9.13.合流
急にウチカゲが立ち、俺が後方を警戒しているのを見て皆も同じように警戒していた。
だが俺はこちらに来ている何かがリゼであることに気付いて脱力する。
驚きよりも呆れが勝ったのだ。
相変わらずゆったりとした白い服を着て現れた彼女は、息がめちゃくちゃ切れていた。
「ぜぇ……ぜぇ……あんたたち……速いのよ!!」
「怒るなよ……」
リゼの登場にはその場にいた誰もが驚いた。
彼女のことを知らない者も、同様に。
恐らく同じ疑問が頭の中を駆け巡っているだろうが、そこでユリーが口を開く。
「ちょちょ、ちょっと待って。貴方どうやってここまで来たの!?」
「はぁ……え? ……走って……だけど?」
「騎竜とバトルホースの速度について来たって言うの!?」
「え、何それ魔物?」
ああー、こいつらが驚いている理由はそれか。
まぁそうだよな。
後ろから来る奴なんていないだろうって思ってただろうし。
そういえばリゼはめちゃくちゃ俊敏が高かったな。
こいつが疲れるってどれくらい飛ばしてきたんだ?
そこでマリアとローズが武器を構える。
シャドーアイの三人も同様だ。
おっけい、ちょっと待ってくれ。
「待て待て! 味方だから武器を納めてくれ!」
「え? そうなの?」
「本当である。冒険者ではないのだがな」
とりあえず信じてくれたらしい。
五人は武器を納めてくれた。
急に現れるからこういうことになるんだよ……。
ていうか何でこいつここまで来たんだ。
それにどうやって俺たちがバルパン王国に向かっているって知ったんだよ。
上層部以外この事は知らないってマリアが言ってたんだけどな。
「で……どうした」
「反応うっす……。まぁいいわ! あのね! あそこまで話聞いちゃったらもう部外者でい続けるわけにはいかないの! 分かるかしら!?」
「いやだがお前にはメリルが……」
「全部ジグル君にぶん投げて来たわ!」
「それでいいのか!?」
「いいのよ! もう私の目的は達成されたようなもんだし、今は貴方たちと一緒に事件を解決する方が得策でしょう!? 鳳炎も記憶戻ってないみたいだし!!」
「「「記憶喪失なんですか鳳炎さん!?」」」
「余計なことを言って混乱させるんじゃねぇ!!」
シャドーアイの三人が声を合わせて驚いてしまった。
マリアも鳳炎を見て驚いている。
そう言えばこいつらとマリアには説明していなかったな……。
こいつここに居る全員が全部知っていると勘違いしてるなこれ。
あとでしっかり言っておいた方がよさそうだ。
……でもあれだな。
ルリムコオスのところで話を聞いて、もう他人事ではなくなったって感じで来てくれたのか。
仲間が増えるのは俺たちにとって嬉しい話ではある。
余計なことを言ってくれなければではあるが。
とりあえずこのままだと他にも余計なことを口にしそうなので、俺はリゼを引っ張って少し離れたところで話をすることにした。
この辺であれば声は聞こえないだろう。
「はぁー……。いいか、リゼ。今さっきの反応を見てもらって分かると思うが、悪魔についてのことはあいつらには話していない。今回はクライス王子と零漸を何とかするために編成されたパーティーなんだ。余計なことは言わないでくれ。混乱させるから」
「あ、そうだったのね……。ごめんなさい。てっきり悪魔がバルパン王国にいるからそれを追っているものだと思っていたわ」
「……は?」
「……え?」
え、ちょっと待って今なんて言った?
「悪い、もう一回言ってくれるか?」
「いやだから、バルパン王国に悪魔がいるって聞いたから……それを追っているって思って追いかけて来たんだけど」
待て待て待て待て!
お前何処でそんな情報手に入れたんだ!?
俺がガッとリゼの方を掴む。
「どこでそれを知った!?」
「ど、どこ、どこも何も、声に会ったのよ……。あの空間で……」
「俺は知らないぞ!?」
「なんか干渉できない……とかなんとか言ってたけど……。とりあえず悪魔についての話が上がったから……」
リゼを離して考えこむ。
鳳炎の記憶が消されている今、あいつにこの事を話したとしても意味がないだろう。
俺が整理するしかない。
今、俺たちの中で悪魔は敵ではないという認識に落ち着きつつある。
記憶を消される前の鳳炎が何とか振り絞って導き出した答え。
これだけは信用できる。
だから悪魔とは違う敵が、何かしら存在しているのだ。
しかしそれはまったく分からない。
悪魔もそれを口にできないという呪いを背負っている。
情報源は……今のところはない。
で?
声が……悪魔がバルパン王国にいることを伝えた?
まぁあいつらなら知っていてもおかしくはない。
実際バミル領での予言は当たっていたしな。
声たちは悪魔の活動を阻止しようとしているというのは分かる。
神的立ち位置に居るのであれば、そういう考えに至るのは至極当然のことだろう。
自分たちの作った世界を簡単に壊させてなるものか。
そう考えるはずだ。
「…………」
「……わ、私なにかマズいことしたかしら……」
「ん、いや。大丈夫だ。よく知らせてくれた」
不安を煽ってしまったか。
それは申し訳なかったな……。
だが俺も、分からないことだらけで理解できることが少ない。
リゼが持ってきてくれたこの情報はとても重要な物だ。
当時の様子をもう少し詳しく聞きたい。
「リゼ、声との話を教えてくれ」
「え、ええ。私は陸の声と会ったわ。牧師っぽい服着たおっさんだったけど」
「それで?」
「悪魔がサレッタナ王国とバルパン王国に戦争を引き起こさせようとしているって話を聞いたの。零漸も利用されてるって聞いて……すっ飛んできたんだけど……」
「零漸も?」
「そうよ。奴隷紋で強制的に従わせられているらしいわ。それも悪魔のせいだって言ってたけど」
そうか……零漸は奴隷紋で……。
じゃああの時あいつが本気で俺たちを攻撃してきたのにも納得はいくな。
それを何とかしてやらないといけないって訳か。
呪いじゃないから浄化は効かないだろうな。
解除の方法を確認しなければ。
「……今回の悪魔の目的は、戦争を引き起こさせることか」
「みたいね。止めるの?」
「……ルリムコオスのこともあるが……まずは置いておく。目下の目的は王子と零漸を助け出すことだ。悪魔のことについては……後で考える」
「そう」
ぶっちゃけ、この戦争は既に止められるかどうか分からない。
零漸とクライス王子を使ったことには怒りを覚えるが……今だけは矛を収めておこう。
「分かった……とりあえずついて来い。お前のことを皆に説明する」
「大丈夫、役には立つわ!」
「……」
戦闘経験あんまりない奴にそう言われてもなぁ……。
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