1.12.文字
紛れもない日本語。何度見ても見間違うことはない。
前世にいやというほど見てきた、書いてきた、読んできた文字だ。
そこには『ハジメマシテ ダレカイマセンカ』と大きく書かれていた。
不格好なカタカナだが、読めないことはない。
流石に平仮名や漢字は書くことができなかったのだろう。
岩に硬い何かを当てて作った文字のようだが、この傷には見覚えがあった。
『部位強化(鋭)』だ! 絶対そうだ!
一度マレタナゴの真似をしようとして岩に切りつけたことがあったが、上手くいかず小さな傷をつけるだけになってしまった。
その傷の深さといい、切れ味のなさと言い、あの時岩に付けた傷とそっくりだった。
誰かいるぞ! 絶対にいる! 日本人だろこれ!
お、おおお落ち着け……おお落ち着くんだ。ど、どうやって探そう……これは俺と同じ転生者のはずだ。同じ境遇の人物がないかとこうしてメッセージを残したに違いない。
他には何かメッセージはないか?
探してみると、隣の岩にまたメッセージが書かれてあった。書かれていた内容は……。
『オレハ オオキナ イケニイマス マイアサ ココニキマス』
『コノモジガ ヨメタナラ ココニイテクダサイ』
完璧なメッセージだ。
自分の居場所を書いて近くにいることを教えている。
だが言葉がしゃべれない可能性が高い事を見越し、こうして待たせる。
同じ日本人でなければただの落書き程度の文字だという認識しかしないだろう。これなら安全に合流できそうだ。
しかし……いるかもわからない転生者にこうしてメッセージを残すとは……相当寂しかったんだろう。俺も結構きつかったけど……な。
まだ時間的には夜だ。
もし相手がこのメッセージを信じて明日も来てくれるのなら合流はできるだろう。
この文字を書いたのがいつかはわからないが……結構新しそうだということはわかる。
多分大きな池というのは、先ほどいた池のことだろう。
軽く回ってみたが魚らしき影は見えなかった。おそらく隠れていたのだろうか……?
そもそも俺のような夜行性ではないのかもしれない。
とりあえず待つことにする。全ては明日の朝だ。
来てくれれば幸運だが、来てくれなければそれまでだ。
もうすでに何かに食べられてしまっているかもしれない。
希望は薄いかもしれないが、ここにきて仲間ができるかもしれないのだし、期待せずにはいられない。
そう考えると途端に寂しくなっていく。
まだ転生して3日目……。
たった三日一人で生きてきたがやはり寂しかった。
それを紛らわすために、テンションを高くして行動していたのかもしれない。
直す気はないけど!
直してしまえば自分ではなくなりそうだ。
今はただ……前世の記憶を持っている生物をここで待つことにする。
その日の夜は、今までに感じたことのないくらい長い夜だった。
―朝―
……結局一睡もできなかった……遠足前夜の小学生かよ。
だが自分と同じ転生者がいて、今日中には会えるかもしれないんだ。眠れるはずもない。
まぁ眠いとかは感じないんだけどさ。…………寝たいよね。目をつぶって。
まだ空が少し明るくなったくらいだから……朝の七時くらいかな?
こんな朝早くには来ないよなー……。てかあれだな、夜目が利くなら朝にここに戻ってきてもう少し探索してもよかったなぁ。
結構時間を無駄にしたけど……ま、問題ないだろ。
転生して三日目だし時間も腐るほどあるしな。
俺はメッセージの書かれた岩の前でうろうろしている。
体も白いし、一番大きく書かれている文字の前にいるのだ。相手が来ればすぐにわかってくれるだろう……多分。
そう、そこが問題だ。まず相手がどんな種族なのかわからない。
俺の種族はレインバスで、好戦的な性格をしている。もちろん俺はそんなことないからな! 紳士だから! な!
おいおい誰だ腹を食い破って出てきたやつが何を言っているとか言ったやつは。けしからん。
と、まぁそんな理由でなかなか姿を現してくれないんじゃないだろうか。……もちろんその逆もありそうで怖いが。
なんかいたー! お! 格下の種族じゃねぇかいただきます! とかだったら洒落にならん。
文面的に寂しがっているような気がするのだが……これが罠だったりとかしたらマジで死ぬぞ?
ほかにも心配なことはある。
もし合流できても会話が出来なければ弁解もできなさそうだ。
こう……技能でテレパシーとかあればまだ違うんだろうけどさ。何か別の方法で会話を成立する方法を模索しといてもよかったかもしれないな……。
あ! そうだそうだ! 俺だったら『水流操作』で文字書けるんじゃね!?
水面からの水流操作で水流を発生させて、水の中に入れた空気をその場で留めることができれば文字が書けるはずだ!
今はLVが上がってMPが49ある。四回は使えるはずだ。
使ってみたいがMPのことを考えるにぶっつけ本番のほうがいい。ただでさえ少ないMPだ。大切に使いどころを見極めて使おう。
俺は頭の中でイメージトレーニングを繰りかえす。
水面を引っ張って空気を入れこむように……そして捕まえた泡を使って文字を書く……。
だがこれを使うのは最終手段だ。使える回数が少ないのでできるだけゼスチャーで伝えるのがいいだろう。魚の体では限界があるが。
イメージトレーニングを数回繰り返してイメージを定着させる。
そして、こちらに向かってゆっくり近づいてくる一匹の小さな黒い魚が姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます