9.35.包囲
一斉に飛び掛かってきた兵士。
それを止めるのは簡単だ。
「マジで便利だなこれ! 耳塞げ皆! 『咆哮』!」
声のない咆哮が響き渡る。
その瞬間敵の動きが完全に停止し、走り出していた者たちは転んでしまう。
「ナイスです応錬さん! 『召喚』!」
耳を塞いでいたティアラがすぐにシャドーウルフを呼び出す。
四匹のシャドーウルフが次々に抜け道へと兵士を落としていく。
「『鬼人瞬脚』……」
ウチカゲが地面を踏み抜いたと思ったら、遠くの敵が弾けとんだ。
お前やりすぎだよ。
ていうか君たち技能かけられて遅くなってるはずだよね?
どうなってん。
「『マジックフォーグ』! はいっ! 次!」
「させない……」
「うっわ!?」
いつの間にか間合いに入っていたカルナが、マリアを攻撃する。
ウチカゲとティアラは攻撃をしていてこちらに気付かなかったらしい。
かくいう俺もこれだけの数の兵士がいる中で正確に一人の人物を操り霞で見つけ出すなど不可能。
めっちゃいいタイミングで攻撃仕掛けて来やがった!
俺も攻撃したいけど動き遅くなってるし、何ならクライス王子抱えてるしで今は無理ー!!
技能?
今接近に気付いたんやって。
間に合う訳ないでしょうが!!
「はぁっ!!」
「……スゥー……」
ビッドが前に出てその攻撃を弾く。
まだかけられた技能は解除されていないので、動きは遅い。
しかし予測を立てて動いていたようだ。
「技能解除できる人を狙うのは定石ですね! クライス!」
「おう!!」
「『クイックリー』」
「「ぐぅ!?」」
素早すぎる動きでシャドーアイのクライスの攻撃を回避し、逆に蹴りを入れてビッドごと吹き飛ばす。
「『スローリー』」
更に技能をかけ、倒れる速度すらも低下させる。
そこを狙うかと思ったのだが、今は無視して飛んできた攻撃を防ぐ。
「厄介ですね……!」
「……スゥー……」
ウチカゲの攻撃も簡単に防いだ。
だが力だけは劣っているので、怪力にものを言わせてウチカゲはカルナを吹き飛ばす。
空中にいる間こそ攻撃のチャンス。
しかし技能的には不利になる可能性がある為、深追いはしなかった様だ。
そこで、兵士たちが再び動き出す。
「『マジックフォーグ』! ねぇこれどうする!?」
「とんでもねぇ数だぞ! ていうか起きねぇなこいつ!」
「王子に向かってこいつとか言うなー!!」
「応錬様! 土地精霊で時間を稼げませんか!?」
「その手があった!! 慌てると駄目だな!」
「んなこと良いから早くしなさい!!」
「わーったよ!!」
地面を踏みつけ、技能を発動させた。
土地精霊で土を操り、一度壁を作って策を練る時間を作る!
壁は俺たちを囲む。
外からは壁を破壊しようと攻撃を一点に集中させているよらしいが、俺はそこを何度も修復する。
土地精霊の効果が切れるまではこれで時間を稼ごう。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「マリアギルドマスター、大丈夫ですか?」
「マジックフォーグを使いすぎた……。魔力がもうない……」
「ほれ」
俺は魔道具袋から五本のマナポーションを取り出した。
魔力がないのであれば、これを飲むに尽きる。
「……嘘でしょ?」
「こんな時に冗談は言わん」
とんでもなく嫌な顔をしながら、マリアは五本のマナポーションをすべて飲み切った。
さすがギルドマスター。
まぁそれはさておいて、これからどうするかだな。
敵も集まって来てしまったし、これをすべて倒して脱出は現実的ではない。
俺の咆哮もあのローブ女に邪魔されてしまう。
兵士は止められるが……その間をあいつにカバーされてしまった。
ま、初見技ではないから、俺が技能を発動させる直前に耳を塞いでいるんだろうな。
対処が早いことで。
加えてあいつ今倒せないから厄介極まりないよな!!
『でてこい、侵入者』
マイクを通したような声が聞こえてきた。
それと同時に、兵士が壁を攻撃する手を止める。
「なんだ……?」
「応錬様、空圧結界を。土を取っ払った瞬間に攻撃される可能性がありますから」
「そっちの方が相手の動きが見えていいか。よし」
四方に空圧結界を展開させる。
それを確認してから、土地精霊を使って土の壁を取っ払う。
外は、相変わらず兵士に囲まれていた。
だがこちらに武器を構えているだけで、何かをしてくる気配は見えない。
どういうことだろうかと首を傾げていると、再び声が聞こえてくる。
『どうやって奴隷紋を解除したのだ?』
「……何処にいる?」
「応錬様、教会です」
「そっちか」
少し離れたところに教会が見えた。
扉の前に司祭と思わしき人物が立っており、こちらを物凄い形相で睨んでいる。
『聞いているのか』
「聞いてるわ! ていうかお前か奴隷紋を仲間に刻んだ奴は! よくもまぁこんだけいる兵士の前で堂々と言えたもんだなぁ!!」
『何を言っている。こいつらもすべて、私の駒だ』
「……は?」
俺以外の全員が、近くにいた兵士を凝視する。
よく見てみれば、奴隷紋が一人に一つは刻み込まれていた。
場所は様々で、見えない者もいるが……恐らく本当にここに居る者たちは奴隷紋が刻まれているのだろう。
加えて、彼らの表情は無表情だ。
こちらの言葉も聞こえていなさそうである。
「……マリアギルドマスター。こういう奴隷紋の使い方はあるのですか?」
「あるにはあるわね……。禁止されてるけど」
「ああ……。司祭の言葉は神の言葉……。これからきていたのかもしれませんね」
「確かに。でもこれだけの数を?」
「そこは悪魔との契約でなんかしてるんでしょ」
ありえない話ではないよなぁ。
あ、でもあいつぶっ飛ばしたら俺らの勝ちじゃん!
ここに居る奴らも全員解放されるだろうから、あとは勝手に崩壊してくれるでしょ。
「『連水糸槍』……」
一番切れ味のいい技能だ。
空圧結界は四方を囲っただけだから、上は空いているんだよね。
そっから出して……突っ込ませる!!
ヒュアッ!!
風を切る音を立てながら、連水糸槍は司祭に向かって刃を向ける。
だがそれは、兵士数名の防御魔法によって弾かれてしまった。
さすがにこういうことにはしっかりと反応するようだ。
「そう簡単には倒せないか」
『無駄だと分かったのなら、さっさとその王子をこちらに渡せ』
「いやなこった。まだできることあるから足掻かせてもらうね!」
『そうか』
司祭が手を上げた。
その瞬間、先ほどまで動いていなかった兵士たちが一斉に動きはじめ、距離を詰めてくる。
「私とシャドーアイの三人だと、この数は無理」
「応錬様、申し訳ありませんが俺の技能も個人戦に特化しています」
「俺しかいねぇな! んじゃほい」
「おおっと……」
「応錬君!! 王子を投げるんじゃない!!」
早くしないと敵来ちゃうから許せっての!
んじゃ、こいつらで新技能使っちゃいましょうかね!!
「よーし……。『水龍』!」
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