9.36.爆拳制裁
大量の水が空中に出現し、水で作られた龍が咆哮を上げる。
十メートルほどの大きさで、細部までしっかりと再現されているようだ。
だがこれ……。
「操りにくいな!?」
なんっだこれぜんっぜんいうこと聞かねぇじゃねぇか!
あ、ちょっと待ってまだ高度下げないで!
ああああああ!!
ズバシャアアアン!
とんでもない質量の水が地面に叩きつけられたことによって、その場にいた兵士たちはあっけなく潰されてしまった。
これだけでも十分に脅威だが、違う。
俺がやりたいのはこんな事じゃない……。
てかこれ最大二体まで作り出せるんだよな?
いやそれ操るの無理じゃね?
どうやったら二体同時に操れるんですかマジで!
「ちょっと応錬君何してるの!?」
「いやこれ操作が……難しいんだわ!!」
「さっきの土地何とかってやつで蹴散らしなさいよ!」
「あれ魔力結構使うんだよ! おまけに零漸の土地神の効果がまだ続いてるみたいで俺が操れる土があんまりねぇ! とりあえず……『連水糸槍』!」
水龍を操っているのとは別の方向へ、連水糸槍を飛ばす。
簡単に兵士を真っ二つにできる技能なので、ただ走らせているだけでもいいはずだ。
だがやはりそう簡単にはいかないらしい。
防御魔法に秀でた兵士がそれを何回も弾いてくる。
これだけでは駄目そうだ。
追加で多連水槍を数十本作り出し、それを兵士へと向けて飛ばしまくる。
シャドーアイはあのローブ女と未だに対峙しているらしい。
三人と四匹で戦ってようやく互角ってどうなってんだ。
「ウチカゲ! あの司祭倒せないか!?」
「……いえ、ここは俺の出番ではないようです」
「お?」
どうして動かないのかと疑問に思っていたのだが……。
そういうことね。
教会の方を見てみると、零漸が何食わぬ顔で司祭の隣りへと歩いていた。
あいつも演技派だよなぁ。
こういう時は……。
「お、なんだ新入り。生きていたのか」
「……」
「丁度いい。お前の防御技能は素晴らしいからな。私に技能を付与せよ」
「分かったっす。んじゃ歯を食いしばるっすよ」
「なぜだ?」
「必要なことっす……からねぇ!!」
グンッと姿勢を低くし、右手の拳に力を入れる。
ティックから貰った手袋は拳に籠める力を倍増させるようで、ギュギュッという音を鳴らした。
渾身の力で振るわれる地身尚拳からの打撃。
バッと飛び上がり、体を浮かせて拳を押し込む形を作る。
更に肩、肘、手首を固定し、体をねじるようにして司祭の顔面を捉えた。
「『爆拳』!! 制裁っす!!」
「ゴッ──」
ボガアアンッ!!
一拍遅れて爆発が起こる。
何の防御魔法も付与されていない司祭にとって、この一撃は致命傷となるものだ。
爆発で顔が弾け飛び、首がグルンと回って体ごと吹っ飛んでいく。
零漸は残身を残し、身を引いて大きく息を吐いた。
殴った右手を何度か確認し、最後にぐっと握りしめる。
「ティックの弟さん、凄いもん作るっすね」
操り霞で零漸の様子を見ていた俺は、操りにくかった水龍と、他の技能もすべて解除した。
周囲にいた兵士たちは、どうやら我に返ったらしく周囲の状況を見て混乱している。
元凶がやられるとこうまで変わるものなのか。
襲ってこなくなっただけいい方か。
じゃあこの混乱に乗じて逃げたいところなんですけど……。
「ぐぬ……」
「だ、大丈夫ですか?」
「ヤバイ……。マジで眠い……」
なんだこれマジで……一気に来たぞ……。
あ、これ無理かも。
立っていることができず、その場に崩れてしまう。
それをウチカゲが支えてくれたおかげで、地面に激突することは避けられた。
「応錬様!」
「……ああー……眠いぃー……」
「俺が運びますので、お眠りください」
「そう、させてもらうわ……」
とりあえず、周囲は今のところ混乱しているみたいだし……奴隷紋が解除されて喜んでいる奴もいるか。
あのローブ女の動きも止まったな。
シャドーアイも無事そうだ。
「応錬ーーーー!!!!」
「……今度は何だ……」
今の声は、子供鳳炎の声だな……。
あいつあんだけかっこつけてて死んだのかよ……。
「いた!! 応錬! ウチカゲ! 思い出した!! 記憶が戻ったんだ!!」
「な、なんと!? 本当ですか鳳炎殿!! ということは……」
「うん! 僕たちが戦うべき敵! それを思い出した!!」
「いいから……早く言ってくれ……。限界が近い……」
なんで思い出したとかはこの際置いておこう……。
とにかく結果が知りたい。
起きた後で、もっと詳しく聞くことにしよう。
鳳炎は、大きな声で一番大事なことを俺たちに教えてくれた。
「敵は……声だ!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます