11.17.封印
日が経つのは早いものだ。
朝早くに起き、皆と会って封印のことを伝え、一日中皆と話し合った。
どれもが思い出話や自らの事など、とにかく覚えておいてもらいたいといった風に、名残惜しそうに、そして楽しそうに語ってくれた。
この三日間はそれしかしていない。
結局会えずじまいの人物も数名いたことが心残りになりそうだ。
とはいえ、もう時間はない。
俺たちは少ない人数で鬱蒼と茂る森の中に呼び出されていた。
相手側が色々規制したせいで、見送ることもできなくなってしまったのだ。
そこまで警戒しなくても眠るっていうのに。
今この場にいるのは、俺と鳳炎、零漸、リゼ、ウチカゲ、ダチア。
そして……知らない人間が二人。
一人は魔術師のようで、大きめのローブに大量の鈴をつけている。
動くたびに煩そうだと思ったのだが、音は一切鳴っていないようだ。
どうやら女のようで、髪が非常に長い。
もう一人は騎士だ。
屈強、という程体つきは良くないが俺でも彼が強い人物だということが分かった。
ウチカゲですら警戒をしている。
だけど……いやぁ、まじか。
こいつら二人で来てる風に見せてるけど実際は数百人森の中に隠れてるじゃん。
どんだけ怖いのよ。
ていうか見送りがいないとか悲しすぎるんですけど……。
すると、騎士が口を開いた。
「どいつからだ?」
「零漸、お前からだ」
「了解っす」
これは始めから決めていた事である。
向こうからしたら俺から封印したいだろうけど、ここまで規制されまくってるんだ。
本当に安全に、無事に封印をするかどうかは俺が見届ける。
アスレとバルトがこれだけは要求したようで、向こうは渋々といった様子で折れてくれたらしい。
これは感謝しておかなければな。
で、俺たちの封印をする手順はこうだ。
ダチアが封印場所までゲートを開き、向かってもらう。
この二人が封印をするらしいので、計三人でゲートの中に入ってもらう予定だ。
順番は零漸、リゼ、鳳炎、俺。
もしなんかしやがったら意地でも止めてやるからな……。
んでもって新しい人材を寄越してもらう。
まぁ、向こうも余計なことはしないだろうけどな。
「では、お前から」
「ダチア、頼むっす」
「ああ……。『ゲート』」
ダチアがゲートを開いた。
まずは零漸が入るのだが、一歩手前で立ち止まる。
「……おやすみっす!」
「最後の言葉がそれでいいのか零漸……」
「いやぁ……何いればいいか分からないっすからね。ぶっちゃけあんまり実感もないっす」
「はよ行け後がつっかえる」
「鳳炎のそういうところは嫌いっす……。んじゃ!」
「ぬ!? おい待て零漸今なんて……ああ、行ってしまった……ったく」
零漸は鳳炎の言葉を聞く前にゲートの中へと入ってしまった。
それに続いて魔術師と騎士もゲートに入る。
その後ろをダチアが追った。
ゲートが一度閉じる。
封印が終わった後ダチアがもう一度技能を使ってこちらに戻ってくることになっているはずだ。
何事もなく終わればいいのだけど……。
「……なーんか、あっさりしてたわねぇ」
「前々から決めていたことである。あいつも男だし、覚悟は決めていたのだろう」
「そうねー。はぁ、次は私かぁ……。いやだなぁ毒ダンジョン……。せめてもう少し華やかな場所にしなさいよ! まったく!」
「お前は危険な存在をそんな可愛らしい場所に封印したいか?」
「絶対に嫌。華やかな場所が可哀想」
「そういうことである」
その例えはどうなんだリゼ……。
俺にその感覚は分からないぞ。
なんか納得しているみたいだからいいのかもしれないけどさ。
ちなみに、封印はそんなに時間がかからないらしい。
あと少ししたら戻ってくるのだとか。
だが鳳炎の封印場所は水の中なので、それに少し時間を要する様だ。
応龍の決定を発動させるタイミングは……まぁ、俺が封印される直前だな。
これは大丈夫。
もう何回もシュミレーションしてるからな。
失敗はしない。
許されもしないんだけどね。
そこで、ゲートが開いた。
ダチアが出てきた後、他二人も出てくる。
「早いな」
「……時間をかける封印技能など使えないからな」
「ああ、そう……」
感じ悪ー!
