9.34.増援と元凶
遠くから大勢の兵士が走ってくる音が聞こえはじめた。
あと数分もすればこちらに来てしまうだろう。
操り霞を展開している範囲にはいないが……できるだけ早く助け出さなければならなさそうだ。
屋敷のガラスを蹴破ってそのまま中へと侵入し、最奥へと走る。
隣にはマリアがいて、周囲の警戒をしながら付いてきてくれていた。
この屋敷にいた兵士はすべて倒れているらしく、誰にも邪魔されることなくウチカゲがいる場所まで来ることができた。
シャドーアイも屋根の上で監視を続けているようだな。
「ウチカゲ! 待たせた!」
「お待ちしていました応錬様。状況を端的にお伝えいたします。奴隷紋によってこの場からクライス王子を移動させると危険だったので、この場を占拠、及び防衛をしておりました」
「なるほどね。その判断は正しいわ。応錬君宜しくね!」
「応!」
パンッと手を叩き、青龍の審判をクライス王子に使用する。
零漸の奴隷紋を解除した時と同じ声が頭に響いてきたので、速攻で解除を選択した。
すると、クライス王子に刻み込まれていた奴隷紋が消え去った。
これで自由に動くことができるはずだ。
だが……。
「ぐっ……」
「応錬様!? どうされました!?」
「くそ眠い……」
「え?」
これ……まさかとは思うが……。
この奥義、使うと眠くなるのか?
代償なのだろうか……。
にしては軽すぎるものだな。
だけど今寝るのはマズいぞ……!
もう少し起きておかなければならない。
顔を思いっきりはたき、意識を覚醒させる。
とりあえずこの場からの脱出を最優先しなければ。
「げっ!!」
「一歩遅かったですね……」
操り霞の中に兵士が入り込んだ。
既に屋敷を取り囲み、中へと侵入してこちらに向かってきているようだ。
この最奥の部屋には扉が一つしかない。
更に窓がないときた。
クライス王子を閉じ込めるためだけに作った部屋のような感じだな。
壁ぶっ壊すか。
「お任せを」
「頼んだ!」
「『鬼人瞬脚』!」
ウチカゲが壁を破壊する。
その余波で外にいた数十名の兵士が吹き飛んでいった。
「行きましょう!」
「ウチカゲさーん! ギルドマスター!」
「ビッド!? なんですかこんな時に!」
「今集まってきているのは普通の兵士ですが、遠くの方に教会の一派と思われる武装集団が待ち構えています! その中に司祭もいるようで、会話を聞く限りそいつが奴隷紋を刻んだ人物だと思われます! ティアラからの情報です!」
「さっすがティアラね! でももうその必要はないわ! 脱出優先! 活路を開きなさい!」
「はっ!」
ビッドの報告が終わり、マリアの指示も飛ばし終わった。
俺たちはウチカゲが開けた穴から飛び降り、着地する。
だがすでに周囲には多くの兵士が取り囲んでいる為、これを突破しなければ逃げ出すことは不可能だろう。
一番兵士が少ない場所を的確に狙う。
「あっちだ!」
「応錬様! クライス王子をお任せいたします!」
「まじか!? しゃあねぇ任せろ!!」
「俺が突破します! シャドーアイ! マリアギルドマスターと応錬様の護衛を頼みます! 『鬼人瞬脚』……!!」
手を振るい、熊手を下す。
構え、足を踏み込み、地面を抉りながら蹴とばした。
一瞬で兵士がこの葉のように舞い、活路が開く。
俺は雑にクライス王子を担ぎながら、ウチカゲが作り出してくれた道を全力で駆ける。
マリアとシャドーアイもそれに続いた。
「ちょっと応錬君!? 王子よ!? 王子なのよ!?」
「この状況で丁寧に運べるか!! 命あるだけましと思え!!」
「絶対そんなこと王の前で口にしないでよね!?」
「生きて帰ったらな!!」
ていうか無駄口叩いてないで走れっつの!!
あと零漸は何処だ!?
もう帰るぞ!!
ガクンッ。
走っていた全員の動きが遅くなる。
周囲から走ってくる兵士の動きが妙に速い。
「!! まだいたの!? 『マジックフォーグ』!」
体に手を当て、マリアは自身にかけられた魔法を解除する。
瞬時に飛んできた矢を弾き飛ばし、俺にも同じ魔法を掛けて魔法を解除してくれた。
「これは……!」
「あのローブ女よ! 気をつけなさい!」
「くっそ! ウチカゲが作ってくれた道が!」
「また作ります」
「うぉおお!? 戻ってくるの速いな!?」
いつの間にかウチカゲが真隣にいた。
そうだ、こいつはこういう奴だった。
思わぬ反撃に全員の足が止まる。
その後、すぐに兵士たちが俺たちの周りを取り囲んで武器をこちらに向けてきた。
こいつ、結構遠くまで飛ばしたつもりだったけど、やっぱり零漸の身代わりは強いな。
だが……こいつは零漸が言う救出対象。
殺すのは駄目だよな……。
多分まだ身代わり掛かってるだろ。
「全員気をつけろ。今あいつは零漸に身代わりを使ってもらってる。攻撃は効かないと思っておけ」
「零漸殿の奴隷紋は解除されたんですよね……? では何故未だに守る意味が?」
「どうやら、あいつにとってはいい仲間たちだったらしい。同じ様に人質を取られているんだとさ」
「零漸殿らしいと言えば、らしいですが……」
悪いことではない。
が、今の状況を考えるとちょっと厄介だよな。
兵士の間から、カルナが現れる。
新しく新調した双剣を構え、脱力した状態で対峙していた。
「『スローリー』」
がくんとした衝撃が全員に走る。
その瞬間、兵士が一斉に襲い掛かってきた。
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