5.42.かっこ悪い


 バスティが御者を勤める馬車で城に向かった。

 割とすぐに城に到着したようで、城の中庭のような場所で下ろされる。


 ここは俺が泥人で来たことのある所だな……。

 なんとなく場所は分かるぞ。


 ここに来るまでは操り霞を広げで索敵を行っていたが、特に何もなかった。

 何も無いなら何も無いでよい事なのではあるが……。

 逆に気張り過ぎて疲れてしまった。

 もう既に帰りたい。


 ここから俺たちは王子の待つ広間へと向かうことになるらしい。

 玉座のような場所だろう。

 ガロット王国のスクリーンで一回見たことがある程度なので、実際に見るのはこれが初めてになるな。

 ウチカゲは一度テンダと一緒に入ったんだっけか。


「では、私の後をついてきてくださいませ」

「早く……! 早く行ってくれ!」

「は、はい。分かりました」


 鳳炎は急かすようにしてバスティの背中を押す。

 どうやら周囲を警戒している様だ。


 何をそんなに警戒しているのかは分からないが……。

 まぁここで冒険者をしている内に何かあったんだろうな。

 俺の知った事ではない。


 俺たちはバスティに連れられて、城の中を移動する。

 何度かメイドや衛兵に会う程度で、特に変わったようなことは無かった。

 あるといえば、目線が少し冷たい所だろうか。


 道中にすれ違う貴族らしき人物からの目線が痛い。

 俺たちが何をしたというのだ……。


「どうしてあいつらは俺たちの事を睨みつけてくるんだ」

「そりゃあ貴族共は冒険者が王族に会う事を良くは思わないからな。そもそも礼儀や教育なんか一切されていない奴らが王子に呼び出されるなど滅多な事が無い限りないさ」


 そう言うもんなのか。


 ……あらやだ、俺たちここにいるだけでめっちゃ目立ってるじゃないの。

 何も起きずに事が終わりますように……。


 暫くそのまま歩いていると、ようやくに辿り着いたようだ。

 豪華な大きな扉が鎮座している。

 バスティはそれを軽々と開けて、俺たちに中に入るようにとジェスチャーで伝えた。


 俺たちは扉を通って中に入る。

 そこには数人の騎士が横に並んでおり、貴族らしき人物も何人か同席していた。

 全員の目線が少し痛いが、この際もう気にしないでおこう……。


 えーっと?

 これどうしたらいいんだ?

 とりあえず前に来ましたけども。


 んーと……。

 なんか膝付けて頭下げたりしなきゃいけないんだっけ?

 ていうか王子何処。


 すると、鳳炎とアレナだけは膝をついて頭を下げた。

 零漸はそれにならって遅れながらも同じ様にする。

 だが、ウチカゲは胡坐をかいて座った。

 うん、確かにウチカゲ的にはそっちの方が似合っている。


 んー、俺も胡坐にしよ!

 でも地べたに座るの抵抗あるなぁ……。

 綺麗げだからいいけどさ。


「お前ら二人! なんだその姿勢は!」


 前にいた貴族っぽい奴がなんか叫んでる。

 んー、これ俺とウチカゲに言ってるよな。


 でも俺こういう場所での礼儀とか知らんし、どっちかというと日本式の胡坐の方が馴染みがあるからこっちの方がやりやすいんだけど……。

 時代劇とかで結構見たことあるから、やり方はばっちりだと思うぞ。

 握りこぶしを作って前につくんだろ?

 知ってる知ってる。


 うん、そう言う事じゃないよね。

 どうしようか。


 すると、ウチカゲがその貴族に物申す。


「何か問題が?」

「ここは玉座の間であるぞ! 相応しい姿勢、礼儀があるだろう! そもそもなんだその服装は!」

「服装に関しては手紙で便宜を図っていただけると書いてあった。それについて貴様がどうこう言うのは筋違いだ。礼儀……に関しては俺たちにも俺たちの作法という物がある。俺たち側から訪れたのであればともかく、貴様らからの招待故、これを変える気は毛頭ない」

「貴様! 言わせておけば……!」

「何か問題が?」


 そこでウチカゲがその貴族に対して殺気を放つ。

 目隠しをしているとはいえ、その覇気は俺たちの方まで伝わってくる。

 周囲にいた貴族は勿論の事、衛兵たちもたじろいでしまっているようだ。


「ぐっ……」


 ウチカゲなんでそんな怒ってん……。

 意外とプライド高いよね。


 ……ってあれか!

 あの貴族が言った言葉は俺にも言われていた物だったから怒ってんのか!

 別にいいのに……。

 まぁ悪い気はしないけどな!


「ウチカゲ君。今回会う相手は王子だから、それは納めておいてね」

「分かりました」


 ウチカゲは力を抜いて、息を吐く。

 それと同時に殺気は静まったようで、周囲にいた貴族や衛兵はようやく動けるようになる。

 ウチカゲの技能にこんなのあったっけ?

 無かった気がするけど……。


 すると、足音が聞こえてきた。

 それと同時に、貴族はビシッと背筋を伸ばす。

 衛兵も同じだ。

 全員が先程のやり取りが無かったかのように振舞っている。


 しかし……何だこの足音。

 まるでわざと音を鳴らしているかのような足音だ。

 それは他の全員も気が付いている様で、アレナと零漸は首を傾げていた。


 カッカッカッカッカッ。

 カツッ。


 玉座の隣から小さな子供が出てきた。

 年齢はアレナと同じか、少し上かくらいだろう。

 身長は少し高めのようだが、やはり幼さがある。


 少年はサイズの合っていない王冠を被り、マントをしている。

 だがそのマントは長すぎて地面を常に引きずっていた。

 その下の服装は王族らしい服装をしていたのだが、靴がやけに堅そうだ。

 先程はこれを意図的にならしていたのだろう。


 偉そうに見える様に気を使って歩いており、玉座の真隣まで来ると、その長いマントを俺達の方に向けてばっと広げる。

 だが力が足りていないのか、ぺしょっとかっこ悪く地面に落ちてしまった。


 王子はその事を全く気にすることなく、大きな声で叫ぶ。


「よく来てくれた冒険者よ!」

「かっこ悪い!!!!!!」

「え?」

「「「「えっ?」」」」


 王子が次の言葉を発する前に、零漸が足をダンッと踏み込んで立ち上がり、どうしようもない思いを両の手に溢れさせて力を籠めていた。


 王子も零漸の言葉にポカンとしていて、素っ頓狂な声を出す。

 俺たちも全員が零漸の方を向いて、今こいつが言った言葉を一生懸命理解しようとしていた。

 それは貴族や衛兵たちも同じだ。


 零漸はカツカツと前に出て王子の所まで歩いていこうとしているようだった。


 待て。

 待て待て。

 待ってくれ零漸!!

 早まるな!!!! 

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