5.43.頼むからやめてくれ
おまっ!
どうしたどうした!?
何が気に食わなかったんだ零漸!
「おい零漸!」
零漸は俺の呼びかけを無視してそのまま歩いていく。
流石にこれは俺たちの方が悪い為、何を言われても謝るしかない。
すると、衛兵がすぐに飛び出してきて槍で零漸を囲む。
それに一度は足を止めた零漸だったが、すぐに右半分の槍を貫き手で全て折ってしまった。
「!!?」
衛兵は折れるはずがないと思っていた槍が折られて、相当困惑して数歩後ずさる。
今度は腰に携えてる剣を構えようとはしている様だったが、先程の零漸の強さを見て腰が引けてしまっていた。
いや零漸つっよ。
まだ武術使ってないのにこの強さかよ。
防御力も高いし、攻撃力も相当だからやっぱこいつ俺より強いわ。
じゃなくて!!
感心している場合じゃない!!
「零漸ちょっと待てって!」
「大丈夫っす!」
「「「「何が!?」」」」
何が大丈夫なの!?
お前が今何を考えてるか分からないから俺たちは怖いんだよ!
何しようとしてんだお前!
俺が前に出ようすると、衛兵数人が俺たちを囲んだ。
零漸一人に手も足も出せていない状況で、俺たちを動かしたくはないのだろうが……。
俺たちじゃなきゃ止められねぇぞ!?
流石にこれは止めないとマズい。
なので無限水操を使って捕まえようとしたのだが、零漸はその前に跳躍して王子の前に着地する。
足元が少し爆発していた所を見るに、爆拳の応用の様な技なのだろう。
その為、俺の無限水操が間に合わなかった。
今から動かそうとしても距離が結構ある為、零漸が一つ行動する分には何の支障ももたらせれないだろう。
やっべ。
零漸は、王子の脇を掴んで高く持ち上げる。
貴族や衛兵たちはそれを見て、王子を人質に取られた、と思っているに違いない。
そして、零漸はその状態のまま王子に言葉を投げかける。
「王子! ダサいっす!」
「えっ!?」
「くそダサいっす!!」
「余、余の事を馬鹿にするのか!?」
「でもダサいんだから仕方ないっす!! ぜんっぜんかっこよくないっす!!」
零漸のドストレート過ぎる言葉を聞いて、王子が思いっきり落ち込んだのがここでもわかる。
周囲はぶっちゃけ何言ってんだこいつ状態。
でもあいつが王子に危害を加えないという事は分かった……。
ビビらせやがって……。
ていうか初対面なのに失礼過ぎるだろ。
まぁ零漸だからな。
うん、コミュ障とか無縁の性格してるもんなあいつ。
英語できなくても海外で結構馴染めたらしいし、コミュ力お化けなんだね。
でもまぁ、あいつの言う通り、王子の服装がダサいというのはなんとなくわかる。
かっこつけたかったんだろうな。
でも背丈にあってない服装とか、歩き方とかあまりいい物とは思えなかった。
かっこいい物に目のない零漸のことだ。
ああいうのを見ているのは耐えきれなかったんだろう。
王子は暫くショックを受けている様だったが、はっと零漸の服装を見る。
同じマントを羽織っており、黒色をベースにする服装の上にベルトが多く巻き付けられていた。
胸には三角プレートが三点からベルトで固定されており、黒い服装の上にある金の刺繍は浮き出ている様にも見える。
それを見て、王子は目を輝かせた。
「お! おお! お前は何処でそんな服を見繕ってもらったのだ!?」
「これはガロット王国の鍛冶師による物っす!」
「か、かっこいい! 余もそんなのが着たいぞ!」
「いや、王族なんだからそれは難しいっすよ……。相応しい格好というのがあるっすよね?」
「うぬぅ……。ではどうすればよいのだー!」
持ち上げられている状態でパタパタと手足を動かして駄々をこねる。
しかし、零漸はそれを見ても困ったような顔はしない。