ほんっとうにこいつら俺たちのこと敵としか見ていないんだな。
まぁそれが応龍の決定の代償なんだけどさ。
さて、次はリゼの番だ。
憂鬱そうに前に出て、ダチアが作ったゲートの中へと入っていく。
「じゃあね、おやすみ」
「おやすみ」
「寝相が悪くて上の階層に行かないようにしろよ」
「失礼しちゃうわまったく」
軽く手を振ってから、ゲートの中へと足を踏み入れる。
それに続いて、三人も入っていった。
ゲートが閉じる。
様子を見ることができないのがちょっと残念だ。
応龍の決定を発動させるタイミングを見極められたのに……。
こうなったら俺が封印される前に聞いてみるとしますかね。
「あいつがいないと静かであるな」
「そうかー? 別に変らないけど……。なぁ、ウチカゲ」
「あの人結構うるさいですよ?」
そうなのか……。
まぁ恋路については四六時中話しそうな奴ではあったもんなぁ。
あんまり一緒にいなかったからその辺も中途半端な認識でしかないけど。
それからしばらくの沈黙が流れた。
実際に封印されるというのはどんな感じなのだろうか。
今になって不安が押し寄せてくる。
ウチカゲは何も問題はないと言っていたが、それでもやはり怖い。
今更やめるなんて言えないんだけどね。
はぁー……落ち着かないなぁ。
そわそわしていることに鳳炎が気付いたらしい。
肩をポンと叩いてくれた。
「力を抜くのだ。お前は堂々としていなければならない」
「なんでさ」
「今は、お前が一番強い。それに、私たちの代表だ。リーダーだ。お前はやるべきことだけをしっかりと考えておけ」
「……そうだな。そうするよ」
こんな調子だとタイミングをミスりそうだしな。
鳳炎の言う通り、ここは堂々とずっしり構えることにしよう。
俺こういうの苦手なんだけど……って今更か。
ゲートが開き、ダチアが帰ってきた。
先ほどと同じように後ろから二人が出てくる。
「よし、では行ってくる」
「おう、気をつけてな」
「気をつけるも何もないのだがな……。まぁ、いいか。じゃあな応錬。マナポーションを無理やり飲まされたことは今でも根に持っているから覚えておけ」
「うっそだろお前」
置き土産の様に言葉を残したあと、ダチアが作ったゲートの中へと入っていった。
残ったのは、俺とウチカゲだけとなった。
既に二人が封印され、三人目が封印されようとしている。
見ていないからか、実感が湧かない。
今すぐにでも帰って来て声をかけてくれそうな気さえする。
だが……もう声は届かないだろう。
「ウチカゲ、しばらくここを任せる。向こうに集中するわ」
「はっ」
そう言って俺は目を閉じた。
目を開けると、そこには多くの鬼たちや、今回の戦争で戦ってくれた兵士たち、悪魔たちがいる。
こんなに大勢で来なくてもいいのだがなぁ。
「いい加減離れなさいって……。この状態は土だから、解除されたらどろんこになるぞ?」
「……いい」
「あとで怒るなよ~?」
アレナが俺にぴったりとくっついて座っている。
ほんとに汚くなっても知らないからな?
