9.38.拒絶する体
槍が何度も打ち合う音が聞こえる。
夜という空間で、鉄がぶつかり合う音は良く響く。
鳳炎は相変わらず技能を使わない。
ただ、槍一本で戦い続けている。
実力的には拮抗しており、どちらも少しずつ傷をつけられていた。
いつもの鳳炎であれば、皆が離れた瞬間に技能を使っていただろう。
そうしようと考えていたのも事実。
だが使える状況になって、ふと違和感を覚えた。
(なぜ……なぜ使いたくないと考えてしまうのだ!?)
技能を使えば勝てる。
その程度の相手だ。
だが、体がそれを拒絶する。
目の前にいるのは敵であり、滅さなければならない相手。
先ほどの応錬の話は何も理解できなかったが、心の何処かで共感してしまっていた。
何に?
そう言われても答えられるものではない。
「はぁああ!!」
「ふん!!」
突き出された槍を簡単に払う。
即座に踏み込み、下段から掬い上げる様にして突き上げるが、それはのけぞって回避された。
悪魔はバック宙で後方に下がり、再び構えを取った。
悪魔が懐に手を入れる。
何かする気だと思って即座に間合いを詰めた。
だが距離がある。
鳳炎はようやく炎の翼を広げ、切っ先を悪魔に向かって突き出す。
「『報告』」
「っ!? 技能か!?」
懐に手を入れたのはフェイク。
戦闘中では発動できない技能だったのかは分からないが、これで悪魔の仲間に自分たちのことが報告された可能性が高い。
一刻も早くこいつを倒して皆の元に向かおうと思うのだが、やはり炎魔法は体が使うことを拒絶する。
仕方ないので槍で相手を薙ぐが、それはしっかりと受け止められる。
ぐんっと力を込めて押し続けた。
足を滑らせながら悪魔は耐え、家の壁に背を預けたところでようやく止まる。
「何をした!」
「これ以上……邪魔されるわけにはいかないの……! 悪いけど……使わせてもらった」
「何をだ!!」
「生まれ変わり」
零漸のことだとすぐに理解した鳳炎は、悪魔を蹴り飛ばし、よろめいたところを槍の柄で殴り飛ばす。
鈍い音が二度聞こえたが、それでも倒れることはせずに頭を振るって立ち上がった。
「どうして、技能を使わないの?」
「私が知りたい」
「体が思い出そうとしてる……。鳳炎、思い出して」
「何をだ」
「ルリムコオス様の所で聞き、気付いたこと」
そんなものは記憶の中にない。
だが、体が覚えているらしい。
まったく実感はないし何を言っているかもわからないのだが、何故か理解することはできた。
確かに妙な感覚はあった。
何かが削れている感覚……。
「『重加重』」
「んぐ!!?」
突然、悪魔の体が重くなって膝をつく。
技能に見覚えがあった鳳炎は、後ろを振り向いた。
「!? アレナ!?」
「なんか変だと思ったから抜けてきた! 鳳炎魔法使わないんだもん!」
子供はよく見ている。
鳳炎の魔法であれば夜の中に大きな明かりが出現するはずだ。
だがいつまで経ってもそれが出ないので、アレナは気になって戻ってきたらしい。
だが重加重が掛かった今であれば、簡単に仕留めることができる。
武器を構えて一思いに突こうとしたが……体が動けなかった。
「またか!? 技能も体も……! どうなっているのだ!」
「どど、どうしたの!?」
「分からないのだ……。技能が使えず、更には武器を振るう腕も勝手に止められてしまう……」
「と、とりあえず鳳炎これ……」
「む、回復水か」
アレナは鳳炎の体の傷を見て回復薬を手渡してくれた。
だがこれは内傷を癒すものなので、外傷にはあまり効果がないかもしれない。
そう思ったが、もしかするとこれを飲めば体が治るかもしれないと思い、一気に飲み干す。
再び悪魔に槍を突きだそうとするが……やはりできなかった。
「……これ、は……一体……」
「鳳炎、まだ思い出せないの?」
「……なにをであるか?」
「気付いたこと……だけど……」
そんなものは何もない。
だが、アレナまでもそんなことを言うのだ。
前々から言われ続けていた事ではあったが、いまいちピンとこなかった。
何か思い出さなければならないことがある。
この体の挙動もそれに直結しているはずだ。
「ぐ、ぐぅ……っ……。思い……出せ……! お前なら、理解できた……はず……!」
「…………」
「鳳炎!」
「……分からん……! 思い出せん! ルリムコオスの所で何があった!? 私は死んで子供の姿になり、寝ていたのだ! 話は聞いていない!」
「……そ、そういうこと……ね……! これ、解除できる……?」
「うん」
「な!? いや待つのだアレナ! 捕らえたのになぜ解除する必要がある!」
「敵じゃないから」
そう言って、アレナは技能を解除する。
ローズから教えてもらった魔術を使うことで、任意で技能を解除することができるようになっていた。
息を荒げていた悪魔だったが、一度大きく深呼吸をしたあと。
鳳炎の腹部に槍を突き刺した。
「え?」
「なっ……」
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