9.14.Side-零漸-役立たず


 何処か分からない一室で、四人の人物が待機していた。

 全員がローブを身に着けており、顔は見せようとしない。

 だが教会の人間らしき姿をした人物が部屋に入ってくると同時に、三人はローブのフードを取り払った。


 その内の一人は女で、他は男だ。

 女性は優しく可愛らしい素顔をしているが表情というものがあまりない。

 ローブの下は軽装備を付けている。

 二振りの剣はローブで隠しているのは傍から見ている限りは目視することはできない。

 常に無表情で、何をするにしても淡々とこなす印象しか持てなかった。


 一人の男は小柄でひ弱そうだ。

 顔もこけていて不健康そうにしか見えない。

 魔法使いらしく、小さな杖を二本ほど所持していた。

 小柄なので重い武具は身に着けられないようで、最低限のレザーアーマーをローブの下に着こんでいるようだ。

 様々なマジックアイテムを持っているようだが、見ただけではどのような物か分からない。


 もう一人の男はツンツンとした硬そうな髪型が特徴的だ。

 ワックスがない世界でどうやったらこんな髪型にできるのだろうか。

 暗殺者らしい暗めの服、更にかっこいい服を着ているが防具は付けていないらしい。

 武器らしきものも見当たらないが、彼も魔法で戦うのだろうか。

 だが彼の目は鋭く、若いのにも拘らず暗殺者の独特すぎる雰囲気を醸し出している。


 暗殺者がそんなんでどうするっすか……。

 もう少し雰囲気を隠す特訓した方がいいっすよ。

 かくいう自分はそもそも暗殺者じゃないんすけどね。


 そう心の中で呟いていると、ツンツン頭が話しかけてくる。


「……おい、お前。何故フードを取らない」

「え? 必要っすか?」

「司祭の前だぞ」

「司祭? どれがっすか?」

「とぼけるのはその辺にしておけ。人質が痛い目を見るぞ」

「……」


 ムッとしながら、フードを取る。

 この部屋は寒い。

 もう少し温かくしてくれないとまた眠ってしまいそうなんすけど。


 その時、頭に何かがぶつかった。

 なんだと思って見てみれば、司祭と呼ばれている奴が持っていた十字架だ。

 司祭がそんなん投げていいんすか。


「この……役立たずが」

「……」

「おい、何故ゴレッドを助けなかった」

「誰っすかゴレッドって。入ったばかりで名前とか知らねぇっす」

「霊帝と雷弓を襲った時に一緒にいた男だ!! あいつの魔法は特殊で素晴らしい駒だったのに!! だというのに貴様は使い捨ての女の方を持って帰ってきた!!」


 使い捨てという言葉に再びムッとするが、今はそれを抑えてあの時の様子をしっかりと説明する。


「んなこと言われたって仕方ないじゃないっすか。俺の身代わりっていう技能は一人しか守れないっす。それに一回は守ったっすよ。でもタイミングが悪かったんっすから。もし俺がいなかったら二人とも生きちゃいないっすよ?」

「そんなことを聞いているんじゃない……価値がない方をなぜ守ったと聞いている」

「いや、俺からしたら男の方にこそ価値はないっす。ウチカゲと互角に渡り合える人間なんていると思わなかったっすからね」

「……貴様……まだ言うか……!」


 そもそも俺は不本意でここに居るんだっつーの!!

 だったら内部崩壊をさせるに限るっす。

 そう簡単に俺に首輪を付けられると思ったら大間違いっすよ。


 防御系に特化したのは俺しかいないっぽいっすし、生かすも殺すも俺の自由っす。

 でも俺からは動けない……。

 だから戦いの中で上手い具合にやっていかないといけないっすね。

 頭使うのは苦手なんすけど、ここは頑張るしかないっす。


「ていうかあの男がそんなに大切なら最初に言っておくっすよ。何も聞いていない新人に対して霊帝と雷弓を始末しろってだけ言われて、あんたが理想としている形で帰ってくるわけないじゃないっすか」

「ぷははははは!! ああ、新人!! まったくその通りだぜ!! いや僕もさぁ~入ったばかりの頃同じような経験して滅茶苦茶怒られたんだよなぁ!! 理不尽ったらありゃしねぇよなぁ!! なぁ!?」

「っすよねー!!」


 え、なにこのチビ。

 めっちゃ話してて楽しそうなんすけど。


 俺たちがそんな愚痴を思いっきりこぼしていると、司祭はバンッと机を叩いた。


「ええい、もういい!! 次何かやらかしたら殺すからな!! 覚悟しておけ!!」

「いや、だから……」

「黙れ!!」


 今度は机を蹴ってこの部屋を後にした。

 情緒が激しすぎるおっさんは早死にするっすよ。

 そもそも暗殺者集団なんて癖の強すぎる人間の集まりなんすから、そう簡単にまとめられるわけないっす。

 あんな権力だけで成り上がったよな奴は尚更っすよ。


 名前も知らない司祭が出て行ったあと、その場は約一名の笑い声に包まれた。


「あはははははは! あっはっはっはっはっは! いやいい気味だぜぇ!!」

「なんすか先輩。あの司祭嫌いだったんすか?」

「そりゃそうだぜ! 力のねぇ奴が僕に指図するなんて気に食わないに決まってる!」

「じゃあ何で従ってるんすか?」

「そりゃお前と同じだよ。ほら」


 そう言って、彼は手袋を取った。

 その手の甲には俺と同じ奴隷紋が刻み込まれていた。


 ここに居るのは同じような境遇の人間ばかりなのだろうか。

 そんな疑問が過ったが、ツンツン頭だけは違うらしい。


「こいつは本当にあの司祭の子分。僕とお前と、彼女は仲間。だから僕は、デルドも嫌い」

「フンッ。言ってろ」

「ああ、僕はティック! よろしくね新人!」

「零漸っす。この暗殺者集団は人質を取るか奴隷紋を刻まなければ成り立たない程に貧弱なんすか?」

「そうなんじゃない? でもまぁ、どうだったとしても僕らは従うしかないのさ」

「……その様っすね」


 ティックは奴隷紋を忌々しそうに見つめる。

 軽く手を振ってから手袋を付け直した。

 新しい手袋を、俺にも放り投げる。


「隠しておきな。戦闘奴隷は恐れられるから」

「分かったっす」


 貰った手袋をつけてみる。

 少し小さいが、握ると力が入りやすいような気がした。

 これも魔道具の一種なのだろうか?

 とりあえずありがたくもらっておくことにしよう。


 その後俺は、一緒に戦ったが名前も聞いていない女の方を見る。

 それに気付いたのか、ティックが教えてくれた。 


「ん? カルナかい?」

「無口なんすか?」

「んー……そういうわけじゃねぇんだけどな……。まぁあの司祭があんな感じなんだ。僕ら以外の仲間からの扱いもあんな感じだよ」

「……」


 一瞬だけ目が合った。

 だがすぐに興味がなさそうにそっぽを向かれてしまう。

 相変わらず冷たい表情をしたままだったが、俺とティックを見てほんのちょっとだけ、羨ましそうにしているように見えたのだった。

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