5.41.件の御者


 手紙で城へと招待された俺たちは、翌日になってギルドへと集合していた。

 ここに馬車が来るという事だったからだ。


 鳳炎だけはどんよりとしているが……。

 本当に行きたくなさそうだな。

 なんでそんなに嫌なんだ。

 聞いても教えてくれなかったからもう聞かないけどさ。


 因みに。

 服装はいつものままです。

 高い服を一日で用意できるわけないし、こちとら冒険者だ。

 そっちの事情など知らん。

 まぁ文面でもそれは許容すると言う感じがしたので、これでも問題ないだろう。


 向こうに行って着せ替えられたりしないよな……?

 やめてくれよ?


「城かー。二回目っすね!」

「そうだな。アスレやバルトは元気かな? あいつら忙しそうだったけど」

「あの時アスレ殿はいませんでしたし、忙しいのは確かでしょう」

「ちょっと待ってくれ。なんでガロット王国の王族とそんな親し気なんだ」

「「友達だから?」でしょうか」

「嘘だ」


 嘘じゃないんだよな。

 色々あったし……。


 零漸はあの時いなかったから、アスレのことは分からないっぽいけどな。

 あ、アレナも分からんか。

 となると知ってるのは俺とウチカゲだけになるのね。


 うわー、思い出してみると懐かしいな。

 あの家臣二人頑張ってるかなー?

 寝ずに働いてた奴ってどっちだったっけ?

 ジルニアだったか。


 あの時は大変だったなー。

 俺は荷物みたいな感じで運搬されてただけだった気がするけど、それでサテラを見つけれた。

 あの時は結構楽しかったな。


「あ、来たっす」


 零漸が指さす方を見てみると、確かに馬車が来ていた。

 めっちゃ豪華なんだが。

 え、俺たち今からこれに乗るんか?


 一目見てなんでわかるんだって思ったけど、そりゃ分かるわ。

 明らかに場違いすぎるもん。


 馬車はギルドの前で止まり、御者が降りて一礼をしてくれた。

 その人物は執事らしい格好をしていて、随分と年を召しているように感じられる。

 ていうかどっかで見たことあるんだけど。


 老人はスッと顔を上げ、自己紹介をしてくれた。


「お初にお目にかかります。私はバスティ・ラックル。皆様の御案内役を務めさせていただきます」

「「ああああーーーー!!」」

「ほ!?」


 俺と鳳炎が指をさしてそう叫ぶ。

 こいつ知ってると思ったら!

 あの時悪魔に操られてた執事じゃねぇか!


 鳳炎もバスティが顔を上げてその事に気が付いたのだろう。

 すぐに肩をがっしりと掴んで問いただす。


「貴様大丈夫なのか!?」

「ほ!? ほ!? な、何のことですかな!?」


 いや惚けんな!

 って言ってもこいつ操られてたから覚えてねぇのか!


 ていうかこいつなんともないのか!?

 大丈夫なの!?

 後遺症とかないかい?

 遠隔で操られたりとかしてない大丈夫??


 俺と鳳炎がバスティを突きまわしている所で、首根っこをマリアに掴まれて引きはがされる。

 急なことにバスティも混乱していた様だ。

 大丈夫だ俺たちも混乱している。


「一体どうしたのよ君たち」

「どうしようもこうしようもないぞ! こいつは……って言っていいのかこれ?」

「……本人の目の前で言うかどうかは任せる」


 あれは俺たちの間だけで共有されていた情報だからな……。

 それが城の方まで行っているかどうかは知らないが……。


「兄貴ー。とりあえず乗りましょうよ。早く城に行きたいっす!」

「いや、もう乗ってんじゃねぇか」


 いつの間にか俺たち以外は乗り込んでいた。

 置いてけぼりにされてる。

 バスティの事は気になるところだが、今は足元にも頭の上にも黒い塊はいない。

 洗脳は解かれているのだろうか……?


 と、とりあえず……乗り込むか……。

 洗脳されていた奴が運転する馬車とか怖すぎるが、今は危険は無さそうだし大丈夫……だよな?


「ウチカゲ……」

「あの方の事は鳳炎殿から聞きましたが、今は大丈夫だと思います。武器も持っていないようですし、騙し討ちなどはしないでしょう」

「だといいんだけど……」


 そう言いながら、俺も馬車に乗り込む。

 馬車は五人が乗っても余裕がある程のスペースがあった。


 権力者はこんなのばっかに乗ってんのか。

 俺たちが使ってたのなんて人が乗る事を前提とされていない物ばかりだったぞ。

 あ、因みにその馬車も壊れたようです。

 ムカデめ……。


 スターホースだけは無事らしいから、今度馬車が来たらそいつに引いてもらおう。


「で、では出発しますよ。よろ、宜しいですか?」

「大丈夫だよー。気を付けてね」

「はい、お任せください」


 怖がらせてしまったようだ。

 まぁそうなるのも仕方がないと思うんです。

 ここはちょっと許して欲しい。


 御者のバスティは手綱を引いて馬を動かした。

 ガタッと揺れて静かに進み始める。

 暫く動いた後、俺と零漸は同じ考えを抱いた。


「「乗り心地わるっ!」」

「どっこもこんなもんだよ」


 普通の馬車とほぼ乗り心地変わらなかった。

 良いのか貴族こんなんで……。

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