでいってくれた。

 そこは氷照山脈の麓の崖。

 近づいてみると、ここは風が通らないということが分かった。


 積もっている雪を風圧で軽く吹き飛ばしてから、そこに足を降ろす。

 羽を広げて俺たちがおりやすい様にしてくれた後、一度鳴いて降りてと指示をしてくれた。


「ありがとうラック。お前すげえな」

ガルガル普通だよ


 これを普通だって言えるのはもっとすごいぞ。

 めっちゃ気を使ってくれているもんな。

 あーこの子このまま仲間にしたい……ローズのだけど……。


 その後、鳳炎も降りてきて周囲の雪を完全に溶かしてくれた。

 こいつがいるお陰で火を焚く必要がない。

 とても便利である。


「で、どっちなんだ?」

「まずは休憩よ。アレナちゃん、飲み物準備しましょうか」

「うん!」


 まぁ急いだところで状況が変わるわけでもないか……。

 ラックも長距離飛んで疲れただろうし、俺たちよりこいつらを休めさせる方が大切だな。


 だがラックはばっさばっさと翼を動かしている。

 疲れている様子は全く見えないのだが、これは俺の気のせいなのだろうか。


「あ、そうだ。ウチカゲ、この辺に魔物とかいるか?」

「環境が環境ですのでほとんどいませんね。ツァーローという精霊のような魔物がいる程度です」

「なんだそれ」

「氷の魔法を使う魔物ですね。物理攻撃が効かないのでちょっと厄介です」

「幽霊かな……?」

「精霊です」


 いやお前さっき思いっきり魔物って言ったじゃん……。

 どっちなのよ……。


「ですが大丈夫です。滅多に姿を現しませんから」

「へー……」


 ウチカゲの後ろをちょろちょろしている小さな青白い魂みたいな奴は違うと信じておこう。

 あ、消えた。


 そこでアレナとリゼが魔道具を使って沸かした紅茶をふるまってくれた。

 寒い場所で温かい飲み物は身に染みる。

 でも俺、紅茶苦手なんだよな……。


「飲んだら行くわよー」

「そういえばリゼ。そいつどんな奴だったんだ?」

「ん? んー……そうねぇ。若いお姉さんって感じの人だったけど、凄くゴージャスって感じの翼と角をしていたわ」

「何色?」

「金」


 いやそれはゴージャスというより派手。

 そりゃ忘れるわけないわ……。


 だがそれなら一発で分かりそうだな。

 そいつが魔神ルリムコオスかどうかは分からないが……。

 まぁそれは会ってみれば分かることだ。


 容姿も分かったことだし、後は温厚な奴であると願うほかない。

 最悪戦うことを想定しておこう。


「っしゃ行くか」

「もーちょっと待ってー」

「私ももう少し待って」

「……アレナはともかく……リゼ、お前猫舌だったんだな……」

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