11.18.眠り


「……で、どんな感じで封印されるわけ?」

「白い結界がお前を包む。そして数秒すれば封印完了だ」

「ほーん……マジで速いのね」


 ドロッグ山脈……。

 なんですかこの禍々しい土地は……。

 こりゃ封印場所にうってつけって感じですねぇ。


 ま、さっさとしてもらいましょう。

 俺もやること残ってるしね。


 振り返ると、魔術師と騎士が武器を手にしてそれをこちらに向けていた。


「魔物の姿になってくれ」

「まじか」


 ああー、これはもし俺の姿を見ても封印を解かせないためのあれか。

 ていうことは皆魔物の姿で封印されているのね。

 うわ、見てみたかったなぁ……。

 ま、さっさとやりますか。


 俺が念じると、すぐに魔物の姿へと変身した。

 巨大な白龍だ。

 縁起物ですよ称えよってね!


 そこで二人が同時に技能を口にする。


「「『封』」」


 すると、地面から白い結界が出現する。

 発動速度、展開速度はそこまで速くないようだ。

 一時的に敵の動きを封じなければ、この技能はあまり使えないだろう。


 この結界が完全に俺を包む前に、応龍の決定を発動させた方がいいかもな。

 んじゃ、やりますかね。


 二人に聞こえないように技能の名前を呟いた。


「『応龍の決定』」


 体の中の魔力がごっそり持っていかれる感覚が襲ってきた。

 どうやら無事に技能自体は発動したらしい。


 あー、でもちゃんと二人が未来に飛んでくれたかどうかは分からないな……。

 白蛇の祠にも泥人を置いておくべきだったか。

 今更戻る訳にもいかない……っていうか無理だ。

 無事に二人が未来へと飛んでいることを願っておこう。


 ていうか……俺龍になったのに報われねぇなぁ!?

 持ってる技能が強すぎるんじゃあ……。

 代償が痛すぎる。


 小魚から頑張って龍になったんだけどなぁ。

 なんだかんだ俺は自由になれなかった気がする。

 まぁ楽しんだんだけどね!


 キツイことも多かったけど、楽しいことがあったのも事実だ。

 いやでも……ほとんどしんどかった記憶しかないな……。


 結界が完全に俺を包み込んだ。

 その瞬間、とんでもない睡魔が襲ってきた。

 やはり封印されると、眠ってしまうらしい。


 いや、これは俺が今使った応龍の決定の代償かもしれないな。

 ああ~無理無理寝る。

 おやすみ。


 パンッ。

 ……姫様に渡していた水が破裂したか。


 維持できなくなったということは、俺の力はもう届かないかもな。

 となると結界が完全に閉じる前に応龍の決定を使っておいてよかった。

 展開速度が遅くて助かったぜ。


 そういえば……この封印技能だけどどれくらい頑丈なんだろう?

 中で暴れたらすぐに壊せそうな感じもするけど……。

 いやしないけどね?

 あ、もうマジで意識が……。


 瞼が落ちる。

 その瞬間、意識を刈り取られるようにして眠ってしまった。

 目が覚めたらいつなのか、それは分からない。

 起きることもないかも……しれないが。



 ◆



 ◆



 ◆



 ◆



 ◆



 ◆



 ◆



 洞窟。

 そこに広がる湖に光る苔が生えているようで、それが洞窟全体を照らしていた。

 半身が水の中に沈んでおり、頭は自分の体の上に乗っかている。


 目が覚めた。

 なんだここは。

 目だけを動かして周囲を確認する。

 本当にただの洞窟のようだ。

 しかし、記憶と違う箇所が何点かあるように思える。


 俺が封印されていた場所は……外だった。

 なぜ洞窟の中で目が覚めたのだろうか。

 というより、あれから何年が経ったのだろうか?

 この場所だけでは把握することはできそうにない。


「わぁ、本当に動いた……」

『……んん?』


 声がした。

 明らかに人の声だ。

 そちらの方に目をやると、数人の人物がこちらを見ている。


 一人は随分と老齢な鬼であり、角の色は白くなっていた。

 風格溢れるその姿は隙を一切見せない程の凄味がある。

 その隣には俺を感心するような目で見ている……白さの目立つ服装と髪をしている青年がいた。

 髪の色は灰色だが、目が何だか白っぽくて不気味だ。

 というか視力はあるのだろうか。


 少し離れた場所にはもう一人の女性がいる。

 腰には二振りの剣を携えているようだ。

 その顔には……どこか見覚えがあったが、思い出せない。


 そして俺の前にいる少年。

 物怖じせずに俺の目をじっと見ている。

 ずいぶんと肝が据わっているらしい。


 しかし誰かに顔が似ている気がする。

 少し考えてはいたが何故だかピンとこなかった。

 俺はすぐに、少年へと問いかける。


『……誰だ』

「……宥漸です」

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