俺は今、泥人を使って分身を作り出していた。
それを前鬼の里に置いて来たのだ。
俺が封印されればこの効果は切れてしまうだろうから、いても問題はないだろう。
やっぱりさ……見送りがないっていうのは寂しいから俺が残ったんだよね。
最後の最後まで、話はしておきたいしな。
「で……お前らなんで生きてんの」
「なげなぁ会う奴全部おんなじこと聞くなぁ~? おみゃんの最後さちとばかりみょーっちゅうだけだけぇ」
「ていうか初めましてなのか。アトラックだっけ?」
「おうよぉ。まぁ、おいらんことはどげでもええけぇ、ほかん行きなはれ」
「マジで何言ってるか分からねぇな……」
空を飛んでいるアトラックは面白そうに話していた。
隣にいるルリムコオスは少し呆れているようだ。
他にも家屋の屋根の上に見たことのある悪魔が座っている。
バミル領で戦った奴らだな。
名前は知らないけど。
「応錬様」
「シムか。どうした?」
「今までありがとうございました。鬼を代表して、お礼を申し上げます」
「おお、おお! やめろやめろ! 世話になったのは俺の方だ! お前たちがいなかったらここまで快適に暮らせなかったよ!」
「そうは言いますが……」
「はいはいこの話はお終い! 俺が礼を言いたかったのに……先に言うなよー……」
これだけ注目されることなど、今後一切ないだろう。
だからここで、今までのお礼を言いたかったのだ。
鬼たちに、悪魔たちに、人間たちに。
出鼻をくじかれてしまったが、もうそろそろ鳳炎の封印が終わりそうな気がするので、言える時に言っておこう!
「皆ー! 聞いてくれ!」
俺がそう言うと、手前にいた鬼たちが一斉に片膝をついた。
それに続いて、遠くに居た人間も片膝をつく。
悪魔たちは屋根の上で見ているようだ。
急にこんなことされるとびっくりするんだけど……。
ていうかあれか。
これ鳳炎の真似しないとな。
俺にできるかなぁ……まぁ、やってみますか!
少しだけ頭の中で言葉を整理する。
そして大きく息を吸い、声を張り上げた。
「鬼たち! 今まで世話になった! お前たちのお陰で、最後の時まで本当に楽しく過ごさせてもらうことができたよ! 悪魔たち! 邪魔しまくって悪かった! 何かは覚えていないけど、最後は共闘できたことを嬉しく思う! どの口がって話だけどな! ガロット王国、サレッタナ王国兵士たち! 色々あったけど! お前たちの国では楽しませてもらった! そして皆!! 俺たちを守ってくれてありがとうな!!」
短く、ただただお礼を言い続けた演説だったが、皆は大きな拍手をしてくれた。
こんなんでよかったのだろうかと心配になる。
でもまぁ……俺が思っていうることは全部伝えられた。
「おうれんざまああ!!」
「どわああああ!? またか姫様!」
「わだしも! 私もカルナ様と宥漸様をお守りいだじますぅ!!」
「そうかそうか! んじゃ頼むぜ!」
「うわああああん!!」
今の俺は土くれだから痛みとかは感じない。
それがなんだか少し寂しい……。
あ、そうだそうだ。
「姫様、あれ出してくれ」
「あれ……?」
「渡しておいた水の玉」
「あっ」
すると、姫様はすぐにそれを取り出してくれた。
俺は蓋付きの瓶を取り出し、その中へと入れて再び姫様に手渡した。
こうしておかないと、多分水が地面に吸われてしまうだろうからな。
そうなったらまた泣かれそうで怖い。
結局弾けちゃうけど、水は残るはずだ。
「これでいいかな」
「……ありがどうございます……!」
……さ、これで全員かな。
悪魔たちともさっき話してきた。
あのオレンジ髪の悪魔は未だに俺に怒っていたみたいだけど……まぁなんかしてくるって事はなかったな。
アスレやバルト、サテラ、クライス王子とも話した。
さすが国を背負うリーダーとでも言おうか。
誰も涙を見せることなく、清々しく送り出してくれた。
ライキは屋敷で話したな。
ランとデンもなんだかんだいって世話になった。
人が多い所には行きたくないってことで見送りは来てくれなかったけど……寂しいのかなぁ。
ごめんな。
ティックとテキルはどこにいったんだろう。
あいつら結局姿現さなかったな。
……カルナと宥漸は、白蛇の祠で待機してもらっている。
あとは俺が失敗しないようにするだけだ。
任せとけ、絶対に送り届けてやる。
はぁ、ここに来て挨拶をしていない奴らの顔が浮かんでくる。
悪いが、もう間に合わない……か。
すまん。
さて……時間か。
「ま、最後は明るく頼むぜ! そっちの方が俺も気兼ねなく行けるってもんだからな! じゃあな皆! 俺は少し寝ることにするから! ……じゃあな、アレナ」
「……バイバイ……」
最後にアレナの頭を撫でた後、泥人は土くれになって消えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます