9.37.本当の敵
……なんだって?
おい待て、今なんて言った鳳炎。
思いっきり頬を叩き、意識を覚醒させる。
それでも眠いが、今はこれで何とかなりそうだ。
ウチカゲの肩を借りながら、鳳炎を見る。
「鳳炎……どういうことだ……!」
「応錬様、声……とはなんですか?」
「説明したことなかったっけ……?」
「あるかもしれませんが……すいません。忘れているかもしれません……」
いや、俺も説明した記憶ない。
ウチカゲが言った様に忘れてるだけかもしれないけど。
鳳炎が降下してくる。
目の前に着地して、俺の服を掴んだ。
「応錬! 敵は声だ!! 悪魔は声たちによって呪いをかけられている! あいつらは神じゃない! 邪神だ!!」
「まて、待ってくれ鳳炎……。もう少し噛み砕いて説明しろ……」
結果だけ言われても理解できるわけがない。
声が敵?
ルリムコオスとの会話を通してなぜその結論に至ったんだ?
そもそもあいつらは……干渉できないはずだろ?
話についていけないマリアが鳳炎に声をかける。
「鳳炎君。何回かその単語を聞いているけど本当に声って何なの? 私たちにも説明して頂戴」
「簡単に言うと、僕たち四人を助けてくれていた存在だよ! で……それが本当の敵!」
「意味が分からないわ」
「あとでじっくり説明する! でも今は僕の話を聞いて! 応錬起きてー!! なんでこんな時に寝てるんだよう!! 子供の状態じゃないと僕は記憶を維持できないかもしれないんだ!!」
「早く説明しろ……俺が寝る前に……」
御託はいいから……早く。
眠い頭で理解できるか不安だが、それでも聞かないわけにはいかない。
瞼が落ちそうになるのを何とか堪えつつ、鳳炎の話を聞いた。
「まずはルリムコオスとの会話の時、僕が気づいたことを説明する! あいつは人間たちのことを大好きだと言った! それだけで人間を不本意に殺そうとしているのが分かる! 悪魔のやろうとしていることは、邪神復活の阻止なんだ!」
「話が飛躍しすぎている……。なぜ声が敵ということになるんだ……?」
「まずは技能のこと。どんなに恐ろしい技能でも、それを持っているだけで誰でも使えてしまう。そんなのを作り出せるのなんて、神しかいない。ファンタジー小説でよくあることさ。あいつらは自分のことを神と言ったし、これができてもおかしくはない」
まぁその辺はそうなんだろうな。
こんな危険な物を作り出せるのなんて、神以外にいるわけがない。
「悪魔は呪いをかけられていた。恐らく、邪神復活阻止の方法について口止めされてるんだと思う。人間を殺す必要はないけど、そこまで遠回しに言わないと呪いが発動するんだ。ルリムコオスの発言と今までのことを思い出してみたらすぐに分かった! 悪魔が完全悪ではなくなった今、天の声と会話したあの空間で、あいつは悪魔を嫌悪した!! 悪魔の動きを知っていたのも、それを僕らに教えたのも……邪神復活阻止の方法を知っている悪魔を僕たちに止めさせるためだったんだよ!!!!」
……一理ある……が……。
いや、俺もあいつは嫌いだ。
だがそこまでするような奴なのか!?
「証拠は……?」
「凄い衝撃的だけど、いい? でも僕はこれを見て確信した」
「教えろ」
「特殊技能の……応錬の場合だと天の声って欄が消えてるはずだよ」
「なに……?」
俺はすぐに特殊技能を確認する。
===============
―特殊技能―
『希少種の恩恵』『過去の言葉』
===============
ま、マジで消えてやがる……!!!!
だが……これって自分が悪だと言っているようなもんじゃねぇのか!?
「なぜ消す必要があったんだ!?」
「これは憶測だけど……。声は聞いたことに対して絶対に答えてくれた。干渉が制限されているから、そういう代償があったのかもね。だから声を残しておくと、答えざるを得ないのかもしれない」
「俺の時はそうじゃなかったが……つーことは……」
「うん。声が敵だと僕らが気付いた瞬間、あいつらはなりを潜めるつもりだったんだろうね。情報源が断たれたのも事実だけど」
「……復活阻止の方法……分からねぇもんな」
悪魔の目的……天の声という技能が消え、あいつらが完全悪になった今なら分かる。
声たちの復活の阻止なのだろう。
あいつらが邪神というにはなんとも信じがたい話だが、鳳炎の話を聞いて技能が消えたんだ。
なぜ悪魔たちが復活阻止の方法を知っているのか、まだ疑問が残るところではあるが……。
これからの目的は決まった。
悪魔たちとの協力。
まずはあいつらとコンタクトを取らないとな。
「でもね応錬。そのヒントはある」
「阻止の方法?」
「そう。悪魔たちの行動を見ればなんとなくだけど。だから……この事件、本当は止めてはいけなかった」
「今更……だけどな……」
どの道、戦争は起りそうなんだ。
その辺は悪魔の筋書き通りだろう。
……声が敵……か。
想像がマジでつかないが……確信は持てた。
「お話は終わりかしら? じゃあとりあえず逃げない?」
「分かった! 逃走ルートは飛びながら確認したから付いてきて! 騎竜とバトルホースもこっちに向かって来てた!」
「優秀ね……」
鳳炎が飛び、誘導をしてくれるらしい。
アレナと零漸とユリーとローズ、あとリゼがいないが……あいつらも鳳炎の炎を見て戻ってくるだろう。
暗い空間でこいつの炎は良く目立つ。
だが鳳炎は、地面に真っ逆さまに堕ちた。
「ふぐぉっは!?」
「鳳炎殿!? どうされ……これは、重加重……?」
ウチカゲが空を見る。
すると、アレナが泣きそうな顔で技能を使用していた。
アレナはすぐにこちらへと飛んできて、俺とウチカゲの服を掴んで顔をうずめる。
どうやら泣いているようだ。
一体向こうで何があった……?
「アレナ……どうした……」
「うぐっ、ぐすっ……悪魔が……悪魔が……!」
「落ち着いてくださいアレナ。向こうで何があったのか、教えてください」
「ひぐ、あのね……。悪魔が……悪魔が言ったの……」
「なんて言ったんですか?」
優しい口調でウチカゲはアレナに問う。
俺も次の言葉に何とか耳を傾けることができた。
「鳳炎に向かって、その名前を、言っちゃいけないって……」
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