「大丈夫っすよ。俺みたいなのは無理っすけど、それらしい格好はできると思うっす」
「ほ、ほんとうか!?」
「だけど色々と修正しなきゃいけないところがあるっす! 歩き方とか振舞い方っす!」
「うぐ……。もう礼儀作法の教育は面倒くさいのだ……」
「普段教えてもらってるのって一般的な礼儀作法っすよね? でもかっこいい礼儀作法もあるんすよ!」
「なんだと!」
あっ。
あの王子、零漸と全く同じタイプじゃねぇか。
なんか和気藹々と話し始めたぞ。
おい、どうすんだ周囲の奴。
お前らの王子がコミュ力お化けに取られてんぞ。
てかこれ俺たちのこと完全に忘れ去られてるよな。
「これどうすんだ」
「わかんない。でも零漸楽しそう」
「いや……いくらこっち側の常識がないと言ってもあれはないだろ……。応錬、どうなっているのだ」
「零漸に常識を求めちゃいけない」
「まじか……」
なんたってあいつあんまり頭良くないから。
そういう雰囲気醸し出してるしね……。
零漸と王子は話が一段落したのか、とても楽し気に俺たちの方を見る。
「お前たち! 名前を何と言うのだ!?」
「お、ようやっと話が進む。俺は応錬だ」
「アレナー!」
「ウチカゲと申します」
「鳳炎である」
「俺も自己紹介が遅れたっすけど、応錬の兄貴をパーティーリーダとする霊帝メンバー、地帝の零漸っす!」
「おおおおおお! なんであるかそのかっこいい二つ名は! あ、余はこの国の王子のクライス・ウェイタルナ・スニッパーであるぞ!」
……そういえば初めて王子の名前知ったわ……。
知らなかったとか言ったら怒られそうだし、黙っておこう……。
てか本当にお父さんはいないんだね。
こんな時に国外にいるとか……何してんだ……。
「「では!」」
「え?」
零漸とクライスは、踵を返して奥に行こうとする。
それを見たバスティは流石に止めた。
「お、お待ちください! クライス様、まだ終わって……」
「余は冒険者を見たかっただけである。後は任せた!」
「そ、それはいいのですが……! ぼ、冒険者の方をどうなさるおつもりですかな……」
「む? 余の側近として置くつもりだぞ」
「え?」
「え?」
この発言には流石の零漸も疑問を抱いたようだ。
『『『ええーーーー!?』』』
「うっわびっくりした」
周囲にいた貴族や衛兵が全員同じ声を出す。
まぁこんな異例な事とかまずないわな……。
ていうかクライス王子って冒険者見たかっただけなんかい……。
でもなんの功績もない奴を呼ぶのは変だから、今回の戦いで活躍した奴を連れてきたって訳ね……。
そんでもって零漸と馬があってしまったと。
ていうかこれどうなるん?
こういう場合どうなるんだ。
「鳳炎?」
「私にも分からん!」
「だよなー」
その後、クライス王子は宣言をする。
「零漸は余の側近にする! 異論は認めんぞ!」
「クライス王子? そうやって権力振るうのはかっこ悪いっすよ」
「そ、そうなのか!?」
「それとさっきのマントっすけど、マントはこうやって翻したほうがかっこよく……」
零漸はクライス王子にレクチャーをし始めた。
仲良くなった二人は周囲の意見を完全に無視している。
でもまぁ、零漸はずっと王子の側にいるという事は無いだろう。
暫くは一緒にいるくらいなら問題ないだろうけどね。
「という事で兄貴! 暫く俺はここでお世話になるっす!」
「ああ。何かあったらこっちに来てくれたらそれでいい。楽しんで来い」
「うっす!」
『『『頼むからやめてくれ!』』』
貴族、衛兵、そしてバスティの悲痛の叫びを最後に、今回の謁見は幕を閉じた。
……のか?
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