11.7.奥義再び


 さすがに今考え付いたことを把握できるはずがなく、誰もが首を傾げた。

 まぁ当たり前の反応だ。

 逆にこれで分かったら怖いわ……。


 まぁ……これ言ったら怒られそうだけどね。

 うん。


「応錬、お前何をするつもりだ。なんだ四百年って」

「応龍の決定ってさ、何でもできるよな」

「お前貴様懲りてないだろ!!!!」

「やっぱそうですよねー!!」


 ダチアが立ち上がり、一歩で俺に詰め寄ってきた。

 踏み込みで畳が少し持ち上がる。

 机に乗っている書道道具が吹っ飛ばされないように机を押さえた。


 怒られるって分かってましたー!

 ダチアが怒るとマジで怖いんだけど!!


「でもまぁ眠るならいいじゃんっ?」

「んなわけあるか阿呆!! 次はどんな代償が待っているか分からないんだぞ!!」

「そのための封印でしょ。寝ていたら分かんないしね」

「その楽観的な思考は何処から湧いて出るんだ……ったく……」


 怒りながら再び座り直す。

 少しだけ乱暴に。


「……詳しく話せ」

「簡単に言うと、零漸とカルナと宥漸を四百年後に飛ばす」

「「え!?」」

「応龍の決定ならできるはずだ。俺たちがこの世界に来れたんだぜ? それくらいだったら簡単だろ」


 応龍の決定は、何でもできてしまう。

 その代償は大きいものとなるが、どうせ封印されて寝てしまうのだから関係ない。

 多分自分自身の身に起きることだろうしね。

 今回もそうだったし。


 四世紀飛ばせば、さすがにこの話も伝承として残るしかないだろうしな。

 人間の中で生き証人は現れないはずだ。

 これなら身を隠さずに家族で過ごすことができるだろう。

 この三人がこの時代で肩身狭く過ごすより、平和な時代に飛ばした方が楽しめると思う。


 ああ、四百年後の何処に飛ばすとかも指定しておいた方が良いだろうけどな。

 まぁその辺は、俺が実際に封印される前までに決めておけばいい。

 封印される直前に使う予定だしね。

 実質プラマイゼロですよ。


「あー……んー……」

「どうされました? バルト兄様?」

「いや、うん。その場合、零漸君は連れて行っちゃダメかも」

「え? っていうか信じるのか」

「まぁ応錬君だしね」

「何それ納得できない」

「えーと、バルト兄様。なぜ零漸さんは四百年後に連れて行っては駄目なのですか?」


 話が逸れていくことに気付いて、アスレがすぐに軌道修正をしてくれた。

 バルトは一度頷いてから、その理由を話す。


「零漸君が封印を拒む以上、君は他の人々から認知されていなければならないでしょ。自分は攻撃系技能を持ってない無害な存在だってことも知られないといけない。急に存在そのものが消えたら……困惑するの確実。それからどうなるかはなんとなく予想がつくことだと思うけど」

「確かに本当に無害なのか確かめさせろ、という者が出てきてもおかしくはありませんね……。ですが未だにカルナさんと宥漸さんのことは広く知られていないので……お二人は四百年後に飛ばすことが可能、ということですか」

「ま、マジっすか……」


 零漸が手を畳に付けて深刻そうにしていた。

 しかし……バルトの言うことはよく分かる。

 逃げました、で隠し通すことはできるかもしれないが、相手方はそれで良しとはしないだろう。

 封印されない以上、こちらの出方を伺ってくるはずである。


 危険な存在が逃亡。

 そうなった場合は捜索が行われるだろうし、匿っていたとされる前鬼の里は徹底的に調べられるかもしれない。

 協力関係にあるサレッタナ王国やバミル領もそうかもしれないな。


 それを回避するには、零漸がこの場に留まって自分の存在を人間に示さなければならない。

 危険な存在ではないことを、アピールしなければならないのだ。


 んで、カルナと宥漸がここに残れば……危険が迫りくる可能性がある……と。

 しかし四百年後に二人を飛ばすのであれば、零漸が残らなければならない……か。


 三人で細々と暮らすのも一つの手だろう。

 だが……そんな生活はあまり好ましいとは言えない。

 誰もそんな未来は望まないだろう。


「こればっかりは、零漸君とカルナ君が決めるべきだよ」

「……うん」

「……どうしよう……」


 二人もそのことは分かっている。

 だが、決めにくい。

 決定を下すのに時間が必要だった。


 ……よし、じゃあ俺は……。


「ウチカゲ。天打の墓参りに行こう」

「はっ」


 皆がいる場所で決めるってのは、難しいだろうからな。

 落ち着いた環境で決めてもらいたい。

 その決断に、俺は従おう。


 俺のやることは決まっちゃったしな。

 あとは……その時になるまで自由に過ごしたいところだ。


「あ、アスレ、バルト。俺の決めたことを敵国に伝えることはできるか?」

「……何とかしましょう。向こうもこの提案には乗るでしょうからね」

「そうだね。ちょっと時間はかかると思うから、それまで自由にしていればいいけど……。時間が経って考えが変わったりしないでね?」

「大丈夫だ」


 ……多分。

 いや、まぁ流石に決めたことを曲げたりはしたくないしな。


 あとのことをこの二人に任せて、俺は天打の墓参りに行くことになった。

 それにはアレナと姫様、鳳炎が付いてくるようだ。

 他の仲間たちは、違うことをしに行くらしい。


 アスレとバルトは俺の決めたことを報告しに行くことになるのだが、零漸とリゼがどうするかを決めてから報告をしに行くことになる。

 ライキたちはまだ起こっている戦争を終わらせるために準備をしてくれるそうだ。

 ありがたい。


 じゃ、いくか。

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